今回は化学メーカーとプラントエンジニアリング会社における業務の違いを解説します。
管理人は新卒で化学メーカーに就職しましたが、転職し、現在はプラントエンジニアリング会社で勤務しています。
経緯についてはプロフィールをご覧ください。
プラントエンジニアリング会社と言えば、ブラック、激務と噂されることも多いと思います。
今回の記事では仕事の多忙さというよりも、業務内容がどのような点で異なるか、について解説していきたいと思います。
プラントエンジニアがブラックかどうかを解説している記事はこちらを参照ください。
管理人は前職も現職もプロセス担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)なので、その立場における業務内容の違いについて解説していきます。
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組織体制
化学メーカーの体制
管理人は化学工学専攻で、就職面接時に生産技術志望と伝えていたので、プロセスエンジニアとして、製造部に配属されました。
化学系専攻の大学(院)卒で、工場配属であれば、ほぼ製造部に配属されると思います。
業務内容は、生産工程の効率改善のための運転計画の立案、運転トラブル対応、新規銘柄の試作、老朽化や増強対応のためのプラント改造などです。
とにかく現場の状態を常に把握しておかないといけないので、運転員とのコミュニケーションは欠かせませんでした。
例えば、ずっと事務所に引きこもって事務作業をしていると、運転員から「あいつは現場に出ないやつだ」と嫌われてしまうので、管理人は用がなくても、最低でも午前、午後1回ずつは現場に顔を出しに行ってました。
また、運転員からたたき上げの常勤スタッフの方もいますが、プラント内の機器、設備、配管に熟知しており、さらには法規制、官庁対応にも精通しているので、何か困りごとがあったら、この常勤スタッフにも相談していました。
プラントエンジニアリング会社の体制
プラントエンジニアリング会社では基本的に自社の工場を持っていないので、設計事務所で勤務することになります。
そのため、運転員はおらず、全員が何らかの担当のエンジニアとして勤務します。
(化学メーカーにおける工務部の体制に近いかもしれません。)
業務内容はプラントの設計、建設業務です。
建設、試運転時は現場に出張しますが、設計時はひたすら設計事務所での設計作業です。
(プロセスエンジニアの業務や、プラント設計業務の概要についてはこちらも参照下さい。)
基本的には机の前から動かなくても仕事を進めることは可能ですが、プラント建設プロジェクトは全員が同じ設計思想でないといけないため、各部門との定例ミーティングは欠かせません。
また、プラントの種類や建設値によって法規制、官庁対応が異なりますので、対応マニュアルが無く、新規案件ごとに各エンジニアが調査、申請書類の作成も実施しなければなりません。
設計方針
化学メーカーの設計方針
国内の化学メーカーにおける設計方針を解説します。
大前提として、国内では、手動操作できる所は手動のまま、という前提で設計します。
主な理由は以下の2つです。
① 機器コストが膨らむ
② 国内の運転員のレベルが高い
一点目は、特にプラント改造案件ではよく出る話ですが、もともとの予算が少ないため、絶対に必要な個所を除いて、手動操作可能な所は手動にすることで、コストを抑えることが求められます。
二点目は、国内の運転員は世界でもレベルは高いと言われており、多少煩雑な操作でも安全に操作可能という前提がおかれます。
上記の理由により、国内の化学プラントでは、手動で操作可能な所は無理にコストをかけてまで自動化しないことが多いです。
プラントエンジニアリング会社の設計方針
海外のプラント建設における設計方針を解説します。
大前提として、海外プラントは、自動化できるところは全て自動化する、という前提で設計します。
運転員のレベルは国よって異なるので一概には言えませんが、海外では基本的に運転員の手動操作は信用しない、という思想です。
例えば、運転中は絶対に閉めてはいけないバルブがあるとすると、国内ではタグ表示で注意喚起をする程度ですが、海外ではバルブ自体を施錠してしまいます。(Locked Open)
この場合、P&IDではバルブの上に「LO」を記載して、施錠が必要なバルブであること示します。
機器、計器の購入
化学メーカーの購入体制
プロセスエンジニアが機器や計器のデータシートを作成しますが、記載する情報はプロセス条件のみ(温度、圧力、容量、物性値)で良く、それ以降は工務部の業務所掌となります。
もちろん、製造部のプラントエンジニアと工務部の購入担当エンジニアと密なやり取りは必要ですが、工務部が主導して購入まで進めてくれました。
プラントエンジニアリング会社の購入体制
プロセスエンジニアが機器や計器のデータシートを作成し、購入するのは機器、計器担当のエンジニアであることは化学メーカーと変わりありませんが、データシートに記載が必要な情報の量が圧倒的に多くなります。
プロセス条件は当然として、詳細な情報(例えば、ドラムであればノズル位置など)についても記載しなければなりません。
主な理由として、新規プラント建設案件では、購入する機器、計器の数が多いので、購入担当のエンジニアが購入に集中できるよう、プロセスエンジニアはそれに必要な情報を全てデータシートに反映しなければならないためです。
(化学メーカーでは、プラント改造案件では購入する機器・計器数が少ないので、購入担当エンジニア(工務部)でもデータシートの作成可能)
試運転時の体制
化学メーカーの試運転体制
化学メーカーでは、試運転時の作業指示はプロセスエンジニアが指示書を作成し、上司の承認を得て運転員(班長)に指示します。
プラントは24時間運転ですが、シフト勤務となるのは運転員のみで、プロセスエンジニアは基本的には常勤のままです。
(ただし、トラブル発生時は徹夜で現場に張り付くこともあり得ます)
プラントエンジニアリング会社の試運転体制
プラントエンジニアリング会社では試運転時、プロセスエンジニアもシフト勤務の班長の役割を担い、三交替(or 二交替)勤務となります。
建設が終わって試運転が開始したばかりのプラントは必ずと言って良いほど、何らかのトラブルが発生します。
新しいプラントでは、そのプラントの設備に熟知しているのは、それまで設計業務に従事してきたプロセスエンジニアなので、誰かが常に現場に張り付くようにしなければ、まともに運転ができません。
(この時が最も激務です。)
その他
安全意識
化学メーカー
管理人は、国内化学メーカーの安全意識は非常に高いと思っています。
作業前のKYM(危険余地ミーティング)や操作前の指差呼称は徹底されています。
これらが徹底されていることが、国内の運転員のレベルの高さに繋がっていると思います
プラントエンジニアリング会社
エンジニアリング会社では、普段は事務所で業務していることもあってか、個人の安全意識は高くありません。
例えば、海外の現場でも、管理人は構内道路を渡る時も指差呼称する癖が身についていたのですが、他にやっている人はいませんでした。
資格
化学メーカー
化学メーカーでは、将来的に業務上必要になる資格の取得を推奨されます。
国内の大きなプラントだと、高圧ガス製造保安責任者やエネルギー管理士などを配置しなければなりません。
管理人は1年目に危険物取扱者、2年目に高圧ガス製造保安責任者や、3年目にエネルギー管理士の取得を推奨されました。
(上司からは一発で取れて当然という口ぶりで推奨してくるので、かなりのプレッシャーです。)
プラントエンジニアリング会社
エンジニアリング会社では、業務上必須な資格は無いので、会社からは推奨されませんが、自己研鑽のために上記の資格を取得している人はいます。
人によって意識の差が大きいので、資格を持っていない人とたくさん持っている人の差が大きいです。
まとめ
化学メーカーとプラントエンジニアリング会社の業務内容の違いについて解説しました。
もちろん、会社によって異なることもあると思いますが、業界全体としてみると、同じような違いだと思います。
就職先を化学メーカーとエンジニアリング会社とで迷っている方、または転職を考えている方はぜひ参考にしてみて下さい。
プラントエンジニアの実情については、こちらの記事も参照ください。
また、化学メーカーからエンジニアリング会社への転職についてこちらの記事を参照下さい。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。