今回の記事では、プラント基本設計段階でのP&ID(PID)作成手順の解説をします。
こちらの記事にてプラント設計段階に応じたP&IDの位置づけについて解説しました。今回の記事では、基本設計段階のP&ID(IFR、IFA)の作成手順、記載すべき内容について解説します。
なお、「IFR」や「IFA」といった言葉についてはこちらの記事で解説していますので、ぜひご一読下さい。
P&ID(PID)作成は、プラント基本設計(FEED)の集大成と言っても良い業務内容です。建設するプラントのプロセス情報、運転内容、機器情報、配管、計器情報、配置情報の全てがP&ID上で集約されます。
言い方を変えると、基本設計業務で設計した項目は全てP&IDに反映される、と言っても過言ではありません。
作成の主担当はプロセス担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)ですが、機器、配管、計装それぞれのエンジニアとも協力して作り上げていくものです。
また、プラント詳細設計はP&IDをベースとして展開されるので、基本設計図書の中では最重要の設計図書です。そのため、P&ID作成手順はプラント建設に関わる全てのプラントエンジニアは知っておくべき内容です。
合わせて読みたい
・【プラント設計基礎③】プロセスフロー図(PFD)、マテリアルバランス
・【プラント設計基礎④】運転法案(POD作成)~P&ID作成の準備~
・【プラント設計基礎⑤】P&ID~プラント建設プロジェクトにおける位置づけ~
・【プラント設計基礎⑥】配置図(レイアウト、プロットプラン)~基礎知識と考え方~
・【プラント設計基礎⑦】機器リスト~プラント規模を把握する~
・【プラント設計基礎⑧】設計圧力、設計温度の決定方法の解説
・【プラント設計基礎⑩】P&IDの「変更管理」とは?P&ID作成時の注意点の解説
・【プラント設計基礎⑪】プラント建設費の構成と建設契約方式の解説
・【配管】マニュアルバルブ(手動弁)の選定基準について解説
・【配管】安全弁と逃し弁の違いについて解説
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P&ID作成手順
管理人はPODをベースにしてP&IDを作成することを推奨しています。
一般的なP&ID作成手順の一例を挙げると以下の通りになります。
P&ID作成手順
① 機器を配置して配管で結ぶ
② 運転監視に必要な計器、制御方式を記載
③ 非定常運転に必要な配管、制御計器を記載
④ PFDでは記載されない配管部品を記載
⑤ 機器周りの配管、計器を記載
⑥ メンテナンスを考慮した配管、バルブを記載
⑦ 安全装置(安全弁など)を記載
⑧ 分析箇所、分析計を記載
⑨ 詳細設計、運転上の注意点の記載
⑩ 機器の高さ情報を記載
⑪ 配管サイズ、クラス、レーティングを記載
⑫ 保温、保冷、トレース有無を記載
⑬ 計器Tag No.,機器Item No.,を記載
⑭ 機器の仕様欄に機器仕様の概要を記載
大まかには順番通りに作成を進めていきますが、必ずしもこの順序で進める必要はなく、同時に進める項目もあります。
また、P&ID作成時には確定していない情報もありますが、その情報については「HOLD」を記載しておき、未確定情報であることを明記する必要があります。
「HOLD」を記載しておかないと、詳細設計部門は確定した情報とみなして設計を進めてしまいます。そうすると、情報が確定してHOLD解除する際に変更が効かなくなってしまうケースがあります。最悪の場合、設計し直しになりますので、「HOLD」を明記して、変更の可能性があることを詳細設計部門に伝えておくことが重要です。
機器を配置して配管で結ぶ
P&IDは、プラント運転で最も使われる設計図書ですがら、配置情報に沿ったプロセス流体の流れが分かるようになっていなければなりません。
そのため、P&ID上の機器や配管も、ある程度、配置図(レイアウト)を反映したものになっている必要があります。例えば、ストラクチャーの2階以上に設置される機器は図面上でも上の方、地面置きの機器は図面上の下の方に記載する、といった工夫が必要です。
また、複数基からな成る機器や予備機をもつ機器は、PFDでは省略表記されますが、P&IDでは基数は正確に記載する必要があります。
さらに機器の構造はデータシートを反映させる必要があります。
例えば、ドラムや蒸留塔はデータシートのスケッチ図(スケルトン)に基づいて記載します。コンプレッサーについても、段数を正確に記載する必要があります。
P&ID作成開始時に機器の構造が未確定であれば、機器のシンボルだけ記載し、「HOLD」表記にしておきます。
運転監視に必要な計器、制御方式を記載
及びPODを基に運転開始に必要な計器や制御方式を記載しますが、P&IDでは計器の種類、制御弁のタイプを分けて表記しなければなりません。
例えば、流量計であれば、それが差圧式流量計なのか他のタイプの流量計なのか、さらに差圧式流量計であれば、オリフィス流量計なのかそれ以外の流量計なのか、、、を決定してP&IDで書き分ける必要があります。
違う言い方をすると、P&IDを作成する段階では、計器の種類を検討して確定し、データシートを作成しなければならない、ということになります。
また、現場計器なのか伝送器なのか、あるいは両方を設置するのか、を決定して表記しなければなりません。
例えば、中央計器室で監視する必要がある場合は伝送器が必要ですし、計器室の監視が不要であれば、現場計器のみとなります。
制御弁についても同様です。
PFD上では制御弁のタイプ(グローブ弁、ゲート弁、ボール弁、バタフライ弁、、、)までは区別して記載しないので、P&ID作成時では制御弁のタイプを検討して、タイプやFail Positionあんzを確定する必要があります。
補足:PFDの表記方法によっては、流量計がオリフィス流量計であることを分かるように記載したり、制御弁の中でも遮断弁は区別して記載したりすることもあります。詳細な表記方法についてはプロジェクトの思想や社内基準に従ってください。
非定常運転に必要な配管、制御計器を記載
PODで検討した、非定常運転に必要な配管、計器などをP&IDに記載します。
考え方はこちらの記事で解説していますので、合わせてご一読下さい。
PFDでは記載されない配管部品を記載
配管のストレーナーやサイレンサー、フレキシブルジョイント、デスーパーヒーター、スプレーノズル、制限オリフィスなどの配管部品はPFDでは省略されることがほとんどです。
それらの配管部品はP&IDでは正確に記載する必要があります。
そのため、P&ID作成時は、それら配管部品の要否やタイプを検討して決定しておかなければなりません。
機器周りの配管、計器を記載
機器データシートで規定された要求仕様に応じた機器周りの配管や計器をP&IDに記載します。もちろん、運転性、メンテナンス性、安全性を考慮する必要があります。
また、各機器の運転に必要な配管や計器も記載します。
例えば、遠心ポンプであればミニフローライン、遠心コンプレッサーであればアンチサージラインが必要なので、それらの配管、計器を記載します。
メンテナンスを考慮した配管、バルブを記載
プラントの各機器のメンテナンスの基準(定修中か運転中か)や予備機の設置基準に従い、メンテナンスのための縁切り弁や仕切り板を記載します。
特に運転中にメンテナンスをする機器や計器があれば、バイパスライン、バイパス弁、液抜き・パージラインや必要なバルブを検討してP&IDに記載する必要があります。
安全装置(安全弁など)を記載
POD作成時の検討に基づいて、安全装置を記載します。
安全弁の他に緊急遮断弁、緊急脱圧弁、逆止弁を記載します。
また、安全弁前後弁など、運転中に誤操作が許容されないバルブについては、バルブ操作に鍵をかけるLocked Open/Close(LO/LC)の指示もP&IDに記載します。
分析箇所、分析計を記載
プラントの安定運転をすべく、機器の性能確認のための分析箇所(サンプリングポイント)や分析計を記載します。
分析箇所や分析計の検討についてPODの記事で解説していますので、そちらを参照ください。
詳細設計、運転上の注意点の記載
詳細設計や運転時の注意点をP&IDの「NOTE欄」に記載します。
通常、NOTE欄はP&ID図面の右の列に記載します。
P&IDは一定のルールの下で記載されるので、線の太さやシンボルの種類により目的が分かるようになっていることがほとんどですが、特殊な要求があり、シンボルだけではP&ID作成者の意図をどうしても記載できないことがあります。
その際は、図面上に「NOTE x(xは数字)」と記載して、NOTE欄に要求事項を記載します。ただし、長々と書きすぎると逆に分かりにくくなるので、NOTE欄での説明は簡潔な表示で、多用しないように心がける必要があります。
機器の高さ情報を記載
詳細設計で機器の配置や配管設計に位置的な要求事項がある場合は、その次項をP&IDに記載します。
例えば、有効NPSHを考慮したポンプの吸い込み側のタンクの高さや蒸留塔のリボイラの液循環に必要な高さなどです。
配管サイズ、クラス、レーティングを記載
プロセス流体の流量や機器の配置を基に圧損計算を行って配管サイズを決定し、P&IDへ表記する必要があります。配管サイズの決定においては、流体毎に決められている流速、圧力損失の基準に従って決定しますが、サイジングについては別記事にて解説したいと思います。
配管クラスやレーティングとは、配管の材質や圧力区分(#150,#300,#600,,,)のことを言います。
プロセス流体の性状から配管材質を決定したり、設計圧力、設計温度から適用する圧力区分を決定します。
配管クラスやレーティングを決定するために必要なプロジェクトスペック(Project Specification)は「配管材料仕様書(Piping Material Specification)」と言われるもので、この仕様書はプロジェクトの早い段階で作成されるものです。
また、この時、配管番号(Line No.)を採番して合わせてP&IDに記載します。
これらの情報は配管リスト(Line List)ととして管理され、配管詳細設計や、プラント建設時の耐圧試験に仕様されます。
配管リストについては別記事にて解説したいと思います。
保温、保冷、トレース有無を記載
配管の保温、保冷、トレース有無を検討してP&IDに表記します。
例えば、冷却されると固化するような流体を扱う場合はヒートトレース施工して配管を加温します。
また、寒冷地のプラントであれば、冷却水などの水配管は凍結するため、凍結防止のために保温施工やヒートトレース施工を実施することもあります。
・【配管】放熱/入熱による任意の地点における配管温度の導出
・【配管】家庭用水道管の凍結防止対策に対する定量評価
・【配管】放熱計算による配管が凍結するまでの時間の推定-伝熱モデルの解説-
計器Tag No.,機器Item No.,を記載
器や計器を区別するためにTag No.(Item No.)を決定しなければなりません。
適当に採番してしまうと、管理できなくなってしまいますので、一定のルールに沿って採番する必要があります。
この採番基準については、プロジェクト初期に採番基準書のプロジェクトスペックが作成されます。
機器の仕様欄に機器仕様の概要を記載
通常、P&IDで機器を記載する時は、簡単な機器仕様と共に記載します。
その理由は詳細設計やプラント運転時は、機器の仕様を確認するために毎回機器データシートを参照するのは非常に手間だからです。
もちろん詳細な情報は記載する必要はなく、機器リストに記載する程度の情報で十分です。例えば、ドラムであれば、タイプ、サイズ(径、高さ)、設計圧力・温度、材質程度の情報です。
そのため、P&ID作成時は機器データシート(少なくとも機器リスト)を作成しておかなければなりません。
P&IDで決定できないこと
P&IDは全ての情報を記載することは出来ず、例えば空間設計に関する情報は基本設計段階のP&IDでは記載できません。
また、基本設計段階では、機器、計器の詳細情報(ベンダーが決定する仕様)については決定できないので、同様に記載できません。
P&IDで決定できない項目の具体例を挙げると以下の通りです。
P&ID決定できないこと
・配管レイアウト
・機器取り合い情報
・防爆仕様
これらの情報は基本設計段階のP&IDでは記載しませんが、詳細設計が進捗して仕様が確定すれば、逆にその情報をフォローし、P&ID上に記載する情報もあります。
配管レイアウト
メイン配管のみであれば、レイアウトは配置図から推定できますが、実際には用役配管、ドレン配管、ベント配管、サンプリング配管、計装チュービングなどが入り乱れることになります。
また、流量計の直管長の要求や機器・計器のメンテナンススペースも考慮し、かつ干渉をしないように設計しないといけないので、二次元の図面だけで配管設計を行うのは極めて難しく、専門の配管設計部門による空間設計が必要です。
基本設計段階のP&IDではそれらの情報までは決められないので、詳細設計段階にて、その空間設計の情報をP&IDに盛り込む作業を実施します。
機器取り合い情報
基本設計段階では、ベンダーの機器設計も終わっていないので、機器取り合い情報はP&IDでは決められません。
ベンダー情報が確定したらその情報はP&IDに記載しますが、それまでは「HOLD」表記をしておきます。
防爆仕様
機器や計器の防爆仕様は、P&IDでは決定できず、配置図(レイアウト)を基に作成される、「危険場所区分図(Hazardous are specification)」により決定されます。
危険場所区分図は配置図の作成時に決定され、防爆仕様も機器、計器の要求仕様に反映させなければなりませんが、一般にはP&ID上では防爆仕様までは記載されません。
まとめ
今回の記事では、プラント基本設計段階でのP&ID(PID)作成手順の解説をしました。
P&ID(PID)作成は、プラント基本設計(FEED)の総仕上げと言っても良い業務内容です。
建設するプラントのプロセス情報、運転内容、機器情報、配管、計器情報、配置情報の全てがP&ID上で集約されますので、言い方を変えると、基本設計業務で設計した項目は全てP&IDに反映される、と言っても過言ではありません。
また、プラント詳細設計はP&IDをベースとして展開されるので、基本設計図書の中では最重要の設計図書です。そのため、P&ID作成手順はプラント建設に関わる全てのプラントエンジニアは知っておくべき内容です。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。