プラントエンジニアリング プロセスエンジニアリング 技術情報

「設計温度」「最高運転温度」「最高使用温度」は何が違う?各温度について徹底考察

今回はプラントエンジニアリングに登場する様々な温度について解説したいと思います。

 

プラントに関わるエンジニアなら必ず一度は「設計温度」「運転温度」などを目にしたことがあるはずです。

また、高圧ガス保安法では「常用の温度」「最高使用温度」という温度も登場します。

さらに海外プラント、特に寒冷地におけるプラントでは「CET」「MDMT」という温度も登場することもあります。

 

今回、これらの温度の違いついて整理しましたので解説いたします。

圧力については、こちらの記事で解説しております。

 

これだけ徹底的に比較した記事は他にないと思います。

プラントエンジニアだけでなく、プラント業界に関わりのある方なら知っておいて損はない情報なので、ぜひ一読下さい。

設計温度の決定方法についてはこちらの記事を参照下さい。

合わせて読みたい

・Lethal Serviceとは?毒性物質のプラント設計への影響、判定基準について解説
・プロセスエンジニアって何をする仕事?
・プラントエンジニアはブラックか?プラント設計概要と共に解説
・化学工学ってプラントエンジニアリングのどんな場面で使われる?
・化学メーカーとプラントエンジニアリング会社はどう違う?【就職・転職】
・【気液平衡】プラント設計で使用される気液平衡の推算モデルの解説
・横型タンクの内容量の計算方法の解説~タンクテーブルの作成~
・縦型タンクの内容量の計算方法、タンクテーブルの作成方法

・【プラント設計基礎③】プロセスフロー図(PFD)、マテリアルバランス
・【プラント設計基礎④】運転法案(POD作成)~P&ID作成の準備~
・【プラント設計基礎⑤】P&ID~プラント建設プロジェクトにおける位置づけ~
・【プラント設計基礎⑧】設計圧力、設計温度の決定方法の解説
・【材質】応力緩和割れとは?オーステナイト系ステンレス鋼の注意点
・【材質】ステンレスが水で腐食する?微生物腐食の原理と対策
・【材質】水素配管の材質は炭素鋼?ステンレス鋼?水素浸食と水素脆性について解説
・【材質】極低温環境下における圧力容器に使用される材料選定について解説

・【配管】放熱/入熱による任意の地点における配管温度の導出
・プラント建設プロジェクトでは頻出!必ず覚えておきたい契約用語、貿易用語集
・プラントエンジニア必見!プラント設計でよく使うエンジニアリング用語集
・ガスの爆発限界の推定方法(ルシャトリエの法則・温度依存性・圧力依存性・未知の化合物)の解説
・水素ステーション建設はどんな制約を受ける?高圧ガス保安法の技術基準の解説
・【ブルー水素】伊藤忠はなぜエアリキード社と組んだのか?国内最大の水素製造プラント建設プロジェクト

運転温度

これは説明不要でしょう。運転温度とはその名称の通り、プラントが通常状態で運転されているときの温度のこと言います。

なお、運転状態が複数あるときは、それぞれの温度を運転温度と呼びます。

運転温度の一例

(1) スタートアップ直後と定期シャットダウン直前とで、運転状態が経時的に変化する場合の、それぞれの温度
(2) 触媒の再生で、通常の運転よりも温度上げて運転しているときの温度

運転温度はプロセスフロー図(PFD)上に記載されます。上記のように複数の運転状態がある場合は、PFD上でも分けて記載する場合があります。

PFDについてはこちらの記事を参照ください。

常用の温度

高圧ガス保安法では「容器、装置等において通常使用される状態での温度」と定義されています。

この表記だけだと、上記の運転温度と同じ意味にとれます。

しかし、実際の運用上での常用の温度は、安全サイドで考え、複数の運転状態の中で想定し得る最も高い温度を採用するので、運転温度中での最高の運転温度、すなわち最高運転温度のことを言います。

注意点として、常温という言葉がありますが、これは一般の空気温度(20~30℃)を指し、常用の温度とは全く異なります。

混同しないようにご注意下さい。

なお、複数の運転状態で最も低い運転温度は最低運転温度と定義します。

設計温度

設計温度の定義は高圧ガス保安法を始めとする各種法規でも明確ではなく、解釈の仕方によっては複数の意味にとれるようです。
(設計温度=常用の温度と解釈するケースもあり)

経済産業省の通達では、設計温度は最高使用温度、最低使用温度と読み替えると記載がありました。

これらは最高運転温度、最低運転温度と混同しがちですが、意味は異なります。

 

最高(最低)使用温度は最高(最低)運転温度から計算して求める温度です。

先ほどの解説では最高(最低)運転温度は、あくまでも複数ある運転ケースの中で最も温度が高い(低い)運転温度です。

つまり、最高(最低)運転温度は通常の運転の範囲内の温度です。

この運転状態から、プラントに何か異変(Design Contingency)が発生することで、通常の運転範囲から逸脱して到達しうる温度が最高(最低)使用温度、即ち設計温度です。

 

よって、設計温度は運転温度を元に決定されるのですが、一般的には「運転温度+〇〇℃」といった決定方法があるでしょう。

しかし、上記の通り「プラントにどのような異変が生じる可能性があるか」をすべて予想しなければなりません。

これをどのように決定するかは、プロセス設計担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)の腕の見せどころです。

設計温度の決定方法についてはこちらの記事を参照ください。

ここでは、「設計温度は運転温度を元に決定される」ことを理解しておけば良いでしょう。

CET

海外のプラント建設プロジェクトではCETという温度が登場することがあります。

CETとは「Critical exposure temperature」の略称です。

wikipediaをを引用すると、

Critical exposure temperature (CET) is the lowest anticipated temperature to which the vessel will be subjected, taking into consideration lowest operating temperature, operational upsets, autorefrigeration, atmospheric temperature, and any other sources of cooling. In some cases it may be the lowest temperature at which significant stresses will occur and not the lowest possible temperature.

という記載があります。

基本的な考えとしては、上述の最低使用温度と同じ意味と理解しておけばよいでしょう。

ただし、”In some cases it may be the lowest temperature at which significant stresses will occur and not the lowest possible temperature. "の通り、選定する材料次第で、最低使用温度よりも高い温度で、大きな引っ張り応力が発生する場合は、その温度をCETとすることもありますので、一応認識はしておいた方が良いと思います。

MDMT

MDMTは「Minimum Design Metal Temperature」

の略称です。

海外プラント建設プロジェクトでは、ボイラやドラムなどの圧力容器の設計は、ASME(American Society of Mechanical Engineers)規格に基づきますので、よく見かける温度です。

wikipediaをを引用すると、

MDMT is one of the design conditions for pressure vessels engineering calculations, design and manufacturing according to the ASME Boilers and Pressure Vessels Code. Each pressure vessel that conforms to the ASME code has its own MDMT, and this temperature is stamped on the vessel nameplate. The precise definition can sometimes be a little elaborate, but in simple terms the MDMT is a temperature arbitrarily selected by the user of type of fluid and the temperature range the vessel is going to handle. The so-called arbitrary MDMT must be lower than or equal to the CET (which is an environmental or "process" property, see below) and must be higher than or equal to the (MDMT)M (which is a material property).

という記載があります。

簡単に内容を記載すると、圧力容器自体の設計(例えば、強度計算、板厚の算出など)のために使用される温度がMDMTです。

最低使用温度やCETはプラントの運転温度から算出されるのに対し、MDMTは最低使用温度、CETをもとに、圧力容器自体の設計をするために使用される温度と理解しておけば良いと思います。

そのため、圧力容器の設計を安全サイドで行うためにMDMTはCET以下の温度とする必要があります。

 

JISでは最低設計金属温度がMDMTに該当します。

経済産業省の通達では最低設計金属温度を最低使用温度とみなす記載がありますが、通常の設計ではMDMT = CET (最低使用温度)とすることも多いので、あながち矛盾しているわけではありません。

CETやMDMTは、極低温における圧力容器の材料選定で重要となる温度です。材料選定についてはこちらの記事で解説しています。

(MDMT)M

MDMTとよく似ていますが、全く異なる温度です。

JISでは最低許容金属温度と言い、指定の荷重を負荷しても,ぜい性破壊を生じるおそれのない最低の金属温度です。

つまり、物性値なので、選定された材料次第で決定される温度です。

当然ながら、この温度をより低い温度をMDMTにしてはいけないので、MDMT≧(MDMT)Mとしなくてはいけません。

まとめ

最低許容金属温度((MDMT)M)、最低設計金属温度(MDMT)、最低使用温度(CET)、最低運転温度、常用温度(最高運転温度)、設計温度(最高使用温度)といった、たくさんの温度が登場しましたが、違いについて図でまとめると以下の通りになります。

国内プラントであれば、低温側はあまり意識されませんから、常用の温度と設計温度(最高使用温度)くらいの関係を覚えておけば良いかもしれません。
(ただし北海道などの寒冷地は除く)

一方、海外プラント、特に寒冷地では、低温側の温度が設計に影響するので、意識しておいた方が良いと思います。

この記事が役に立てば幸いです。では他の記事でお会いしましょう。

設計圧力の決定方法についてはこちらの記事を参照下さい。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

-プラントエンジニアリング, プロセスエンジニアリング, 技術情報

© 2024 プラントエンジニアのおどりば Powered by AFFINGER5