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設計圧力を超過したプラント運転が許容される?Short term conditionについて解説

今回はASME31.3で規定される、Short term conditionについて解説します。この規定は、僅かな期間であれば設計圧力を超過してプラントを運転することが許容される、というものです。

ASME 31.1とは、American Society Mechanical Engineers(米国機械学会)の中で、プロセス配管(石油プラント、化学プラント等の配管)に適用される規格のことです。海外のプラントであれば、ほぼこの規格が適用されます。

次項から詳しく解説していきます。

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Short term conditionとは

ASME 31.3 302.2.4 Allowances for Pressure and Temperature Variations」では以下のような記載があります。

(1) Subject to the owner's approval, it is permissible to exceed the pressure rating or the allowable stress for pressure design at the temperature of the increased condition by not more than;

(-a) 33% for no more than 10 h at any one time and no more than 100 h/y or
(-b) 20% for no more than 50 h at any one time and no more than 500 h/y

The effects of such variations shall be determined by the designer to be safe over the service life of the piping system by methods acceptable to the owner.

要約すると、配管設計者(プラントエンジニアリング会社)が安全と判断し、かつオーナー(顧客、客先)が承認した時に限り、以下の運転時間内であれば、設計圧力から所定の割合を超過しても、プラントの運転が許容される、ということです。

運転時間(一回当たり) 運転時間(年間) 設計圧力超過割合
~10時間 ~100時間 33%
~50時間 ~500時間 20%

例えば、設計圧力が1.0MPagの配管があれば、一回あたり10時間以内、年間100時間であれば、1.33MPagの圧力で運転しても良い、ということになります。

しかし、すべての場合において適用される訳ではなく、適用するためにはいくつかの条件があります。

適用のための条件

① 配管が「ASME Category F Fluid Service」に該当しないこと
② 配管材質が鋳鉄などの非延性の金属ではないこと
③ short term conditionのサイクルが年間1000回を超えないこと
④ short term conditionとなった運転状態の履歴を記録しておくこと。
⑤ short term conditionで超過した圧力が耐圧試験圧力を超えてはいけない

上記のように、使用流体や材質の制限があったり、運用面においても制限がありますので、ご注意ください。

Short term conditionの補足説明

前項の条件の中で、①配管が「ASME Category F Fluid Service」に該当しないこと、⑤short term conditionで超過した圧力が耐圧試験圧力を超えてはいけない、について補足説明します。

Category F Fluid Service

ASME 31.3の第VIII章では「Category F Fluid Service」という項目があり、毒性が強い流体を扱う場合についての規定がなれております。

設計面や運用面で、通常の流体よりも厳しい要求がされており、その要求の中の一つに「Short term conditionが許容されない」というものがあります。

ASME 31.3では具体的にどのような流体がCategory M Fluid Serviceに該当するか記載されておらず、その判断はエンジニアリング会社に委ねられています。Category M Fluid Serviceの詳細については下記の記事を参照ください。

つまり、毒性が強い流体を扱うプラントでは、Short term conditionは認められない、ということにご注意下さい。

Short term conditionの超過圧力と耐圧試験圧力

耐圧試験圧力に関する記事でも解説した通り、試験流体や適用規格によって異なりますが、設計圧力の1.1倍~1.5倍(×α)が耐圧試験圧力になります。

ASME31.3では、水圧試験:設計圧力×1.5×許容応力に基づく係数、気圧試験:設計圧力×1.15×許容応力に基づく係数となります。

従って、気圧試験圧力<Short term conditionの超過圧力<水圧試験圧力となります。

つまり、耐圧試験を気圧で行った場合はShort term conditionは認められない、ということにご注意下さい。

Short term conditionの注意点

上記を含めて、Short term conditionを適用する場合の注意点を挙げると以下の通りになります。

注意点

① 国内法規・規格では認められていない。
② Short term conditionが認められているのは配管のみ。圧力容器には認められていない。
③ 顧客・客先の承認が必要
④ 毒性の強い流体では適用できない。
⑤ 耐圧試験を気圧で行った場合では適用できない。

①については、高圧ガス保安法のような国内法規では、Short term conditionに関する取り決めはありません。また、JISなどの国内規格でも取り決めはありません。そのため、国内プラントではShort term conditionは許容されないと考えておくべきでしょう。

②については、圧力容器の規格である、ASME sectionVIIIには、Short term conditionに関する取り決めはありません。そのため、適用可能なのは、ASME31.3に基づいて設計された配管のみで、ドラムやタンクに対してはShort term conditionは許容されないと考えておくべきでしょう。

③については、契約を締結し、プラント設計が開始された後では、顧客・客先から承認されるのは非常に厳しいです。なぜなら、Short term conditionはプラント設計者(プラントエンジニアリング会社)側が有利な取り決めだからです。そのため、契約書の付録に記載しておくなど、契約前に顧客・客先と協議して取り決めておく方が良いでしょう。

④、⑤は前項で解説した通りです。

まとめ

今回の記事ではASME31.3で規定される、Short term conditionについて解説しました。この規定は、特定の条件下で、僅かな期間であれば設計圧力を超過してプラントを運転することが許容される、というものです。

運転時間(一回当たり) 運転時間(年間) 設計圧力超過割合
~10時間 ~100時間 33%
~50時間 ~500時間 20%

ただし、使用流体や運用方法に制限があったり、配管にしか適用できない、といった制約がたくさんあるので、Short term conditionをあてにしたプラント設計は危険です。

あくまでも設計完了後、試運転時にどうしても設計圧力を超えてしまうことが判明した時の逃げ道の一つとして、この規定の存在を認識しておくべきです。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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