今回の記事ではプラントにおける配管振動を引き起こす主な原因とその対策について解説します。
プラントにおける配管は機器から機器へ流体を送るために必須となるものです。各機器で設計した通りの性能を発揮するためには、如何に配管で安定的に流体を送ることが出来るか、にかかっています。
そのため、配管は安全性、健全性を第一優先に設計されなければなりませんが、それを脅かす現象の一つが配管振動です。
配管振動の主な原因
・ 水撃(ウォーターハンマー)
・ 脈動
・ 気液二相流
・ キャビテーション
・ 急減圧
これらのプラントにおける配管振動は、配管設計、特に配管のサポート設計を適切に実施することで回避可能ですが、それが適切になされていないことに起因する問題も多く報告されています。
そこで、本記事ではこれら配管振動の主な原因となる現象について、対策と共に解説します。
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水撃(ウォーターハンマー)
水撃(ウォーターハンマー)は配管内の流体(特に液体)の流速が急激に変化した時に圧力波が発生する現象です。
例えば、液体が流れている配管のバルブを全開状態から急に全閉状態にすると、バルブ上流側では昇圧波が発生します。その昇圧波は上流配管の端で反射し、反射した圧力波がバルブ本体に戻ってきます。
その圧力波はバルブ本体で再び反射して上流側へ向けた圧力波となります。この圧力何は減衰しながらバルブ本体と配管の端を往復します。
一方。バルブ下流側は急閉により降圧波が発生します。この降圧波も昇圧波と同様に、下流配管の端とバルブ本体で反射した圧力波が往復を続けます。
このように圧力波が往復することで、配管内の液体は蒸気化し、分離した液体が逆流してバルブ本体に激しく衝突します。これが水撃(ウォーターハンマー)と呼ばれる現象です。
このような水撃現象はバルブ本体だけでなく、エルボやベローズなどの配管部品にも作用し、これが原因で配管部品の変形、破損を引き起こします。
■水撃による破損
出典:educalingo
対策
・水撃が想定される配管に対しては、設計時に水撃解析を実施して、水撃発生時でも配管内圧力が最大許容圧力(MAAP)以下であることを確認し、水撃による応力に耐えうる配管サポート、基礎の設計を行う。
・バルブに対して、全閉近くでは閉止速度を遅くするなど、流量が急激に変動しないような対策を実施する。
・逆止弁(チェッキ弁)を閉じ遅れ動特性が良いものを採用する。閉じ遅れ動特性はノズルタイプ>ピストンタイプ>ディアルプレート>スウィングの順で良いと言われている。ただし、タイプにより圧力損失は異なるので、設計値に収まることを確認しておく。
脈動
やレシプロポンプでは、その原理上、吐出側配管では脈動が発生し、それが原因で配管振動、破損を引き起こす可能性があります。
振動の原因
① 脈動そのものが大きい大きい。
② 脈動と配管内流体の固有振動が共鳴し共振が発生する。
③ 脈動と配管自体の固有振動が共鳴し共振が発生する。
上記の①、②については、これを低減するためにアキュムレーターの設置、オリフィスの挿入、配管形状(長さ、配管径)などで、許容値以下となるように設計されていますが、③においては、吐出側配管のレイアウトやサポート設計次第では低減出来ず、配管振動、破損を引き起こすことがあります。
対策
配管自体の固有振動との共鳴、共振を低減するために配管設計時に考慮すべき項目は以下の通りです。
・配管の機械的固有振動数と脈動による振動数が共振しないように配管形状、サポートを設置する。
・配管はできるだけサポートを設置しやすいように地上や架台状に配置し、サポート間の長さがあまり長くならないようにする。
・配管エルボやティー付近にはサポートを設置する。
・ドレン、ベント、計装配管などの小口径配管の分岐近くにサポートを設置する。
・バルブなどの重量物付近は剛性のある基礎からサポートを取る。
気液二相流
配管内が気液二相流となる場合は気体と液体との割合は流速によって、様々な流動様式があります。
■主な二相流の流動様式
出典:ResearchGate
二相流の流動様式
(a) 層状流(Stratified Flow)
(b) 波状流(Wavy Flow)
(c) プラグ流(Plug Flow)
(d) スラグ流(Slug Flow)
(e) 環状噴霧流(Annular Flow)
(f) 気泡流(Bubbly Flow)
これらの流動様式の中で、間欠流であるプラグ流やスラグ流は気体と液体が交互に配管曲がり部に衝突し、これが原因で周期的な配管加振力となるために、配管振動を引き起こします。
対策
根本的な対策は二相流とならないような運転条件で設計することですが、プロセス上どうしても回避できないケースは多々あります。
そのような場合は配管設計にて対応することになりますが、この時に考慮する項目としては以下の通りです。
・なるべく曲がり部が少なくなるように配管設計を行い、曲がり部に対してはその近傍に配管サポートを設置する。
・間欠流による加振力に耐えうる剛性を持った配管サポートを設置する。
・間欠流の周期性の配管自身の固有振動数が共鳴しないように配管支持を設計する。
キャビテーション
液配管のオリフィスや制御弁の下流側では、静圧が飽和蒸気圧以下になることで気泡が発生し、その気泡が潰れた際の圧力波で配管振動を引き起こすことがあります。これはポンプの吸込側で発生するキャビテーションと同じ原理で、減圧時の差圧が大きい時に発生しやすい現象です。
減圧時のキャビテーションによる振動数は配管自体の固有振動数に近く、共振、配管振動の原因となることが覆うです。
対策
対策は以下の通りです。
・減圧装置廻りでは必ず配管サポートを設置する。
・設計段階でプロセス計算によりキャビテーションが発生しないことを確認する。
・減圧時、大きな差圧となる場合は一段ではなく多段で減圧することを検討する。オリフィスを用いる場合は多孔オリフィスを用いる。
急減圧
ガス配管の安全弁や高差圧弁による急減圧が原因で配管に音響振動が発生することがあります。
この音響振動で発生する音響エネルギー(Sound Power Level)により短期間が配管が破損することがあり、これを音響疲労破壊(Acoustically Induced Vibration(AIV))と呼びます。
音響疲労破壊についての詳細はこちらに記事で解説していますので、ぜひご覧下さい。
まとめ
今回の記事ではプラントにおける配管振動を引き起こす主な原因とその対策について解説しました。
配管振動の主な原因
・ 水撃(ウォーターハンマー)
・ 脈動
・ 気液二相流
・ キャビテーション
・ 急減圧
これらのプラントにおける配管振動は、配管設計、特に配管のサポート設計を適切に実施することで回避可能ですが、それが適切になされていないことに起因する問題も多く報告されています。
プラントの改造、新設で配管設計をする場合は留意しておきたい内容です。また既設プラントの場合でも、身近なプラントの配管が振動対策がなされているか確認してみて下さい。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。