今回の記事ではプラントで使用される泡消火薬剤の分類と特徴について解説します。
プラントでは、特に引火性、可燃性液体の消火剤として泡消火が用いられることがあります。
泡消火は水による消火と比較して消火能力に優れる(窒息効果や冷却効果など)ことから広範囲の火災の初期消火に適するとされています。
泡消火の原理は次の通りです。
泡消火の原理
・炎を窒息させ、可燃性ガスと空気の混合を防ぐ
・可燃性液体の気化を抑制する
・燃料の表面と火炎を分離する
・泡と接触した金属表面と燃料表面を冷却する
一方、泡消火が不適切なケースもあり、消火方式の検討にあたっては十分注意が必要です。
泡消火が適用できないケース
・ 泡で覆うことが困難な液体燃料による火災
・ 可燃性ガスに起因する火災
・ 酸素を発生する化学物質による火災
・ 通電状態の電気設備の火災
・ 水に反応する物質(禁水性物質)の火災
また、泡消火に用いられる薬剤も様々な種類があり、場所や火災のタイプ、対象物質によって適切なものが選定されなければなりません。
次項からそれぞれの泡消火薬剤の分類と特徴について解説します。
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膨張比(発泡率)による分類
泡消火薬剤は、その膨張比(発泡率)により低発泡から高発泡に分類されます。
例えば、消防法では以下のように分類されます。
消防法施行令による分類
低発泡:膨張比≦20
高発泡:80≦膨張比<100
また、NFPA11においては、以下のように分類されます。
NFPA11による分類
低発泡:膨張比<20
中発泡:20≦膨張比200未満
高発泡:200≦膨張比<1000
それぞれの膨張比(発泡率)の特徴は以下の通りです。
低発泡
低発泡の泡消火薬剤は、主に液体単価水素のプール火災に対して、最も広く使用されています。
また、遠距離まで噴射することが可能なので、対象設備を泡で覆いやすく、覆うことによる冷却効果も期待されます。
泡消火薬剤の種類は放出量によらず、低発泡の泡で消火可能なプール火災の最大面積は7000m2が一般的です。
中発泡
中発泡の泡消火薬剤は、散布時において高発泡の泡よりも風の影響が小さいため、主に屋外での散布に利用されるタイプです。
泡に厚みがあるため、固体燃料や液体燃料のプール火災の他、有毒液体の蒸発の抑制に有効とされています。
高発泡
高発泡の泡消火薬剤は、特に閉鎖空間での消火に適しています。
泡が高発泡であることで、気化した炭化水素の拡散方向が上方向に限定されるため、結果的に拡散を抑制することが可能です。そのため、LNGのような気化、拡散しやすい炭化水素に適用されることがあります。
ただし、高発泡の泡は風の影響を受けやすいため、屋外への適用は不適とされています。
高発泡の泡をClassAの火災に使用する場合は、その厚さの目安は消火対象物の110%、かつ60cm以上とすることが一般的です。
消火薬剤による分類
泡消火薬剤は、以下のように分類できます。
泡消火薬剤の分類
・ たん白泡消火薬剤
・ 合成界面活性剤泡消火薬剤
・ 水成膜泡消火薬剤
・ 耐アルコール泡消火薬剤
たん白泡消火薬剤
たん白質を加水分解したものを基材とする泡消火薬剤で、低発泡の泡として使用されます。
また、泡の持続安定性、耐火性、耐熱性、耐腐食性、耐凍結性に優れています。
泡の粘性が高いので流動性に劣りますが、フッ素系の界面活性剤を添加することで流動性を改善させたものもあります。
合成界面活性剤泡消火薬剤
合成界面活性剤を基材とする泡消火薬剤です。
主にエンクロージャーを満たすために使用されますが、中発泡や高発泡タイプは専用のフォームメーカーが必要です。
また、タイプによっては移動式泡消火設備からの散布に適用できないこともあるので注意が必要です。
水成膜泡消火薬剤
水成膜泡消火薬剤は基材としてフッ素系の界面活性剤が使用され、安定剤と耐凍結剤が添加されており、低発泡タイプに適用されます。
表面張力の低下能力が高いため、流動性に優れており、素早く燃焼面に広がるという特徴があります。
ただし、他の消火薬剤とは消防法などの関連法規での扱いが異なるので注意が必要です。
耐アルコール泡消火薬剤
このタイプは上述の泡消火薬剤が有効でない場合に適用されます。
例としてメタノールなどの水溶性物質の火災消火に使用されます。
このタイプには様々な種類があり、例えば、タンパク質などの天然高分子にアルコール不要物質やゲル化剤を添加したものや、合成界面活性剤にゲル化剤を添加したものがあります。
泡の物性
各泡消火薬剤で要求される主な物性は以下の通りです。
拡散性
泡消火薬剤の拡散性は動粘度で規定されており、使用温度範囲で0.2 St(たん白泡消火薬剤では0.4 St)であることが要求されます。
※実際にはそれぞれの技術上の規格を定める省令に従います。
水素イオン濃度(pH)
泡消火薬剤は腐食を避けるため、水素イオン濃度(pH)は以下の通りに規定されています。
泡消火薬剤の水素イオン濃度(pH)
たん白泡消火薬剤:6.0~7.5
合成界面活性剤泡消火薬剤:6.5~8.5
水成膜泡消火薬剤:6.0~8.5
耐アルコール泡消火薬剤:6.0~7.9
濃度
泡消火薬剤は、使用する際に水で希釈して泡水溶液として使用されます。
希釈時の濃度は一般的には3%~6%となるようにします。
25%還元時間
25%還元時間とは、放出された泡の全体のうち、25%が泡から泡水溶液に戻るための要する時間のことを指します。
25%還元時間の必要時間は最低1分以上であることが要求されます。
※水成膜泡消火薬剤以外の剛性界面剤泡消火薬剤はでは3分以上必要
使用可能温度
泡消火薬剤の性能は温度によって左右されます。
泡消火薬剤の種類によって異なりますが、一般的には0-50℃が温度範囲です。
混合の注意点
メーカーが混合可能を認めた場合を除いて、異なる種類の泡消火薬剤を混合して貯蔵することは認められておりません。
また、実際の消火では、初期消火の段階で粉末消火器を使用したあとに、泡消火薬剤を使用する可能性もあります。そのような場合は、結果的に混合して使用することになるため、事前に粉末消火剤と泡消火剤のメーカーに混合可能かどうかを確認しておくことが重要です。
一般的には、水成膜泡消火薬剤と粉末消火剤は混合可能です。