では、プラント基本設計段階のP&IDの作成方法について解説しましたが、今回の記事ではP&ID作成において留意しておかなければならない「変更管理」とP&ID作成時の注意点について解説します。
P&IDの作成は、基本的にはプロセス設計部(プロセスエンジニア)が中心となって作成されますが、完成に至るまでには社内の他部門(配管、計装、機器)や客先のレビュー結果、コメントを反映する必要があります。
また、P&IDはプラント詳細設計のベースとなる図書であるため、他部門に対してプラント基本設計の意図が正確に伝わるように、変更管理を徹底すること、見やすく、分かりやすい図面を作成することを心がける必要があります。
P&ID作成時の注意点
・変更管理の徹底
・見やすく、分かりやすい図面の作成
これらを徹底しておかないと、古い図面のまま設計が進んでしまったり、意図とは異なる設計が進んでしまことになります。これが原因で、プラント建設時の工程の遅延、プラント試運転時のトラブルに繋がりますので、プラント建設のコストインパクトは甚大です。
そこで本記事では、これらのトラブルを防ぐために重要な「変更管理」とP&ID作成時の注意点について解説します。
プロセス担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)だけではなく、プラント建設に関わる全てのプラントエンジニアにとっても重要な内容ですので、ぜひご一読下さい。
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変更管理とは?
変更管理とは、「確定している情報とそうでない情報を明確に分け、常に最新情報が共有されるようにP&IDを管理すること」です。
P&IDは、メインでない配管の分岐位置及びサイズ、ベンダー所掌機器との取り合いサイズ、計器の仕様など、詳細設計段階になって初めて確定する情報があるため、基本設定段階のP&IDでは、これらの情報については未確定です。
しかし、確定するのを待っていると、建設プロジェクトのスケジュールにとても間に合いません。
そのため、確定してない情報でも予備的な情報として記載する必要があります。
ここで重要なのは、この予備的な情報については「HOLD」を付しておくことです。P&ID発行部門は「HOLD」する項目をリスト化して、何がHOLDなのか、いつ確定するのか、HOLD解除された項目か何かを管理することが重要です。
このリストは社内の各部門においては常に最新のリストが共有されておかなければなりません。
なお、「HOLD」が付された項目については、配管、機器などの詳細設計部門は、それが確定時の変更されるのを見越して、余裕率を持たせて詳細設計を進めるため、情報確定時に設計変更があっても、工程への影響はありません。
補足:予備的な情報と確定情報とで大きな差異がある場合は、詳細設計側で見ておいた余裕率で吸収しきれず、設計手戻りになる可能性があります。そのため、ある程度確度を持った情報を記載しておかなければなりませんが、どれだけ精度の高い予備的な情報を記載するかはプロセスエンジニアの腕の見せどころです。
これが「変更管理を徹底する」ことです。
P&ID作成時の注意点
変更管理を徹底していても、詳細設計段階になって予期してない突発的な変更があれば、プロジェクトに何らかの影響を及ぼします。
ここでは、変更管理を適切に実施するために留意しておかなければならない、P&ID作成時の注意点について解説します。
主なP&IDの作成時の注意点を挙げると、以下の通りです。
P&ID作成時の注意点
・ プロセス設計(PFD、機器データシート作成)や技術文書の確認が不十分
・ プロジェクトスペックの規定の理解が不十分
・ 予備的な情報に対する「HOLD」のつけ忘れ
・ P&IDを担当するエンジニアが複数人いる場合の相互理解不足
・ 客先レビューやHAZOPの指摘による大幅な設計変更
・ 試運転の関する検討が不十分
(スタートアップライン、バイパスラインの記載忘れ)
・ ベンダー機器との取り合い情報の確認不足
・ 「NOTE」の記載忘れ
・ P&ID図面間の確認不足による不整合
事前検討不足による設計変更はある意味仕方のないことなのかもしれませんが、記載忘れや、確認不足、相互理解不足によるP&ID変更は変更管理を徹底しておけば回避可能な変更です。
変更管理を徹底しておくだけで、かなりの割合の設計変更を回避できることが分かります。
P&ID記載方法の注意点
P&IDを見やすく、分かりやすく記載するために、P&ID原稿作成時に留意しておかなければならない注意点について解説します。
社内の他部門、客先に対して、基本設計の意図を正しく伝えるためには、それだけP&IDも工夫して記載する必要があります。
P&ID原稿作成時の注意点を挙げると以下の通りです。
P&ID原稿作成時の注意点
・ 1枚の図面に多くの機器を記載しすぎて混みすぎないようにする。
・ 機器の位置関係はなるべく実際の配置図に合うように記載する。
・ 同じ機器が並んでいる場合(A号機、B号機、、、)機器やそれに付随する配管、計器は揃えて記載する。
・ 流体の流れは、なるべく左から右になるように配管を記載する。
・ むやみに配管を曲げたり交錯することを避ける。
・ 「制御弁とそのバイパス弁」など、セットとして機能する箇所にはむやみにスペースを取らない。
・ 蒸留塔のBTMなど、詳細設計時に多数の配管が追加されると予測できる箇所にはスペースを開けておく。
プロセスエンジニアがこれらの注意点を意識しておくだけでも、詳細設計時の設計ミスを確実に減らすことができるので、ぜひ心がけて下さい。
まとめ
今回の記事ではP&ID作成において留意しておかなければならない「変更管理」とP&ID作成時の注意点について解説しました。
ポイント
・変更管理の徹底
・見やすく、分かりやすい図面の作成
これらを徹底しておかないと、プラント建設時の工程の遅延、プラント試運転時のトラブルに繋がりますので、プラント建設のコストインパクトは甚大です。そのため、プロセス担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)だけではなく、プラント建設に関わる全てのプラントエンジニアにとっても重要な内容です。
今回の記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。