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「設計圧力」「最高運転圧力」「最高使用圧力」は何が違う?各圧力について徹底考察

今回はプラントエンジニアリングに登場する様々な圧力の違いついて解説したいと思います。

 

プラントエンジニアリング業界では、温度だけではなく、圧力についても様々温度が定義されております。

設計温度についてはこちらの記事を参照ください。

例えば、運転圧力設計圧力の他、高圧ガス保安法では常用圧力最高使用圧力という言葉が定義されており、さらにはMaximum Allowable Operating Pressure (MAOP)や、Maximum Allowable Working Pressure (MAWP)Maximum allowable accumulation pressure (MAAP)という言葉も存在しています。

もともとの法規・規格の表現があいまいになっていることもあって、人によって解釈が分かれるところもあります。そのため、この記事では、管理人の経験に基づく解釈の一つであること、ご留意ください。

しかし、これらの用語を比較した日本語の記事は他になく、プラントエンジニアだけでなく、プラント業界に関わりのある方なら知っておいて損はない情報なので、ぜひ一読下さい。

設計圧力の決定方法についてはこちらの記事を参照下さい。

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運転圧力

これは説明不要でしょう。運転圧力とはその名称の通り、プラントが通常状態で運転されているときの圧力のこと言います。

なお、運転状態が複数あるときは、それぞれの圧力を運転圧力と呼びます。

運転圧力の一例

(1) スタートアップ直後と定期シャットダウン直前とで、運転状態が経時的に変化する場合の、それぞれの圧力
(2) 製品の銘柄切り替えで、運転圧力が異なる場合のそれぞれの圧力

運転圧力も、運転温度同様に、プロセスフロー図(PFD)上に記載されます。上記のように複数の運転状態がある場合は、PFD上でも分けて記載する場合があります。

PFDについてはこちらの記事を参照ください。

常用圧力

高圧ガス保安法では「通常の使用状態において、当該設備などに作用する圧力(当該圧力が変動する場合にあっては、その変動範囲のうちの最高の圧力)であって、ゲージ圧力」と定義されています。

温度に関する記事で記載している通り、複数の運転圧力中での最高の運転圧力、すなわち最高運転圧力のことを言います。

なお、常圧という言葉については、通常は大気圧(0MPaG)のことを指します。

混同しないようにご注意下さい。

なお、複数の運転状態で最も低い運転圧力は最低運転圧力と定義しますが、こちらはあまり意識されることはありません。

設計圧力

この項目以降からは解釈が分かれる所ですが、管理人が思う最も自然な解釈としては、設計圧力=最高使用圧力と読み替えることです。(経済産業省の通達参照)
設計圧力=常用圧力と解釈する場合もあるようです。この解釈については自治体に確認するのが確実です。

設計圧力の定義が「特定設備を使用することができる最高の圧力として設計された圧力」であるため、あくまで通常運転状態を基準として考えるべきだと思います。

つまり、通常運転範囲内での最高の圧力(最高運転圧力)において、プラントに異変(Design Contingency)が発生した場合に、通常の運転範囲を逸脱して到達し得る圧力を設計圧力(最高使用圧力)と考えると自然です。

 

設計圧力についても、設計温度同様、最高運転圧力を元に決めますが、これを決めるのはプロセスエンジニアの仕事です。

決定方法は下記の記事で解説しておりますが、ここでも「設計圧力は運転圧力を元に決定される」ことを理解しておけば良いでしょう。

一方、低い方の設計圧力(最低設計圧力)は、その系内が負圧になる可能性があるのであれば、真空(Full Vacuum)が最低設計圧力となります。

MAOP

MAOPは(Maximum Allowable Operating Pressure)の略称です。

wikipediaを引用すると、

Maximum Allowable Operating Pressure or MAOP is a pressure limit set, usually by a government body, which applies to compressed gas pressure vessels, pipelines, and storage tanks. For pipelines, this value is derived from Barlow's Formula, which takes into account wall thickness, diameter, allowable stress (which is a function of the material used), and a Safety factor.

 

とありますが、管理人は仕事をしていてこの表現は見たことがありません。

どうやら、ASME(American Society of Mechanical Engineers)31.4 Pipline Transportation System fir Liquids and Slurries(主に石油パイプライン)で規定されている圧力のようです。

定義の文面だけ見ると、設計圧力と同じ圧力で良さそうですが、設計圧力≦MAOPと解釈することもあるようです。

海外プラントのおける配管・圧力容器はASME 31.1(Power Piping)ASME31.3(Process Piping)ASME Section Ⅷ (Boiler & Pressure Vessel)で設計することが多いのですが、これらにはMAOPという言葉は出てこないので、このMAOPについては別枠で考えておく方がよさそうです。

MAWP

MAWPは(Maximum Allowable Working Pressure)の略称です。

wikipediaを引用すると、

MAWP is defined as the maximum pressure based on the design codes that the weakest component of a pressure vessel can handle.[1] Commonly standard wall thickness components are used in fabricating pressurized equipment, and hence are able to withstand pressures above their design pressure. The MAWP is the pressure stamped on the pressure equipment, and the pressure that must not be exceeded in operation.

とあり、これは圧力容器を設計する際は必ず見かける圧力です。

 

MAWPは、その圧力容器の肉厚から機械的強度を考慮して決定されるものです。

設計圧力は運転圧力を元に決定される圧力に対し、MAWPは圧力容器自体を設計するために決定される圧力と理解しておけば良いと思います。

 

そのため、安全サイドで設計するために、MAWPは設計圧力以上の値である必要があります
(MAWP = 設計圧力とすることも認められる)

ASME section VIII div.1では、耐圧試験圧力はMAWPの1.3倍以上とありますが、設計圧力の1.3倍と読み替えても問題ありません。詳細は耐圧試験に関する記事を参照ください。

MAAP

MAAPは(Maximum Allowable Accumulation Pressure)の略称です。

これは安全弁に設計に関する規格であるAPI(American Petroleum Institute) 520 Pressure Safety Valve (PSV) Sizingで登場する圧力であり、プロセスエンジニア(特に安全弁の設計担当)は理解しておく必要があります。

 

プラント機器・配管の圧力が過度に上昇した場合、損傷を防ぐための装置として、多くの場合は安全弁が設置されます。

通常は設計圧力を安全弁のset値にしますが、実際に安全弁が作動しても、圧力上昇はその値で停止するのではなく、ある程度は上昇し続けます。

このことを圧力のAccumulationと言い、安全弁の吹出し圧力がこの圧力に該当します。

 

安全弁の設定対象や規格によってAccumulationの割合は異なりますが、この範囲内であれば、設計圧力を超過しても許容されることになります。

API 520で規定されているAccumulationの例を挙げると以下の通りです。

圧力Accumulationの例

・ 火災による安全弁作動:21%
・ 火災以外の事象による安全弁作動:10%
・ 火災以外の事象による安全弁作動(複数基):16%
・ 配管に設置された安全弁:33%
(・ ボイラなどの蒸気の安全弁作動:3%(JIS B 8210))

API520では安全弁Set値は設計圧力ではなく、MAWPにすることも認めておりますので、これら圧力の大小関係はMAAP>MAWP≧設計圧力となります。

なお、国内の自治体によっては、安全弁のset値を設計圧力より低い値にするように指導している所あります。

このような解釈の違いについて、管理人はMAAP(Maximum Allowable Accumulation Pressure)の考え方によるものだと推察しています。

管理人の私見では、安全弁Set値を設計圧力より下げる意味は無いと思うのですが、こればかりは自治体の指導に従うしかないと思います。

Lethal Serviceに該当する場合は、配管については33%のAccumulationが認められず、機器と同様になります。

まとめ

最低設計圧力、最低運転圧力、常用圧力、設計圧力、最高使用圧力、MAOP、MAWP、MAAPについて解説しました。

図にまとめると以下の通りになります。

高圧側はたくさんの言葉が定義されており、混同しやすいですが、この図が理解の一助になれば幸いです。

ただし、この図は管理人の私見も入っており、解釈の違いがある可能性もありますので、実業務の際は必ず自治体の担当者に確認をしておいてください。

 

本記事で解説したこれらの圧力は、プロセス設計者(プロセスエンジニア)の担当業務(機器リストの作成やP&IDの作成)では必須の知識です。

プロセスエンジニアの業務については、こちらの記事を参照ください。

 

運転温度、設計温度、最高使用温度など、各種温度についてはこちらの記事を参照ください。

設計圧力の決定方法についてこちらの記事を参照ください。

今回の記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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