今回はネット上でブラックと有名なプラントエンジニアの実態について解説します。
結論から言うとプラントエンジニアリングはブラックではありません。
ただし、プラントの設計・建設ステージによっては激務(ブラックではない)だったり、ブラックな思考(昭和気質な思考)を持った人が多い(特に5~60代の社員)のは事実です。
管理人は化学メーカーから転職してプラントエンジニアリング会社へ中途入社したので、業界・会社の雰囲気の違いは身に染みて感じました。
業務の違いについてこちらの記事で解説しています。
では、プラントエンジニアリング業務の流れと繁忙状況について説明していきます。
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プラント設計・建設の概要
ご存じの方も多いと思いますが、念のために説明しておくと、プラントの設計・建設はEPCの3つに分けられます。
大まかにはE→P→Cの順番で設計・建設が進んで行きますが、重複して実施することがほとんどです。
EPCとは
E:Engineering(設計)
P:Procurement(調達)
C:Construction(建設)
このEPCの流れに沿って、説明していきたいと思います。
※管理人はプロセス設計側のプラントエンジニアなので、主にその立場からで説明しています。
E:Engineering(設計)
設計業務は大きく分けて、基本設計と詳細設計に分けられます。
基本設計と詳細設計それぞれの設計の流れを下図のブロックフローで表しました。
会社やプロジェクトによっては差異はあると思いますが、概ねこのような流れで設計業務が進みます。
基本設計
基本設計とは、プラント建設プロジェクト設計初期に、プロセス設計上必要となる部分の設計です。
別名FEED(Front End Engineering and Design)とも呼ばれます。
この図書も基に詳細設計(後述)が展開するため、取り返しがつかない重要な設計業務です。
基本設計の出来次第でプラント建設プロジェクトが成功するかどうか決まります。
具体的には下記のような図書です。
主な基本設計図書
・基本設計条項(適用する法規、企画、気象条件、Utility条件や運転思想をまとめた図書)
・プロセスフロー(PFD)
・マテリアルバランス、熱バランス
・機器リスト(設置する機器を簡単な仕様とともにリスト化したもの)
・プロジェクト仕様書(機器を詳細、設計するにあたり、そのベースとなる基準書)
・配置図、ローディングデータ(土建設計に必要な機器の荷重を記載した図面)
・P&ID
これらの図書の作成はほとんどプロセス設計と言われる設計業務です。
プロセス設計については別記事で解説していますので、ご参照下さい。
詳細設計
詳細設計とは、基本設計図書をベースにして、配管・土建・電気・計装の設計を実施することです。
また、試運転時の運転要領書(運転マニュアル)も作成します。
具体的には以下の設計業務です。
色々な部門にまたがるので、部門間の調整が必須です。
調整しないと部門間の設計齟齬が生じてプロジェクトが大混乱に陥ります。
見出し(全角15文字)
・配管ルート設計
・アイソメ図作成(配管ルート、レイアウトを正確に図面に起こしたもの)
・熱応力、振動解析、サポート図作成
・特殊配管部品の設計
土建設計
・コンクリート基礎設計
・鉄骨、建屋設計
・地下埋設物設計
電気設計
・電源設備、電動機類設計
・照明設備設計
・設置計画、電気配線計画
計装設計
・計器、調節弁設計
・プラント制御、監視システム(DCSなど)設計
・計装配線計画
運転要領書作成
・プレコミッショニング手順書作成
・スタートアップ、シャットダウンマニュアル作成
・分析マニュアル作成
P:Procurement (調達・製作)
調達業務では、プラント機器の手配、購入を行います。
機器メーカーとやりとり(価格交渉や契約)するのは、購買部や調達部などと呼ばれたりする専門部門が対応します。
プラントエンジニアの業務としては、購入に必要な仕様書の作成や各メーカーに対して技術的な問い合わせの対応をしたりします。
(エンジニア自身が価格交渉を行うのはどの会社でもコンプライアンス上、禁じられているはずです。)
また、製作時の品質チェック、メーカー工場内の試運転の立ち合いを行ったり、運転マニュアルや完成図書に必要な書類の要求、海外プラントであれば通関に必要な図書の要求も行うことがあります。
C:Construction(建設・試運転)
プラント建設時の現地とりまとめ(いわゆる現場監督)は建設部門が行います。
しかし、建設時に発生する問題点(例えば配管と機器が干渉している、図面と到着材料の仕様が異なる)といったをすぐに解決するために、プラント設計側の人間も何名かは建設開始初期から現地出張することになります。
他にも機器、配管の耐圧テストの立ち合いやラインチェック(配管が図面通りに施工されているかどうか、配管一本一本を現場確認する)も実施することがあります。
建設が終盤になると、試運転開始に向けて準備として、プレコミッショニングを実施します。
プレコミッショニングでは、Utility受け入れ、受電、配管の洗浄、機器単体試運転(モーターの回転方法チェックなど)を実施します。
この段階になると、ほとんどのプラントエンジニアが現地に出張し、各担当の機器、工程のプレコミッショニングを実施します。
最後に試運転(コミッショニング)ですが、この段階では実際にプロセス流体を流して、設計通りに運転できるか確認、発生するトラブル対応を実施します。
また、最後の総仕上げとして総合試運転(性能試験)を実施し、これに合格すれば、プラント検収となり、プラント建設業務は完了となります。
海外出張時の準備についてはこちらの記事を参照ください。
どの業務がブラックなのか
ご想像通りかもしれませんが、建設・試運転段階のプラントエンジニア業務はかなりの激務です。
まず、建設現地では週6勤務が標準なので、順調だったとしても毎週必ず休日(土曜日)出勤します。
当然、ゴールデンウィーク、お盆休暇、年末年始休暇はありません。
進捗が悪かったり、トラブルが発生したりすると、進捗を取り戻すために日曜日出勤するときもあります。
さらに、試運転が始まると、プラントは24時間運転しますので、基本的に休みはなくなります。
トラブルは昼夜関係なく発生しますので、徹夜になることも珍しくありません。
もちろん、試運転時は3交替か2交替のシフト勤務となりますが、どうしてもこの人がいないと対応できないトラブルも起こってしまいますので、思うように休めないのが実情です。
ちなみに現地出張期間は、プラント規模にもよりますが、建設初期から出張する人で数年、試運転のみ出張する人で数か月~半年くらいですので、この期間を乗り越えるタフさが要求されます。
逆に建設・試運転以外の業務では、世間が思うような激務ではありません。
ここ最近、設計ツールが進化しており、図面作成、設計業務はかなり効率的になりました。
また、ZoomやTeamsなどのオンライン会議の発達・浸透により無駄な出張・会議がかなり減りました。
2021年1月時点ではまだコロナ禍は収束していませんが、この流れはもう戻ることもないでしょう。
管理人の会社では、現地出張時以外では、かなり有給休暇もとりやすいです。
納期が迫っているときなど、突発的に残業を多くしなければならないこともありますが、基本的には休みはとりやすいです。
(これは会社というより上司次第かもしれませんが)
まとめ
プラント設計・建設の概要と共に、プラントエンジニアリング業務の実態について説明しました。まとめると、以下の通りです。
・プラントエンジニアリングはブラックではない。
・ただし、プラントの建設・試運転時は激務(ブラックではない)
EPCの各業務については、概要説明だけだったので、業務の詳細については、プラント設計基礎シリーズで解説していますので、ぜひご一読ください。
この記事が役に立てば幸いです。また他の記事でお会いしましょう。