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安全弁の吹下り圧力(Blow down)とは?設計圧力・最高運転圧力との関係

今回の記事では安全弁の吹き下り圧力(Blow down)について解説します。

安全弁はプラントを保護する安全装置で代表的な装置の一つですが、作動時の圧力挙動については、意外と知られておりません。

「圧力が安全弁の設定圧力まで上昇したら安全弁が吹くからプラントは安全」という理解をしている方が多いと思いますが、実際には設定圧力・吹き出し圧力・吹き止り圧力・吹き下り圧力、という概念があり、設計圧力や最高運転圧力とも関わりあっているため、もう少し複雑です。

今回の記事では、それらの圧力や設計圧力・最高運転圧力との関係について解説します。

安全弁購入担当者だけではなく、プロセス担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)やプラント運転者も理解しておくべき内容なので、ぜひご一読下さい。

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用語の定義

安全弁に関するJIS規格である、「JIS B 8210 安全弁」の記載に従って解説します。

設定圧力

プラント系内の圧力が上昇し、安全弁の作動が開始する時の圧力です。安全弁Set値とも言います。英語ではSet Pressureと呼ばれます。

通常、機器や配管の設計圧力が設定圧力に設定され、P&IDに記載される圧力はこの圧力です。

注意点としては、この圧力はプロセス流体が明確に流出し始める時の圧力であって、それ以下の圧力で安全弁の弁座漏れなどによる微小リークが発生するときの圧力ではないことです。

また、設定圧力に達してからも、所定の吹き出し量に達するまで(ポッピングを起こすまで)は、圧力は上昇し続けます。そのため、プラント系内の圧力が上昇し続けても、安全弁設定圧力(=設計圧力)に達したら圧力の上昇が止まる、というのは誤解しやすい勘違いなのでご注意下さい。

吹出し圧力

安全弁がポッピング(急速開作動)を起こし、吹き出し量が最大になる時の圧力を吹き出し圧力と呼びます。この時の圧力をMAAP(Maximum Allowable Accumulation Pressure)と呼び、設計圧力との圧力差を圧力のAccumulationと呼びます。

設計圧力とMAAPとの関係については、こちらの記事で解説しています。

安全弁吹き出し量の計算時に算出される流量は吹出し圧力が使われます。そのため、吹き出し量計算時は、設計圧力を使用しないようにご注意下さい。

吹止り圧力

安全弁が作動し終わり、弁体が元の位置に戻る時の圧力を吹き止り圧力と言います。英語ではClosing Pressureと呼ばれます。

注意点としては、設定圧力≠吹止り圧力であることです。安全弁の種類によって割合が異なりますが、必ず吹止り圧力は設定圧力よりも低くなります

吹下り圧力(Blow down)

安全弁の設定圧力と吹止り圧力との差を吹き下り圧力(Blow down)と呼びます。

前述の通り、吹止り圧力は設定圧力よりも低くなるので、設定圧力から吹下り圧力を引いた値が吹止り圧力です。

吹下り圧力は安全弁の種類によって異なりますが、規格によって許容値が異なるため、安全弁の選定に大きく影響します。

また、設計圧力、最高運転圧力それぞれに深く関連しています。(次項で解説)

安全弁の動作特性

安全弁作動時の時間経過による圧力の変化の概念図を上図に示します。

プラント運転圧力が設計圧力(安全弁設定圧力)に達すると、安全弁が吹き始め、MAAP(吹出し圧力)に達するまでは圧力は上昇し続け、その後は吹止り圧力になるまで、圧力は低下します。

最大の注意点は、吹止り圧力は必ず最高運転圧力以上となるように設計しなければならないことです。

違う言い方をすると、設計圧力は最高運転圧力から、吹き下り圧力(Blow down)以上の余裕を見て決定しなければならない、ということです。

なぜなら、最高運転圧力よりも吹止り圧力が低いと、その時点で運転圧力がふらつき、プラントの安定運転が継続不可能となるためです。

補足:安全弁が作動した場合、運転を継続するか停止するかは、プラントの思想によります。大型プラントでは、起動/停止によるロスが大きいことから、安全弁が作動しても運転を継続する思想が一般的です。本記事ではこのようなプラントを想定しています。

吹き下り圧力の考え方について

前項から吹下り圧力は小さい方が望ましいことが分かります。

安全弁の種類よって吹下り圧力は異なりますが、一般には、通常のばね式安全弁の吹下り圧力は7~10%で、パイロット式安全弁では2%程度まで低減することが可能です。

一般的には、ばね式は構造が簡単で安価、パイロット式は構造が複雑で、高価で故障しやすいと言われております。詳細についてこちらの記事で解説しています。

適用する規格によって吹下り圧力の許容値は異なりますし、プラント設計・運転上の要求(例えば、どうしても設計圧力が余裕をもった値にすることができない時)でも必要な吹下り圧力は異なります。

そのため、安全弁を選定する際は、プラントの特性や適用規格を理解した上で、安全弁ベンダーに相談することをお勧めします。

また、設計圧力を決定する際は、吹下り圧力を考慮した上で決定しなければなりません。

設計圧力低くすると、機器の板厚が小さくなるので機器コストは小さくなりますが、安全弁の種類に制約が生じ、コストアップの要因となります。逆に設計圧力を高くし過ぎると、機器の板厚が必要以上に大きくなり、機器コストアップの要因となります。

各規格の吹下り圧力について

安全弁の設計で良く用いられる各規格の吹下り圧力について解説します。

JIS B 8210

国内規格では、「JIS B 8210 安全弁」に吹下り圧力の規定があります。

蒸気用安全弁

安全弁設定圧力 吹下り圧力
≦0.4 MPag ≦0.03 MPa
>0.4 MPag ≦安全弁設計圧力の7%
(客先との協議により4%以下も可)

ガス用安全弁

安全弁設定圧力 吹下り圧力
≦0.2 MPag ≦0.03 MPa(メタルシート形安全弁)
≦0.05 MPa(ソフトシート形安全弁)
>0.2 MPag ≦安全弁設計圧力の15%(メタルシート形安全弁)
≦安全弁設計圧力の25%(ソフトシート形安全弁)

液体用安全弁

・設定圧力によらず0.06MPagか設定圧力の20%の大きい方(メタルシート形安全弁)
*ソフトシート形については明記されていらず、客先との協議により決定される。

ASME section I

海外におけるボイラの設計で最もよく使われる「ASME section I Power Boilers 」では安全弁の吹下り圧力(Blow down)について、以下のように規定されています。

安全弁設定圧力 吹下り圧力
≦500 kPa ≦30 kPa
500 kPa < 設定圧力 ≦1700 kPa ≦安全弁設計圧力の6%
1700 kPa < 設定圧力 ≦2500 kPa ≦100 kPa
>2500 kPa ≦安全弁設計圧力の4%

ASME section VIII div.1

海外における一般の圧力容器の設計で最もよく使われる「ASME section VIII dev.1 Pressure Vessels APPENDIX M-10 (b)」では安全弁の吹下り圧力(Blow down)について、以下のような記載があります。

The blowdown characteristic and capability is the first consideration in selecting a compatible valve and operating margin. After a self-actuated release of pressure, the valve must be capable of reclosing above the normal operating pressure. For example, if valve is set at 100 psig (700 kPa) with a 7% blowdown, it will close at 93 psig (641 kPa) in order to prevent leakage or flow from a partially open valve. Users should exercise caution regarding the blowdown adjustment of large spring-laoded valves.

ASME section Iと異なり、明確な規定はありませんが、ASME section VIIIでは吹下り圧力の許容値は7%と考えておいた方が良いでしょう。

 

API520

安全弁に設計に関する規格である「API(American Petroleum Institute) 520 Pressure Safety Valve (PSV) Sizing」でも吹下り圧力の規定がありますが、

Section VIII,Division 1, Appendix M of the ASME Code should be referred to for guidance on blowdown and pressure differentials

と記載があり、ASME section VIIIに委ねられていますので、吹下り圧力の許容値は7%と考えておいた方が良いでしょう。

ASME 31.3

化学プラントの配管設計においては、世界的に一般的に適用される規格であるASME 31.3 Process Pipingでは、吹下り圧力については特に規定がありません。

ただし、

(a) Pressure-relieving devices (中略) shall be in accordance with the BPV Code (中略). The terms design pressure and piping system shall be substituted for maximum allowable working pressure and vessel, respectively. The required relieving capacity of any pressure-relieving device shall include consideration of all piping systems that it protects.
(b) Relief set pressure'! shall be in accordance with Section VIII, Division (中略)

とあり、基本的にASME section VIII div.1に従う旨の記載がありまので、吹下りについても同様と考え、吹下り圧力の許容値は7%と考えておいた方が良いでしょう。

まとめ

今回の記事では安全弁の吹下り圧力(Blow down)を初め、各種圧力の定義や設計圧力・最高運転圧力との関係について解説しました。

吹下り圧力は安全弁の種類や適用規格によって異なりますが、設計圧力を決定する上で非常に重要な要素であることがお分かり頂けたと思います。

特に安全弁設定圧力(MAWP)>吹止り圧力>最高運転圧力の関係は重要です。安全弁購入担当者だけではなく、プラント設計者(プラントエンジニア)やプラント運転者も理解しておくべき内容です。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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