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プラント建設後の化学洗浄用薬剤と使用時の留意点について解説

今回の記事ではプラント建設後の化学洗浄用薬剤の種類と使用時の留意点について解説します。

プラントの建設には長期間を要するため、その期間に鉄さびが発生したり、グリスなどの油脂が残留することが多くあります。

これらの汚れ(スケール)が残留したままだと、プラント運転開始後のトラブル、事故の原因となるため、必ずプラントの洗浄が必要となります。

プラント洗浄には様々な方法がありますが、今回の記事では洗浄用薬剤を用いる「化学洗浄」について解説します。

化学洗浄はプレコミッショニングの一部です。他の洗浄方法を含めた、プラント建設後~試運転開始の準備作業についてこちらの記事を参照下さい。

化学洗浄で使用される薬剤は主に酸、アルカリ、有機溶剤に分けることができます。

主な薬剤

・ 酸
・ アルカリ
・ 有機溶剤

洗浄用薬剤の選定にあたっては、発生スケールの種類や油脂残留の有無などを考慮する必要があります。

また、化学洗浄は他の洗浄方法とは異なる留意点がいくつかの留意点があります。

詳細は次項から解説していきます。

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酸はさらに有機酸と無機酸に分類されます。

酸自体は配管、機器の金属に対して高い腐食性を持っているので、酸が単体で使用されることはほとんどなく、ほとんどの場合は腐食抑制剤(インヒビター)と併用されます。

インヒビターは使用する酸の種類によって異なる種類のものが使用されますので、薬剤として酸を使用する場合は、必ずその酸に対応するインヒビターの確認を忘れないようにして下さい。

無機酸

無機酸は薬剤の中では安価

なものが多いので、以前は洗浄用薬剤としては最も多く使用されていました。

スケールの溶解能力が高いという長所がありますが、その反面、配管、機器などの装置材料自体を腐食させてしまうリスクも高いので、最近ではあまり使用されることはありません。

塩酸(HCl)

塩酸は金属酸化物、塩をよく溶解し、かつ安価

という特徴がありますが、塩化物イオンを含むために、オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れを起こすリスクがあります。

硫酸(H2SO4)

硫酸も安価、スケール溶解能力の観点で、以前は洗浄用薬剤として使用されることもありましたが、水で希釈した時に発生する希釈熱の危険性により、洗浄時の取り扱いには要注意です。

スルファミン酸(H2NSO3H)

スルファミン酸は粉末として取り扱う

ことができるため、他の酸よりも取り扱いが容易です。

また、カルシウムやマグネシウムなどの水の硬度成分、その他金属成分を溶解しやすい性質があるため、これらを取り扱うプラントの洗浄において使用されます。

フッ酸(HF)

フッ酸は、他の薬剤では溶解しにくいシリカ(SiO2)をよく溶解させるという特徴があります。

使用する際はフッ化ナトリウム(NaF)、フッ化アンモニウム(NH4F)などの塩と混合されて使用されることが多いです。

フッ酸も、それ自体が毒性が強く危険な酸なので、使用時には注意が必要です。

有機酸

有機酸は無機酸のように配管、機器などの装置材料を腐食するリスクがが比較的小さい

というメリットがあるので、洗浄用薬剤として広く使用されています。

また、分子内に水酸基(OH基)やカルボキシル基(COOH基)を有しているものが多く、これらがスケールとキレートを形成して安定した形になるので、除去した金属イオンの再沈殿が起こりにくいというメリットもあります。

クエン酸(C6H8O7)

クエン酸はアンモニアを混合し、pHを3~5程度に調整したアンモニウム塩として使用されることがほとんどです。

多くの化学プラントの洗浄用薬液として使用されています。

グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)(C2H4O3)

他の有機酸よりもキレート生成能力が高いという特徴があります。

グリコール酸も、他の有機酸と混合されて使用されることが多く、特にギ酸と混合することで、良い洗浄結果が得られます。

ギ酸(CH2O2)

ギ酸は単体で用いられることはほとんど無く、他の有機酸、とくにグリコール酸と混合されて用いられることが多いです。

エチレンジアミン四酢酸(C10H6O8N2)

キレート生成能力が特に高く、中性~アルカリ性でもスケール溶解する能力があります。

通常、ナトリウム塩やアンモニウム塩の形で使用されます。

アルカリ

アルカリの洗浄用薬剤は、主に油脂分やシリカの除去を目的として使用されます。

また、単体で用いられることは少なく、2~3種類を混合して用いられることがほとんどです。

水酸化ナトリウム(NaOH)

強アルカリ性なので、配管、機器などの装置材料の腐食リスクが高く、最近ではプラント洗浄用薬剤としてはあまり使用されていません。

また、水への溶解時に大きな溶解熱が発生するので、取り扱いも要注意です。

炭酸ナトリウム(Na2CO3)

他のアルカリと比較して危険が少ないので、取り扱いやすく、比較的よく使用される薬剤です。

リン酸ナトリウム(Na3PO4)

リン酸ナトリウムは脱脂洗剤、中和防錆材としてよく使用されます。

他のアルカリと混合して使用することが多いです。

リン酸塩

数種のリン酸塩と混合して使用されます。特に界面活性剤と混合することで、優れた脱脂洗剤として効果を発揮します。

アンモニア(NH3)

アンモニアは2~4%の水溶液として用いられます。銅のスケールを除去したい場合に、酸化剤と添加剤と混合して使用されます。

有機溶剤

有機溶剤は酸、アルカリと比較して特に脱脂洗浄能力に優れています

洗浄は常温で行われ、洗浄後の乾燥作業も容易です。

四塩化炭素(テトラクロロメタン)(CCl4)

不燃性の液体で水に不溶なので、油脂や有機性のスケール洗浄に用いられます。

トリクロロエチレン(C2HCl3)

難燃性の液体で水に不溶で、多くの石油系有機物を溶解するという特徴があります。

アルコール

洗浄用薬剤として用いられるのは、メタノール、エタノール、ブタノールまでです。

主にナトリウムの金属スケールの除去に使用されますが、可燃性のため、取り扱いには要注意です。

洗浄目的と方法の決定

ここではプラントの洗浄目的毎に使用される薬剤や洗浄方法について解説します。

通常は一種類の洗浄方法だけでなく、複数の洗浄方法を組み合わせることが多いです。

脱脂洗浄

油脂分を除去するための洗浄

です。

主にアルカリ、界面活性剤、有機溶剤が使用されます。

通常は酸洗浄の前に実施される洗浄です。また、水溶液を用いる場合は80℃程度に加熱して洗浄が行われます。

酸洗浄

鉄さびなどのスケールを溶解除去するための洗浄

です。

これらのスケールを除去するための酸とそのインヒビターとして還元剤、シリカ溶解剤、銅イオン封鎖剤が添加されます。

アンモニア洗浄

スケール中に銅が多く含まれる場合

はアンモニア洗浄が実施されます。

2-4%のアンモニア水溶液を60℃程度に加熱し、0.2~1%程度の助剤が添加されます。

潤化処理

スケールの除去が困難で、酸では中々溶解除去できない場合は、前処理としてアルカリと潤化処理剤を併用して60℃程度に加熱して処理されます。

防錆処理

酸洗浄後、除去した後、プラント運転開始するまでの期間の処理

が防錆処理です。

通常は窒素などの不活性ガスを封入しておくことで錆の発生を防ぎます。

その他

化学洗浄の他にはウォーターフラッシングやスチームブローなどが実施されます。

詳細はこちらの記事を参照下さい。

洗浄時の留意点

化学洗浄を行う場合は、腐食、発生ガス、温度、濃度管理といった、他の洗浄方法とは異なる留意点があります。

主な留意点

・ 腐食
・ 発生ガス
・ 温度、濃度管理

最悪の場合は配管、機器などの腐食や事故につながる恐れがあります。

それぞれの留意点について解説します。

腐食

プラントで発生するスケールは鉄さび(酸化鉄)がほとんどです。

化学洗浄によって鉄さびをイオン化して溶解させますが、腐食性のある第二鉄イオン(Fe3+)も一部発生します。

この第二鉄イオンは配管、機器の母材を腐食させる性質があるため、発生を抑えなくてはなりません。また、インヒビターにより発生が抑えられますが、この効果薄れると発生量が大きくなってしまいます。

そのため、定期的に洗浄液の分析を行い、洗浄液の排出、インヒビターの添加も定期的に行うことが重要です。

発生ガス

スケールの種類によっては洗浄中に爆発性のガス、有害ガスを発生

することもあります。

例えば、塩酸は母材中の鉄と反応して水素ガスを発生させ、硫化鉄のスケールは硫化水素を発生させます。

そのため、洗浄中の発生ガスはなるべく高い所から放出して大気中に拡散させるなどの対策が必要です。また、当然ながら洗浄中の火気の使用は厳禁です。

また、発生ガスをアルカリなどで除害してから大気放出することや、現場作業員にエアーラインマスクの着用を徹底させることも有効です。

温度、濃度管理

局所的に温度、濃度が高いと、その部分だけ腐食が進行してしまう

ことがあります。

そのため、出来る限り均一に加熱、濃度も均一になるよう、通常は化学洗浄は循環させる方式が用いられます。

まとめ

今回の記事ではプラント建設後の化学洗浄用薬剤の種類と使用時の留意点について解説しました。

プラントの建設には長期間を要するため、その期間に鉄さびが発生したり、グリスなどの油脂が残留することが多くあります。

これらの汚れ(スケール)が残留したままだと、プラント運転開始後のトラブル、事故の原因となるため、必ずプラントの洗浄が必要となります。

プラントの洗浄においては、酸やアルカリなどを用いた化学洗浄が行われることが多いですが、これらの洗浄用薬剤の選定では、発生スケールの種類や油脂残留の有無などを考慮するほか、腐食や発生ガス、温度管理にも注意を払う必要があります。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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