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爆発範囲における三角図の読み方、使い方-希釈ガスの効果-

今回の記事では爆発範囲における三角図の使い方について解説します。

また、三角図を利用した希釈ガスの効果についても解説します。

 

可燃性ガスを扱うプラントで重要なのは、「いかに爆発範囲に入れないように取り扱うか」です。

プラントのメンテナンスなどで、機器、配管を開放する際は空気が混入するため、解放前に不活性ガス(窒素など)で希釈してしっかりとパージすることが重要です。そのため、プラントエンジニアは取り扱っている可燃性ガスをどの程度希釈すれば、爆発範囲から外れるか確認する必要があります。

これを確認するための便利なツールとして三角図を用います。三角図を利用することで、希釈ガスの必要濃度の算出限界酸素濃度の算出が可能となりますが、読み方、使い方に多少コツが必要です。

プラントエンジニアにとっては必要な知識の一つですので、ぜひ覚えるようにしてください。

この記事の解説内容

・三角図の読み方、使い方
・希釈ガス必要濃度の算出方法
・限界酸素濃度の算出方法

また、三角図の読み方については、高圧ガス保安法の筆記試験(学識)でも問われる内容ですので、資格試験を勉強をしている方もぜひご一読下さい。

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三角図の読み方、使い方

水素-空気系の爆発範囲に及ぼす窒素の希釈効果を示す三角図が上図です。

三角形の左辺が水素濃度、底辺が空気濃度、右辺が窒素(希釈ガス)濃度です。

また、薄赤色の範囲が爆発範囲を示し、その範囲の底辺が爆発下限界、右辺が爆発上限界です。

注:水素-空気系の爆発範囲は三角形に近い形ですが、爆発性ガスの種類や希釈ガスの種類が異なる場合、三角形以外の爆発範囲はを示すこともあるので、文献等で確認するようにして下さい。

 

一例として、水素:50vol%、空気:40vol%、窒素:10vol%の組成のガスを青丸でプロットしました。

座標の読み方はプロットの点から左、右上、右下に伸ばした線と軸の交点を読み取ります。よく使われるx-y座標と読み方が異なるので、ある程度の慣れが必要です。

 

また、この図から分かることで重要なのは、爆発下限界と爆発上限界の希釈ガスによる変動割合です。

希釈ガス濃度を増加させた場合、爆発下限界濃度は爆発範囲の底辺に沿って右方向へずれていきます。

しかし、上下方向にはほとんどずれていないことが分かります。これが意味することは、希釈ガス濃度を増加させても爆発下限界はほとんど変わらない、ということです。

一方、爆発上限界は爆発範囲の右辺に沿って右下方向へずれていきます。

この時、上下方向にも大きくずれています。これが意味することは、希釈ガス濃度を増加させると爆発上限界は大きく変動する、ということです。

例えば、窒素濃度を60%とした場合、爆発上限界は15 vol%程度まで低下します。

希釈ガス必要濃度算出例

三角図を用いた希釈ガス必要濃度算出例について解説します。

例として、水素:60vol%、空気:40vol%のガスを窒素によって希釈して行き、何%の窒素濃度で爆発範囲から外れるか、三角図を使って求めます。

希釈前は窒素濃度:0%なので、上図の青丸プロットの部分です。当然ながら爆発範囲に入っています。

まず、青丸プロットから、窒素100%の点(三角図の右の頂点)に向かって直線を引きます。(青線

そうすると、この直線と爆発上限界との交点が求まります。この交点が爆発範囲から外れるための希釈ガスの必要濃度です。

今回の算出例だと、図から読み取った結果、窒素濃度が35%となるので、窒素で35%まで希釈することで爆発範囲から外すことが可能となります。

限界酸素濃度の算出

三角図の重要な使用目的として挙げられるのが、限界酸素濃度の算出です。

限界酸素濃度とは、可燃性ガスや希釈ガスの濃度がどのような濃度であろうと、絶対に爆発範囲には入らない時の酸素濃度です。

限界酸素濃度以下で管理することを徹底しておけば、可燃性ガス濃度、希釈ガス濃度を気にしなくても良いので、プラントを設計・運転する上で非常に重要な数値です。

算出例として水素-空気系の窒素希釈時の限界酸素濃度を算出します。

限界酸素濃度は三角図上で、爆発上限の線上(爆発範囲の右辺上)で、三角図の右辺と同じ傾きの接戦を引き、三角図の底辺との交点から求まります。

上図中では青破線がその接線となります。

また、この時の空気濃度は三角図からの読み取りで24vol%です。さらに、空気中の酸素濃度は21vol%なので、上記の混合ガス中の空気中の酸素濃度が0.24*0.21≒0.05で5vol%となるので、限界酸素濃度は5vol%となります。
(正式な言い方ではないですが、24vol%は「限界空気濃度」と言い換えることも出来ます。実際の運用は空気の量で管理しますので、こちらの方がイメージしやすいかもしれません。)

 

上図では、水色で示した領域が、水素濃度、窒素濃度によらず爆発範囲には入らない領域です。

図形的に理解をするならば、空気濃度を固定すれば、三角図上では水素濃度、窒素濃度が変動しても左上か右下にしか動くことができないということです。

例えば、水素:60vol%、空気:10vol%(酸素:2.1vol%)、窒素:30vol%のガスであれば、水素を40vol%、窒素を50vol%にしても空気が10vol%なので、爆発範囲には入りません。

 

上記で求めたのは窒素で希釈した場合ですが、希釈するガスの種類によっては限界酸素濃度は変わります。

一例として、窒素と二酸化炭素を希釈ガスとした場合の主な可燃性ガスの限界酸素濃度を記載します。

ガスの種類 限界酸素濃度(N2希釈) [vol%] 限界酸素濃度(CO2希釈) [vol%]
メタン 12.1 14.6
エタン 11.0 13.4
プロパン 11.4 14.3
ブタン 12.1 14.5
ペンタン 12.1 14.5
ヘキサン 11.9 14.5
ガソリン 11.6 14.4
エチレン 11.0 11.7
プロピレン 11.5 14.1
シクロプロパン 11.7 13.9
ブタジエン 10.4 13.9
ベンゼン 11.2 13.9
水素 5.0 5.9
一酸化炭素 5.6 5.9

 

まとめ

今回の記事では爆発範囲における三角図の使い方、及び三角図を利用した希釈ガスの効果についても解説しました。

この記事のポイント

・三角図の読み方、使い方
・希釈ガス必要濃度の算出方法
・限界酸素濃度の算出方法

三角図の使い方は実業務だけではなく、高圧ガス保安法の筆記試験(学識)でも問われる内容ですので、プラントエンジニアだけではなく、高圧ガスの資格取得を目指している方にとっても理解しておくべき内容です。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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