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【プラント設計基礎⑤】P&ID~プラント建設プロジェクトにおける位置づけ~

今回は配管計装図(Piping & Instrument Diagram/P&ID/PID)について解説します。

P&IDはプラントに関わりのあるエンジニアであれば、部門によらずほぼ全ての方が何らかの形で使用したことのある設計図書だと思います。

P&IDの定義は以下です。

機器、配管、計器、バルブなどの全ての情報を図式化(専用のシンボルで表記)し、それを図面上で表記し、プラントのプロセスを可視化したもの。
建設プロジェクトにおいては基本設計と詳細設計を結び付ける資料となり、詳細設計部門(機器、配管、電気・計装、土建など)が設計業務を行うベースとなる図書。

 

P&IDの作図方法や表記すべき項目について全て記載すると本が一冊書けるボリュームになってしまうので、この記事ではプラント建設プロジェクトにおけるP&IDの位置づけをメインに解説したいと思います。

P&IDの作成手順についてはこちらの記事にて解説していますので、合わせて参照ください。

P&IDは誰が作成する?

会社によって担当が異なるかもしれませんが、基本的にはプロセス設計担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)が作成します。

ただし、プロセス設計担当だけでは、機器、配管、電気計装の詳細情報を全てフォローすることはほぼ不可能ですから、作成、発行したP&IDを社内各部門や客先にレビューしてもらって、コメントをもらい、それを次回発行のP&IDに反映する、という工程を繰り替えしていきます。

 

例えば、配管であれば、分岐の場所やドレン弁、ベント弁の設置場所については、プロセス要求上必要なもの以外は、配管部門が決めます。

なぜなら、実際の配管レイアウトは配管部門によって設計され、そのレイアウト次第で分岐場所、ドレン、ベント場所が決まるからです。

プロセス要求上必要なものについては、P&IDのNOTE欄に記載しておいて、詳細設計部門がその要求に従うように設計することになります。

その場合はプロセス設計部門が、その要求を満足している詳細設計になっているかチェックします。

このようにしてP&IDが完成していきます。

 

そのため、P&IDは初回発行が完成図となることはほぼあり得ず、通常5,6回の改正を重ねて改正版(As built図)が出来上がります

P&IDの発行段階

通常、P&IDの発行は以下のような段階となります。

P&IDの発行段階

・IFR(Issue for Review):社内レビュー用発行
・IFA(Issue for Approval):客先レビュー、承認用発行
・IFA for HAZOP (Issue for Approval for HAZOP):HAZOP、SIL Study用
・IFD(Issue for Detailed Design):HAZOPフォロー、詳細設計用
・IFC(Issue for Construction):建設工事用
・As Built:完成版

 

上記の発行段階と、社内の各部門、客先との関わりについて概略フローで記載しました。

なお、発行までの期間については、プロジェクト規模や各社標準によって大きく変わりますので、一つの目安として捉えて下さい。

それぞれに詳細について解説していきます。

IFR(Issue for Review)

社内レビュー用に発行される最初のP&IDです。

プロセス設計担当(プロセスエンジニア)は、PODに基づいてP&ID(IFR版)を作成します。

PODについてはこちらの記事を参照下さい。

また、機器データシート、機器リストに基づく機器情報(サイズ、設計圧力、温度、材質など)や配管材料基準に基づく配管情報(Line No.、配管材質、保温など)についても確定している情報があればここで記載します。
※この時点で確定していない情報、不明な情報については「HOLD」表記を付しておきます。

 

社内レビュー時、各部門は以下の観点から総合的にチェックを行います。

P&ID社内レビュー項目

・ プロジェクトの要求事項(プロジェクトスペック)を満足しているか
・ 安全、環境対策が十分にとられているか
・ 運転、メンテナンスがしやすいか
・ 無駄な計器、配管が無く、経済的なプラントになっているか

 

具体的には以下観点でレビューします。

各部門の作業ボリュームとしては、この段階が最も多いのですが、このレビュー作業でチェック漏れがあると、詳細設計が進んだ段階での変更となり、工程面、コスト面へのインパクトが大きくなります
(変更が後になればなるほどインパクト大)

プロセスの観点からのレビュー

PFD、MSD(材料選定図)の内容が正しく反映されているか、機器リストやデータシートの内容が正しく反映されているかチェックします。

また、プラント全体の性能保証に関わる計器が正しく設置されているかチェックします。

機器、装置の観点からのレビュー

機器、装置が安全、安定に運転できるかチェックします。

具体的には、計器アラームが適切に設置されているか(過剰なアラームは却って混乱を招く)、計器、バルブのトラブル時でも安全に運転できるか、非定常運転(スタートアップやシャットダウン)に必要な計器、配管が設置されているかチェックします。

また、プレコミッショニングで実施する配管洗浄(化学洗浄やSteam / Air Blow)も適切に実施できるかどうかもチェックします。

プロセス制御の観点からのレビュー

プラントが安定運転できるような制御ループになっているか(適切な計器、制御弁の組み合わせになっているか)、運転監視計器は過不足なく設置されているかチェックします。

また、プラントスタートアップ時のシーケンスや緊急シャットダウン時(ESD)のシーケンスが適切に組まれているか、をチェックします。

プロジェクトスペックの観点からのレビュー

プロジェクト開始時に定めた各プロジェクトスペック

の内容が正しく反映されているかチェックします。

P&IDの枚数が多くなると、プロセス設計担当だけでも数人で作成することもあるため、担当者によって反映の度合いに差が生じることもあるので、レビュー者が全体を俯瞰してチェックすることで、設計漏れを防ぐことができます。

IFA(Issue for Approval)

P&ID(IFA版)は客先に提出する初めてのP&IDとなります。

客先は客先側の基準でチェックしますから、その基準に基づいた様々なコメント(要求項目)が到来します。

中には特殊な要求もあり、反映するとインパクトのあるコメントもあるのですが、どのコメントを反映するかは、客先との契約書に基づいて判断します。

基本的には契約書に明記していない項目は反映する必要はありませんが、逆に、契約書に記載されている内容であれば、どれだけインパクトが大きいコメントであろうと反映しなければなりません。

もちろん、そのようなことが無いように、契約書は検討を重ねて作成されますが、各担当のプラントエンジニアは契約書の内容を理解しておくことも重要です。

 

また、P&ID(IFA版)で反映できず「HOLD」としていた項目についても、設計の進捗により確定した情報は、社内の各部門から情報を集め、この段階で反映します。
(配管サイズ、機器データシート、計器データシートなど)

 

さらに、この段階でプラントのTrip&Interlockシステムを固めておき、P&IDに反映させる必要があります。

特にプラントの緊急シャットダウン時におけるシーケンスは、次項で解説するHAZOPで必ず検討されますので必須となります。

どのようなシステムにするか、プロセス設計部門と計装部門がよく協議した上で決めていかねければなりません。

IFA for HAZOP(Issue for Approval for HAZOP)

客先のレビューコメントや設計進捗情報をP&IDに反映したら、基本設計はほぼ完了となり、社内、客先共同で総合的な検討を実施します。

ここでの検討としては、HAZOPとSIL Studyが実施されることが多いです。

 

HAZOPとはHazard and Operability Studyの略称でSILとはSafety Integrity Levelの略称です。

上記はプラントの安全性を定量的に評価する手法で、最近では新規プラント建設では実施することが必須となっています。

 

簡単に説明すると、HAZOPは、プラントを区域に分割し、それぞれで起こりうる変動、逸脱(Deviation)の結果、故障や災害を引き起こすかどうかを検討し、その対策が十分かどうかを検討します。

また、SIL StudyではHAZOPの結果判明した、故障や災害の度合いと発生確率でレベル分けし、そのレベルに応じた信頼性を持った対策システムを検討することです。

詳細については別途記事で解説したいと思いますが、この記事では省略します。

 

HAZOP、SIL Studyの結果、追加が必要となる配管、バルブ(制御弁、安全弁など)や計器が判明しますから、それを反映する作業が必要になります。

反映が完了したら基本設計が完了となります。

 

IFD(Issue for Detail Design)

HAZOPの結果が反映され、基本設計が完了したら、詳細設計用にP&ID(IFD版)が発行されます。

詳細設計については、こちらの記事を参照ください。

詳細設計段階で設計された配管レイアウト、配管組立図(アイソメ図)や制御ループ図、計装工事図(Hook up図)を元に配管、計器の発注が行われ、やり直しが効かなくなってきます。

つまり、この段階で基本設計が変更されると、関係する配管、計器の詳細設計も変更となり、モノの手配もやり直しとなってしまいます。

このような変更は極力さけないといけないのですが、どうしても発生してしまうことがあります。

その時は速やかに関係部門に連絡し、なるべくインパクトが少なくなるよう、協議することになります。

IFC(Issue for Construction)

詳細設計が完了したら、工事部門(or 工事会社)に向けて発行され、建設工事が始まります。

基本的には詳細設計通りに建設工事は進みますが、施工ミス、干渉、その他建設時の問題が発生してしまい建設が進まなくなることがあります。

最も多いのは、配管とストラクチャーの鉄骨との干渉です。

その際は配管ルートを見直して迂回するのですが、迂回することでプロセス要求上の問題発生有無の検討、改造工事が必要になったりすることで工程、コストへの影響は少なくないです。

 

また、建設が終わり、試運転(コミッショニング)開始後でも、発生したトラブル対応のため、配管、計器の改造が発生することがあります。

 

As Built

上記の建設時や試運転時の変更の反映が完了したら、P&ID(As built版)を作成します。

これはその名の通り、P&ID完成版ですから、試運転が完了し、作成が終わり次第発行されます。

 

このAs built版の発行をもってP&ID作成完了となります。

まとめ

プラント建設プロジェクトにおけるP&IDの位置づけ

について解説しました。

P&IDは段階に応じて何度も発行されます。

その発行回数や図書しての重要さから、プラント建設に関わるエンジニアの最も関わりの深い図書になります。

P&IDの発行段階

・IFR(Issue for Review):社内レビュー用発行
・IFA(Issue for Approval):客先レビュー、承認用発行
・IFA for HAZOP (Issue for Approval for HAZOP):HAZOP、SIL Study用
・IFD(Issue for Detailed Design):HAZOPフォロー、詳細設計用
・IFC(Issue for Construction):建設工事用
・As Built:完成版

各段階のP&IDを適切に発行し、円滑に設計を進めるためには、各担当部門でのレビューを適切に行い、そのコメント内容やコメント項目が常に共有化されておかなければなりません。

これを適切に実施するための管理方法がP&IDの「変更管理」の考え方となりますが、変更管理についてはこちらの記事を参照下さい。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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