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【転職】(後編)化学メーカーからプラントエンジニアリング会社へ転職する時の留意点とは?

今回の記事では、化学メーカーからプラントエンジニアリング会社へ転職する時の留意点について解説します。

前回の記事では、有利な点について解説しましたが、今回は管理人が実際に転職して苦労した経験を元に、転職するべきに気を付けておくべきことについて解説します。

また、管理人は前職では化学メーカーの製造部に配属され、生産技術業務に従事しておりました。化学メーカーからの転職者の事例は多くないものの、中途入社したプラントエンジニアリング会社では、プロセス設計部門(プロセスエンジニアリング部門)に配属される例が多いです。

そのため、「化学メーカーの生産技術からの転職」及び「転職先はプラントエンジニアリング会社のプロセス設計部門」という観点で解説しております。

 

結論から言うと、プラントエンジニアリング会社へ転職する時の留意点は以下の通りです。

留意点

① 機器、設備は設計から試運転まで全て自分が担当する。
② 誰も設計内容の正解が分からない。
③ 特定の分野の知識・スキルを身に着けておく

次項からは、これらの項目が、なぜ転職する際に気を付けておくべきことなのか解説していきます。

管理人同様に化学メーカーの生産技術からプラントエンジニアリング会社への転職を検討している方や、化学メーカー、プラントエンジニアリング会社への就職に興味のある方は是非ご一読下さい。

機器、設備は設計から試運転まで全て自分が担当

化学メーカーとプラントエンジニアリング会社の違いについて解説した記事でも説明していますが、プラントエンジニアリング会社では化学メーカーにおける工務部のような部署は存在せず、機器・設備の設計から試運転までを自分で担当することになります。

補足:数が多いドラムなどの静機器、ポンプなどの回転機はエンジニアリング会社でも専用のグループが存在することもあります。

一例として、ポンプを設計、購入、据え付け、試運転することを考えてみましょう。

化学メーカーでは、生産技術部門はプロセスデータシートのみを作成し、それ以降の業務(購入仕様書の作成、ポンプメーカーとのやり取り、メーカー工場からの出荷対応、据え付けまで)は基本的に工務事務所の技術部の機械エンジニアが担当します。

補足:プロセスデータシートとは、機器の仕様を決める最低限の情報を記載したデータシートです。詳細情報(材質、強度計算、ノズルタイプ、部品の仕様)については記載しません。

そのため化学メーカーにポンプ設計、調達業務では、生産技術部門の人は最低限のポンプ仕様のみを決定しておけば良く、残りの業務は技術部に移管すれば、後はポンプ試運転時までは、問い合わせに対応する程度で済んでいました。

 

一方、プラントエンジニアリング会社ではポンプ仕様の決定から、データシート・仕様書作成、メーカーへの問い合わせ対応、詳細図面のチェック、品証図書の確認、輸送方法の確認、完成図書の作成、据え付け時のトラブル対応、試運転対応、、、と全てを自分自身で進めなければなりません。

これらの業務に対応するには、化学工学の教科書的な知識だけでなく、機械工学の知識(材料工学、構造力学)やフランジ、ネジなどの国内、海外規格(JIS、ASME、ASTMなど)の知識も必要となります。これらの知識は化学メーカーの生産技術業務に携わっている間は、あまり身に付かないため、知識が全く無いと、転職後に苦労するリスクが大きくなります。

いきなりこれらの知識を完璧に身につけるのは難しいので、せめて事前にこの業務に慣れておくためにも、転職前に自社のプラントに設置されている機器の完成図書を読みこんでおくことを推奨します。

補足:完成図書とは、その機器に関わる全ての設計図書、図面等を一冊の図書にしたものです。データシートから詳細図面、運転・メンテナンスマニュアルも全てこの図書に含まれます。英語ではAs-built drawingやMechanical Catalogとも呼ばれます。

注意:機器の完成図書は部外秘の資料です。コピーやスキャンなどで情報を持ち出すのは厳禁ですのでご注意下さい。

誰も設計内容の正解か分からない

これは既設プラントに関する設計か、新設プラントに関する設計かによる違いです。

化学メーカーでは、基本的に既設プラントがあり、プラント設計業務があったとしても、機器や計器の更新・追加といったプラント改造案件がほとんどです。また、プラントは運転開始後数十年経過していることも多いので、プラント運転員の班長など、そのプラントに熟知している人がかならずいます

そのため、その人に相談すれば、そのような改造をすれば良いか、改造する場合はどのようなことに気をつけるべきかなど、プラント設計に関するアドバイスをもらうことが出来ます。このようなアドバイスは、長年のプラント運転で蓄積されたノウハウを元にしているため、その化学メーカーならではの貴重な情報です。

 

一方、プラントエンジニアリング会社では、その会社自身は製造プラントを持っていないため、化学メーカーと比べてプラント運転ノウハウの蓄積がありません。もちろん、プラント建設後の試運転でのトラブル対応などで、ある程度の運転ノウハウ蓄積されますが、試運転期間はせいぜい半年~1年程度なので、蓄積量は化学メーカーと比べてごくわずかです。

また、類似プラントの建設実績があれば、経験者に設計のコツを聞くことができますが、実績があまりにも昔で担当者が既に退職していたり、実績の無いプラントを設計する時は、誰も設計内容の正解が分からない状態でプラント設計を進める必要があります。この点が化学メーカーとの大きな違いです。

そのため、基本的に頼ることが出来るのは、その会社で作成しているプラント設計基準書などの設計標準です。プラントエンジニアリング会社では、このような設計標準を作成・保有していることが多いので、必ずその設計標準に従うように設計を進めて下さい。

特定の分野の知識・スキルを身に着けておく

これはプラントエンジニアリング会社への転職に限ったことではありませんが、転職先の会社にとっては珍しい経験・知識を有していると、その会社でも一目おかれる存在になることが出来るため、設計内容や社内調整でも説得力が増し、仕事がしやすくなります。

人間は感情に左右される生き物ですから、全く同じ内容でも、知識が全く無い新卒の新入社員の発言と、その分野に熟知した社員の発言とでは、後者の発言が支持されます。

そのため、転職前に何か一つでも特定の分野に熟知しておくことをお勧めします。

例えば、化学メーカーでは、多種多様のプロセスの情報を得やすい環境なので、様々な物質の熱物性、移動物性の知識やプロセスシミュレーションの知識を得ることが出来ます。前回の記事でも解説した通り、プラントエンジニアリング会社では、限られたプロセスしか扱わないことが多いので、上記の知識があれば、転職先ではその分野に関しては社内で一番詳しい人間になることが出来ます。

管理人は、前職では化学プラントの試運転前にプロセスシミュレーションで物性の計算や運転挙動の予測をすることが多々あったため、その経験・知識が転職先でも活き、同様の業務を行った場合でもスムーズに仕事を進めることが出来ました。

上記はあくまでも一例ですので、どのような分野でも問題ありません。重要なのは何か一つの分野に特化した知識やスキルを身に着けておくこと、転職先でも一目おかれる存在になることです。

まとめ

今回の記事では、化学メーカーからプラントエンジニアリング会社へ転職する時の留意点について解説しました。

化学メーカーの生産技術からの転職者は、プラントエンジニアリング会社ではプロセス設計部門(プロセスエンジニアリング部門)に配属される例が多く、以下の点に気をつけておく必要があります。

留意点

① 機器、設備は設計から試運転まで全て自分が担当する。
② 誰も設計内容の正解が分からない。
③ 特定の分野の知識・スキルを身に着けておく

管理人同様に化学メーカーの生産技術からプラントエンジニアリング会社への転職を検討している方や、化学メーカー、プラントエンジニアリング会社への就職に興味のある方の参考になれば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

前編はこちらの記事で解説しておりますので、ぜひご覧下さい。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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