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水素ステーション建設はどんな制約を受ける?高圧ガス保安法の技術基準の解説

今回の記事では新規に国内プラントを建設する際に、適用される高圧ガス保安法の技術基準について解説します。

こちらの記事でも解説した通り、今後は国内でも水素製造プラントや水素ステーションの建設需要が増えていくと予想されています。

しかし、水素プラントや水素ステーションの建設においては、特に圧縮水素を取り扱う場合(圧縮水素スタンド)は高圧ガス保安法の規制を受けます。

そこで、今回は高圧ガス保安法により、水素プラント、水素ステーションの建設でどのような技術基準が要求されるか解説します。

注意

本記事の内容は水素ステーションの建設を想定しており、最新版の高圧ガス保安法一般則に基づいた内容となっておりますが、実プラントの設計業務を行う際や、液石則、コンビ則の適用を受けるプラントを設計する際は、かならず原本の確認及び官庁へ確認下さい。

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高圧ガス保安法の適用

高圧ガス保安法の規則

高圧ガス保安法では、いくつかの規則が制定されており、どの規則を適用するかで技術基準も異なります。

高圧ガス保安法の規則

・一般高圧ガス保安規則(一般則)
・液化石油ガス保安規則(液石則)
・コンビナート等保安規則(コンビ則)
・冷凍保安規則(冷凍則)
・容器保安規則(容器則)
・特定設備検査規則

例えば、水素ステーション(圧縮水素スタンド)を市街地に建設する場合は、「一般高圧ガス保安規則」「容器保安規則」「特定設備検査規則」の技術基準が適用されます。

また、石油化学コンビナート内に水素製造プラントや水素ステーションを建設する場合は「コンビナート等保安規則」の技術基準が適用される可能性があります。

コンビ則は一般則に規制内容が柄されたもので、コンビ則に該当すると、より厳しい技術基準が適用されますが、詳細について本記事では省略します。

コンビ則の適用基準

コンビナート地域に該当する場合

コンビナート地域とは、製造事業所が集中して設置されている地域で、コンビ則の別表で指定される地域です。

コンビ則上で特定製造事業所に該当する場合

特定製造事業所に該当するのは次のような事業所です。

① コンビナート地域内の製造事業所で、

(1) 燃料用又は容器充填を主とする製造事業所で2000m3または20t以上の可燃性ガス貯槽を設置していない事業所

(2) 不活性ガス、空気を製造する事業所

上記(1)、(2)を除く事業所。

② 保安用不活性ガス以外のガス処理能力(空気は1/4で計算)が100万m3(充填所は200万m3)以上の製造事業所

③ 工業専用地域、または工業地域以外の地域で保安用不活性ガス以外のガス処理能力(空気は1/4で計算)が50万m3(充填所は100万m3)以上の製造事業所

ガス種、製造量による分類

ガスの種類

高圧ガス保安法では、ガスの種類「可燃性ガス」「毒性ガス」「不活性ガス」「特殊高圧ガス」に分類しています。

ガスの種類

・可燃性ガス
・毒性ガス
・不活性ガス
・特殊高圧ガス

水素ステーション家、オフサイト水素ステーションであれば、登場するガスは水素のみですが、オンサイト水素ステーションでは水素の他にいくつかのガスが登場します。

補足:

オフサイト水素ステーション・・・トラックやローリーで圧縮水素を外部から運んでくる形式。水素ステーションではその水素を圧縮するのみ。

オンサイト水素ステーション・・・水素ステーションその場で水素を製造する形式。原料は都市ガスを用いることが多く、水素製造、精製、圧縮をその場で行う。

ガス種 高圧ガス保安法上の分類
水素 可燃性ガス
メタン 可燃性ガス
エタン 可燃性ガス
プロパン 可燃性ガス
ブタン 可燃性ガス
酸素 -
一酸化炭素 毒性ガス
可燃性ガス
二酸化炭素 不活性ガス
窒素 不活性ガス

第一種ガス.第二種ガスの分類

高圧ガス保安法ではガスの種類で第一種ガスと第二種ガスに分類されます。

分類 ガス種 第一種製造者となる製造量
第一種ガス ヘリウム、キセノン、ネオン、ラドン、アルゴン、空気、窒素、クリプトン、二酸化炭素、フルオロカーボン(難燃性) 300 Nm3/day
第二種ガス 第一種ガス以外のガス 100 Nm3/day

第一種ガスよりも第二種ガスの方が危険性が大きいので、第一種製造者といなる製造量の基準値が小さくなっています。

なお、第一種製造者に該当すると規制が厳しくなり、プラント製造や変更の許可が必要となります。
(第二種製造者では届出のみで良い)

 

水素はガスの分類では第二種ガスに分類され、一般的に水素ステーションで取り扱う量は100Nm3/dayなので、水素ステーションは第一種製造者に該当します。

配置関係の技術基準

保安距離

配置関係で最も制約を受けるのは、他の設備や建物との保安距離です。

水素ステーションを建設する際は必要な保安距離を満足するような配置にしなければなりません。

項目 該当ガス 省令 保安距離
第一種保安物件
(学校や病院など)
可燃性ガス
毒性ガス
酸素
その他ガス
一般則 6.1.2
コンビ則 5.1.7
第一種設備距離(後述)
第一種保安物件
(一般住宅など)
可燃性ガス
毒性ガス
酸素
その他ガス
一般則 6.1.2
コンビ則 5.1.7
第二種設備距離(後述)
火気を取り扱う施設 可燃性ガス 一般則 6.1.2
コンビ則 5.1.65
8m
他の可燃性ガス製造設備 可燃性ガス
酸素
一般則 6.1.4
コンビ則 5.1.11
5m
酸素の製造設備 可燃性ガス
酸素
一般則 6.1.4
コンビ則 5.1.11
10m
可燃性ガスの貯槽と
他の可燃性又は酸素の貯槽
可燃性ガス
酸素
一般則 6.1.5
コンビ則 5.1.13
1m又は最大直径の和の1/4の
大きい値
危険物施設
(一般取扱所、屋外タンク貯蔵所、
製造所、屋内貯蔵所、屋外所蔵所)
消防法/危険物規則
第12条
20m
危険物施設
(移送取扱所、移送取扱所の配管)
消防法/危険物細目告示
第32条 2,3項
35m
敷地境界 コンビ則5.1.8 20m

第一種設備距離

第一種保安距離は処理能力やガス種によって決まります。

第一種保安距離の算出方法は以下の通りです。

ガス種 0≦X<10,000 10,000≦X<52,500 52,500≦X<990,000 990,000≦X
可燃性ガス
毒性ガス
12√2 3/25√(X+10,000) 30
(低温貯槽:3/25√(X+10,000))
30
(低温貯槽:120)
酸素 8√2 2/25√(X+10,000) 20
(低温貯槽:2/25√(X+10,000))
20
(低温貯槽:80)
その他ガス 16/3√2 4/75√(X+10,000) 13 1/3 13 1/3

X:処理能力 [Nm3/day]

第二種設備距離

第二種保安距離は第一種同様に処理能力やガス種によって決まります。

第二種保安距離の算出方法は以下の通りです。

ガス種 0≦X<10,000 10,000≦X<52,500 52,500≦X<990,000 990,000≦X
可燃性ガス
毒性ガス
8√2 2/25√(X+10,000) 20
(低温貯槽:2/25√(X+10,000))
20
(低温貯槽:80)
酸素 16/3√2 4/75√(X+10,000) 13 1/3 13 1/3
その他ガス 32/9√2 8/225√(X+10,000) 8 8/9 8 8/9

X:処理能力 [Nm3/day]

設計関係の技術基準

プラント、水素ステーション内の各設備、計器などについても様々な技術基準により制約を受けます。

各機器や計器を購入する場合、購入仕様書に高圧ガス保安法に該当する旨を明記しておく必要があります。

設備の設計、調達業務で必要な対応は以下の通りです。

・設計要求(安全弁の設置、材料規制、強度計算書の作成など)

・工場検査要求(耐圧試験、気密試験の実施、ミルシート提出など)

・官公庁申請書類(上記等の要求事項を満足している事の根拠として)

また、ガス設備の内圧力1MPa(g)未満の設備は高圧ガス保安法は原則適用外ですが、一般則6.1.14を受けて、ミルシートの提出を要求されることが多いです。消費設備もガス設備同様にミルシートの要求を受ける可能性が高いので、ガス設備として設計・購入する必要があります。

設計関係の主な技術基準を挙げると以下の通りです。

貯槽の識別

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素

技術基準内容:
 直径の1/10以上の幅で帯状に赤色塗装、外部から見やすいようにガス名を朱書、貼付することなど。

 

防液堤(ダイク)

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素

技術基準内容:
 1000ton以上の可燃性ガス・酸素、5ton以上の毒性ガス貯槽の周囲に液状ガスが漏洩した場合に、流出防止措置を講ずる。

 

防液提内での設備制限

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素

技術基準内容:
 防液提の内側及び外面から10mに、大臣が定めるもの以外を設けない。

 

ガスの滞留防止

該当ガス:
 可燃性ガス

技術基準内容:
 製造設備の内部はガスが滞留しない構造とする。水素のように、空気より比重が小さい可燃性ガスの場合、十分な面積を有する二方向以上の開口部または換気装置もしくはこれら併設によって通風を良好にした構造とする。

 

気密な構造

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素

技術基準内容:
 ガス設備は気密な構造とする。

 

耐圧性能、気密性能

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 耐圧試験、気密試験合格する事。

 

機器の肉厚

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 常用圧力以上又は常用温度で発生する最大の応力に対し、降伏を起こさない肉厚であること。
※法規では「常用圧力」「常用温度」と記載されていますが、本記事では設計圧力設計温度とみなします。

 

材料規制

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 ガス種・性状・温度・圧力等に応じた適切なものであること。

耐震構造

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 塔・貯槽(300m3または3t以上)と配管(φ45以上の地震防災遮断弁で区切られた容積3m3以上のもの等)並びにこれらの支持構造物と基礎は耐震告示に定める耐震構造であること。

 

温度計など

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 温度変化を伴う高圧ガス設備には温度計を設け、常温を超えた場合に直ちに常用温度にもどすことができる装置を講ずる。

 

圧力計、安全弁など

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 高圧ガス設備には圧力計を設け、かつ許容圧力を超えた場合に直ちに許容圧力以下にもどすことができる安全装置(安全弁など)を設ける事。安全弁又は破裂板には放出管を設けること。可燃性ガスの貯槽の場合、地盤面から5m又は貯槽から2m以上の高さとすること。

 

貯槽の二重バルブ

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 貯槽に取り付けた配管には緊急遮断装置に係わるバルブのほか、2以上のバルブを設けそのうち1つは貯槽の直近に設置する

 

電気設備の防爆

該当ガス:
 可燃性ガス

技術基準内容:
 可燃性ガスの電気設備は防爆性能を有する構造とする事。

保安電力

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 自動制御装置および製造設備に係わる散水装置、防消火装置等には保安電力を保有する等の措置を講ずる。

 

ガス検知警報機

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス

技術基準内容:
 製造施設から漏洩するガスが滞留する恐れのある場所に警報設備を設けること。

 

温度上昇防止措置

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス

技術基準内容:
 可燃性ガス・毒性ガスの貯槽、又はその他の貯槽であって、可燃性ガスの貯槽又は可燃性物質を取り扱う設備の周辺にある貯槽及び支柱には、温度の上昇を防止する措置を講ずること。

 

配管の接合

該当ガス:
 毒性ガス

技術基準内容:
 毒性ガスの配管、管継手およびバルブの接合は溶接により行う事。溶接が適当で無い場合はフランジも可。

 

静電気除去

該当ガス:
 可燃性ガス

技術基準内容:
 可燃性ガスの製造設備に生じる静電気は除去する措置を講ずる事。接地抵抗値は、総合100Ω以下(避雷設備を設けるものについては、10Ω以下)とする。

 

防消火設備

該当ガス:
 可燃性ガス、酸素

技術基準内容:
 可燃性ガスおよび酸素の製造設備は防消火設備を設ける事。

 

通報設備

該当ガス:
 可燃性ガス、毒性ガス、酸素、その他ガス

技術基準内容:
 事業所内で、緊急時の連絡を速やかに行うことができる通報設備を設置する。

まとめ

今回の記事では新規に国内プラントを建設する際に、適用される高圧ガス保安法の技術基準について解説しました。

今後は国内でも水素製造プラントや水素ステーションの建設需要が増えていくと予想されていますが、特に圧縮水素を取り扱う場合(圧縮水素スタンド)は高圧ガス保安法の規制を受けます。

これまでは水素への関りが無かったプラントエンジニアも、これらの建設、運転に関わる機会も増えてくると思います。水素を取り扱う上でも重要な内容なので、本記事はぜひ理解しておいて下さい。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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