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【材質】メタルダスティング(Metal Dusting)とは?メカニズムと対策について解説

こんにちは。Toshi@プラントエンジニアのおどりばです。

今回の記事ではメタルダスティング(Metal Dusting)のメカニズムと対策について解説します。

メタルダスティングは、CO, H2, CO2, H2Oを含むガスで発生する現象です。

特に、CO, H2, CO2, H2Oが主成分の合成ガスの配管、機器で多く報告されており、これらの成分が、ある温度、圧力域で析出した炭素が配管、機器の金属材料に接触することで、金属を微粉にして崩壊させてしまう現象です。

この現象により、金属材料表面にくぼみや溝を形成、材料の厚みの減少といったトラブルを引き起こします。

■メタルダスティング写真

出典:Metal dusting corrosion initiation in conversion of natural gas to synthesis gas

反応機構は以下の通りです。

<メタルダスティングの反応機構>

CO + H2 <-> C + H2O, a =K1*PCO*(PH2/PH2O)
2 CO <-> C + CO2, a =K2*(P2CO/PCO2)
CH4 <-> C + 2 H2, a =K3*(PCH4/P2H2)

a:Carbon Activity
Ki:平衡定数
Pi:分圧

特に温度 400~850℃の温度域、Carbon Activityが 1以上(化学平衡が上記の反応式の右側にずれる場合)で発生しやすいと言われています。

また、金属材料は主に鉄系材料で顕著にみられ、合金でも発生することがあります。

■メタルダスティングの温度依存性

出典:On the Mechanism of Metal Dusting Corrosion

メタルダスティングは天然ガスや石油などを扱うプラントでは発生しやすい現象のため、これらのプラントでは対策は必須です。

次項からメタルダスティングのメカニズムと対策について解説します。

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メカニズム

メタルダスティングのメカニズムは大きく分けて鉄系材料とNi系合金材料の2つに分類されます。

いずれも金属材料が微粉化するという点では同じです。

鉄系(合金)材料

出典:ResearchGate

上図を基にメカニズムを解説すると以下の通りです。

メカニズム

a) 材料表面で炭素が析出・飽和する。
b) 準安定なFe3C(セメンタイト) が生成する。
c), d) 炭素の拡散供給が続き、グラファイトが成長し、Fe3C 層に進入する。
e) 金属相から離れてカーボンフィラメントが成長する。
f) 600℃以下で、Fe3C が内部に向かって成長する。外側では炭素が生成して崩壊が進む。
g) 700℃以下で、Fe3C が分解してFe3C と炭素の間に鉄粒子と粉状炭素が生じる。
h) 金属粒子が更なる炭素析出を触媒し、炭素が内部に拡散する。

Ni系合金材料

Ni系合金材料の構成元素であるニッケルやコバルトは、鉄系材料とは異なり、準安定な炭化物を生成しません。

しかし、析出した炭素が、材料表面から酸化皮膜の欠陥や粒界を通って内部に向かって拡散し、炭素で飽和した母材が炭化物を経ないで直接金属粒子とグラファイトに分解することで、金属材料を微粉に崩壊させます。

対策

メタルダスティングの対策は、運転条件による対策と材料による対策があげられます。

しかし、製品の品質や収率の面から運転条件を変更することが難しいことが多いので、一般的には配管、機器の材料で対策します

それぞれの対策について解説します。

温度

メタルダスティングが発生しやすい温度(400℃~850℃)を避けて運転することです。

ガス組成

メタルダスティングは対象のガスが還元性雰囲気(COやH2濃度が高い)であれば発生しやすいため、これらの成分濃度を上げないように運転することで回避可能です。

硫黄化合物の注入

硫黄化合物の存在は炭素の生成を抑制する効果があるため、ガス中に微量の硫黄化合物(H2S, CS2, DMDSなど)を注入して共存させることも有効な対策となります。

合金の使用

Cr、Si、Alの酸化物皮膜の存在により、COと金属の反応とのバリアーになるため、メタルダスティングが抑制されると言われています。そのため、Cr、Si、Alを含む合金を配管、機器に使用することで、メタルダスティングの有効な対策となります。

まとめ

今回の記事ではメタルダスティング(Metal Dusting)のメカニズムと対策について解説しました。

メタルダスティングは、CO, H2, CO2, H2Oを含むガスで発生する現象ですが、これらの成分が主成分の合成ガスの配管、機器で多く報告されており、これらの成分が、ある温度、圧力域で析出した炭素が配管、機器の金属材料に接触することで、金属を微粉にして崩壊させてしまう現象です。

この現象により、金属材料表面にくぼみや溝を形成、材料の厚みの減少といったトラブルを引き起こします。

メタルダスティングは天然ガスや石油などを扱うプラントでは発生しやすい現象のため、これらのプラントでは対策は必須です。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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