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Lethal Serviceとは?毒性物質のプラント設計への影響、判定基準について解説

今回の記事ではLethal Service、毒性物質がプラント設計に与える影響、判定基準について解説します。

化学プラントでは、製造工程で毒性の強い物質を使用したり、そもそも製品自体が強い毒性を持っていることが良くあります。

そのような物質については、通常の物質とは異なり、設計面で特別な配慮が必要になります。そのため、プラントエンジニア(プロセスエンジニアだけではなく、配管・機器エンジニアも)は、このような物質を扱う場合の設計への影響は知っておかなければなりません。

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Lethal Service(リーサルサービス)とは

Lethal Serviceとは世界の圧力容器の設計に関する規格では最も一般的である、ASME (American Society Mechanical Engineers/アメリカ機械学会)section Ⅷ div.1で定義されている用語です。

Lethalを直訳すると「致死的な」という意味ですが、ASMEでの定義は、以下の通りとなっており、圧力容器の設計において、強い毒性を持つ物質(毒性物質)を扱うときに適用されることが分かります。

poisonous gases or liquids of such a nature that a very small amount of the gas or of the vapor or the liquid mixed or unmixed with air is dangerous to life when inhaled. This class includes substances of this nature that are stored under pressure or may generate a pressure if stored in a closed vessel

設計上の要求事項

Lethal Serviceに該当することにより、ドラム、タンク、熱交換器などの圧力容器の設計において、様々な要求事項を満足しなければなりません。

一例を挙げると以下の通りです。

要求事項の例(ASME sectionⅧ)

・突合せ溶接部の全ての部位に非破壊検査(100%RT)をしなければならない。
・溶接部に対して溶接後熱処理が必要。
・耐圧部の材質に鋳鉄やダクタイル鉄が使用できない。
・フランジの種類に制限がある。
・溶接方法に制限がある。
・銘板に「L」のスタンプが必要

検査項目が増えたり、材質・溶接方法に制限があったりと、通常の流体よりも厳しい要求があることが分かります。そのため、間違いなく機器コストアップの要因となりますし、対応できる機器ベンダーも限られるので、プラントエンジニア側の立場からすると、なるべく該当させたくありません。

プロセスエンジニアが機器データシートを作成する時は、Lethal Serviceに該当することが判明した場合、必ずデータシートに明記することを忘れないようにしてください。

もちろん、データシートに記載して終わりではなく、プラント試運転時も、有毒な物質を扱っていることを忘れず、運用面でも特別な配慮が必要なので、その点も忘れないようにしてください。

注意

上記で挙げている要求事項はあくまでも一例です。実際の業務で設計に使用する場合は、必ず規格を読んで内容を理解した上で使用してください。

JIS B 8265 の場合

続いて、国内の規格であるJIS B 8265 「圧力容器の構造-一般次項」の場合について解説します。

JIS B 8265では「致死的物質又は毒性物質」という表現となっていますが、これはASME section Ⅷで言のLethal Serviceのことです。

致死的物質又は毒性物質に該当した場合の設計上の要求事項の一例を挙げると以下の通りです。

要求事項の例(JIS B 6265)

・材質の使用に制限がある。(4.2 鉄鋼材料)
・すべての溶接部に非破壊検査(100%RT)が必要(8.2 溶接接手の非破壊試験)
・溶接後に原則熱処理が必要。(付属書S)

圧力容器に関するJIS規格は、基本的にASME規格に準拠した内容になっているため、JISで設計する場合も、ASMEも同様の設計が求められると理解しておいて問題ありません。

 

ASME 31.3の場合

化学プラントの配管設計においては、同じく世界的に一般的に適用される規格であるASME 31.3 Process Pipingでも同様に規定があります。

ASME 31.3 ではCategory M Fluid Serviceという規定があり、Lethal Service同様に強い毒性を持つ物質(毒性物質)に対して適用されるものであることが分かります。

the fluid is so highly toxic that a single exposure to a very small quantity of a toxic fluid, caused by leakage, can produce serious irreversible harm to persons on breathing or bodily contact,even when prompt restorative measures are taken.

配管設計上の要求事項の一例を挙げると以下の通りです。

要求事項の例(ASME 31.3)

Short term conditionが許容されない。
・安全弁作動時の圧力上昇値の、設計圧力超過の許容値が小さい
・全ての溶接部の非破壊検査(100%RT)が必要

安全弁作動時の圧力上昇についてはこちらの記事で解説しています。

圧力容器同様、配管についても設計面で厳しい要求がなされていることが分かります。

Lethal Serviceの判定基準

Lethal Serviceの判定基準はASMEでは言及されておらず、プラント設計者(エンジニアリング会社)の判断に委ねられています。

実際にJIS B 8265でも、以下の記載があり、JIS編集者も判定基準の制定に苦慮していることが分かります。

致死的物質及び毒性物質について[4.2.1 b) 2.4),8.2 a) 1.14) 及びS.2 a) 3)] 附属書S の溶接後熱処理を施す箇所の一つに,旧規格では“致死的物質又は毒性物質を保有する圧力容器及び圧力容器の部分”として規定している。これら致死的物質及び毒性物質に関する事項は,高圧ガス保安法などで“毒性ガス”,“特殊高圧ガス”,“特定高圧ガス”,“第1 種毒性ガス”などの用語が用いられ,定義されている。

一方,ASME 規格では“致死的物質(lethal substance)”が定義されている。これらを総合的に解釈すると“致死的物質又は毒性物質”は,重複した表現で用いられている。このため,“致死的物質”は,“毒性物質”に含まれるので“毒性物質”だけとしても問題ないと考えられる。しかし,いずれを採用しても次のような問題点ある。

1) 毒性物質 “lethal substance”は,“毒性ガス”より更に毒性の強い狭義の物質と考えられる。ASME規格の“致死的物質(lethal substance)”を“毒性物質”とするとlethal service に要求される規定が大幅に増加し,実態とそぐわない。
2) 致死的物質 “致死的物質”を用いると定義が曖昧であり,また“特定高圧ガス”を用いても毒性の強いガスという意味ではなく,実態に合わない。
3) 第1 種毒性ガス 最新の高圧ガス設備等耐震設計基準告示による“第1 種毒性ガス”は,用語として不適切である。

 

この項目ではLethal Serviceの判定基準の一例について解説します。

あくまでも一例なので、自社に判定基準がある場合はそれに従い、判定基準が無い場合の参考として扱って下さい。

Lethal Serviceに該当する物質の例

一例として以下の物質を挙げます。これらの物質がそれぞれ所定の濃度よりも高い場合、Lethal Serviceとして扱うことになります。
(配管の場合はCategory M Fluid Service)

該当例

硫化水素(H2S):1000 volppm
メルカプタン:100 volppm
アンモニア(NH3):20 wt%
ベンゼン:5 wt%
1,3-ブタジエン:1 vol%

GHSを利用した判定基準

Lethal Serviceの判定基準としてGHSを利用する方法もあります。

GHSとは化学品の分類および表示に関する世界調和システム(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals)」のことで、化学品の危険有害性の取り決め、表示について世界標準となるように定められた決め事です。

原文は環境省のサイトで無料で入手可能です。

この中に、健康や環境に対する有害性を定めた項目があり、取り扱う物質がその項目のどれかに該当し、所定の濃度以上であればLethal Serviceにも該当する、という考え方です。

GHSの定義項目

・急性毒性(Acute Toxity)
・皮膚腐食性/刺激性(Skin Corrosion/irritation)
・生殖細胞変異原性(Ger Cell Mutagenicity)
・発がん性(Carcinogenicity)
・生殖毒性(Reproductive Toxity)
・水生環境有害性(Hazardous to the Aquatic Environment)

GHSを利用したLethal Serviceの判定基準は以下の通りです。「下記の基準に一つでも該当すれば。その流体はLethal serviceとなる」という考え方です。

Lethal Serviceの判定基準

・「急性毒性」の「区分1」に該当し、かつ気体で1vol%以上または液体で7wt%以上
・「皮膚腐食性/刺激性」の「区分1」に該当し、かつ気体で1vol%以上または液体で5wt%以上
・「生殖細胞変異原性」の「区分1A」か「区分1B」に該当し、かつ気体で1vol%以上または液体で5wt%以上
・「発がん性」の「区分1A」か「区分1B」に該当し、かつ気体で1vol%以上または液体で5wt%以上
・「生殖毒性」の「区分1A」か「区分1B」に該当し、かつ気体で1vol%以上または液体で5wt%以上
・「水生環境有害性」の「区分1」に該当し、25%以上

また、製品評価技術基盤機構(NITE)各物質のGHS分類結果のリストをエクセルファイルで公開していますので、このリストから、取り扱う物質がGHS上でどのように分類されるか確認可能です。

まとめ

今回の記事ではLethal Service、毒性物質がプラント設計に与える影響、判定基準について解説しました。

Lethal Serviceに該当することで、機器・配管の設計上の要求項目が厳しくなり、コストアップの要因や工程遅れの要因になり得ます。

そのため、プラントエンジニア(プロセスエンジニアだけでなく、機器・配管担当のエンジニア)は理解しておかなければならない内容です。また、設計時のみ注意しておけば良いのではなく、プラント運転時も、有毒な物質を扱っていることを忘れないようにご注意下さい。

判定基準については、自社で基準があればそれを使用するべきですが、そのような基準が無い場合に参考になれば幸いです。

この記事が役に立てば幸いです。それではまた別の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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