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持続可能なジェット燃料"SAF"とは?分類・製造プロセスについて解説

こんにちは。Toshi@プラントエンジニアのおどりばです。

今回は持続可能なジェット燃料(航空燃料)である「SAF」の分類、製造プロセスについて解説します。

世界的に脱炭素が叫ばれている中、航空業界でも脱炭素に関する技術開発が行われており、自動車同様、航空機でも水素航空機や電動航空機の開発が行われています。しかし、これらの技術は積載重量が大きく長距離の飛行が要求される航空機では不向きとされており、実用化にはまだまだ時間を要するのが現状です。

そこで従来のジェット燃料同様の性状を持ち、ジェット燃料とも混合可能で、既存の燃料供給設備、航空機エンジンの変更が不要であるSAFが注目されています。

SAFは「Sustainable Aviation Fuel」の略称で、主には植物由来の原料、動物油、回収CO2と再生エネルギー電力を用いた電解水素から作られたジェット燃料のことを指します。化石燃料由来のジェット燃料と混合された燃料もSAFと呼ばれるため、化石燃料由来でない純粋なSAFを「NEAT SAF」と呼ぶこともあります。

次項から分類・製造プロセスついて解説していきます。

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SAFの種類について

SAFはASTM(American Society for Testing Materials(アメリカ材料試験協会))規格に一つであるASTM D7566によると、7種類に分類されます。

ASTM D7566 : Standard Specification for Aviation Turbine Fuel Containing synthesized Hydrocarbons

製造プロセス 略称 従来燃料との
混合上限
Annex-1 FT合成によって製造されるパラフィン FT-SPK 50%
Annex-2 主に植物油の水素化処理によって
製造されるパラフィン
Bio-SPK
HEFA
50%
Annex-3 発酵水素化処理糖類によるイソパラフィン SIP 10%
Annex-4 非化石燃料由来の芳香族のアルキル化によって
製造されるケロシン
SPK/A 50%
Annex-5 アルコール原料のパラフィン ATJ-SPK 50%
Annex-6 接触超臨界水熱分解油脂 CHJ 50%
Annex-7 炭化水素-HEFA HC-HEFA 10%

この中で、現時点で商業的に稼働しているSAF製造の大部分はAnnex 2の動植物油(廃食油、油脂)を原料としたHEFAです。また各Annexの製造プロセスは、必ずしもそれぞれで完結しておらず、部分的に組み合わせて製造されることもあります。

SAFと石油由来ジェット燃料との混合割合が10-50%の範囲に制限されているのは、安全性を特に重視する航空業界において、SAFは未だ安全実績を積上げる段階にあることが大きな理由です。試験飛行レベルにおいては既に100%SAFを燃料とした飛行試験に成功しています。

それぞれのSAFの性状については開示情報が少ないですが、JPECの資料によると、比較すると次の表の通りになります。

出典:JPECレポート, No.220401

Annex-1:FT-SPK、FT合成油

原料は廃木材や都市ゴミなどのバイオマス(有機物)全般、それをガス化(合成ガスの製造)をした後でFT合成(フィッシャー・トロプシュ合成)を行い、更に水素化処理をして得られるパラフィン構造の液体燃料がAnnex-1に分類されます。

バイオマスをガス化することで、一旦CO/CO2とH2に分解した後にパラフィンを合成する工程のため、製造プロセスは複雑ですが、幅広い原料に適用可能とされています。

Annex-1では、再生可能電力(風力発電、太陽光発電など)由来のグリーンH2と、空気中から回収したCO2(Direct Air Capture/DAC)や工場排ガスから回収されたCO2を原料とした場合も含まれます。そのため、CCUとしての回収したCO2の有力な用途として注目されています。

すでに、ドイツでは風力発電由来のH2とCO2を合成してジェット燃料を製造するプラントが運転開始されています。

Annex-2:Bio-SPK HEFA、HEFA-SPK

原料は植物油(ナタネ油、大豆油など)、動物性油脂(ラードなど)、また廃食油などの脂肪酸エステルを水素化することで得られるSAFがAnnex-2に分類されます。これらの油脂は分子量が大きいため、ジェット燃料として使用するためには、高温高圧の条件で分解や異性化する工程が必要です。また、変質しやすいという問題がありますが、水素化分解する事で変質しにくい安定した品質のSAFが製造されています。

これらの燃料の製造においては、使用する設備が既存設備の改造で済むことも有り、「バイオディーゼル」として世界中で製造販売されており、最も普及しているSAFですが、いずれも自動車や船舶に用いられるHEFAディーゼル燃料の製造を主としており、SAFとしての製造割合は相対的に小さいです。

後述するAnnex 7のHC-HEFAは、原料として微細藻類から採取される油脂を原料としますが、製造方法はほぼ同じです。

Annex-3:SIP、Synthesized Iso-Paraffins、発酵水素化処理糖類由来のイソパラフィン(SIP)

主な原料はサトウキビのようなバイオマス由来の糖です。これらを発酵技術により炭化水素(ファルネセン、Farnesene、3つのイソプレンからなるセキステルペンの1種。化学式:C15H24)に転換し、さらに水素化によってえられたバイオジェット燃料がAnnex-3に該当します。

このプロセスははSTJ (Sugar to Jet)と呼ばれ、AmyrisがTotalEnergiesと共同で本技術を開発しAnnex-3の認証を取得したものの、現在ではこのプロセスによるSAFは製造されていないようです。

Annex-4 SPK/A

原料は非石油由来の芳香族が使用され、Annex-1で解説したのFT合成プロセスで得られた合成油に添加し、アルキル化する事により得られた合成ケロシンがAnnex-4に分類されます。

米国のRentechによって開発されたプロセスですが、コロラドに建設した実証プラントを2014年に中国のKaidi New Energy Groupに売却しており、現時点で、実際に製造に向けた動きはないようです。

Annex-5:ATJ-SPK、アルコール合成パラフィン

原料はバイオエタノールなどのアルコール類、それを脱酸素工程を経て重合することで得られるジェット燃料がAnnex-5に分類されます。いわゆるAlcohol to Jetと呼ばれるプロセスです。

原料となるバイオエタノールはすでに自動車用ガソリンの添加されるなどで実用化されているおり、バイオエタノールの原料としては穀物、糖類ではなく樹木、草木類や農業廃棄物を使用する研究も進められています。そのため、Annex-2のSAFに次いで大量生産が実現できる可能性があると言われています。

Annex-6:CHJ、Catalytic Hydrothermolysis Jet

原料は廃食油、動植物油脂などの生物系油脂(脂肪酸エステル)で、それを水熱処理及び水素化処理することで得られるジェット燃料がAnne-6に分類されます。

Anne-6のSAFは様々なプロセスが検討され、一例を挙げると次の通りです。

・HTL(Hydrothermal Liquefaction):バイオマスを高温高圧の熱水中で熱分解させ、バイオ原油を得る。
・CPK(Integrated Hydropylorysis and Hydroconversion Cycloparaffinic Kerosine):主に木質バイオマスを特殊な触媒技術で熱分解し炭化水素化する技術。
・HC-HEFA(Hydroprocessed HydroCarbons, Esters and Fatty Acids)主に特殊な藻類Botryococcus brauniiが分泌する藻油(炭化水素)を水素化処理しバイオジェット燃料化する技術。改質技術自体はAnnex 2(HEFA)と同じ。IHIが推進している技術(特認でAnnex 7として認証)

Annex-7:Hydrocarbon-HEFA (HC-HEFA)、微細藻類

Annex 2(HEFA)の水素化プロセスの原料を、動植物油などの脂肪酸エステルから炭化水素も含めた形に拡張したものがAnne-7に分類されます。

IHIが開発した微細藻類ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)から得られる藻油が対象です。原料としてはAnnex-2相当ですが、得られる藻油が酸素を含まない炭化水素でありAnnex 2に当てはまらないためAnnex 7として特例として認証されたSAFです。そのため、Annex-7認証を受けたのはIHIのみとなっています。

通常とは異なる認証フローであったため、従来のジェット燃料への混合の上限は10%となっています。

出典:IHIプレスリリース, 微細藻類から製造したバイオジェット燃料を国内定期便に供給

まとめ

今回の記事ではSAFの分類や製造プロセスについて解説しました。

SAF製造の実用化、商業化については各社が鋭意研究開発を進めていますが、課題も多く残されています。一例を挙げるの次の通りです。

SAFの課題

・再生可能原料を用いるがゆえに、それらの生産量には限界があるため、より幅広い原料を用いたSAF製造技術の開発が必要。
・原料となるバイオマスは既に多くの用途に使われているため、競合が発生し安定した原料の確保に限界がある。
・Annex-1のようなFT合成由来のSAFでは、幅広い原料に対応できる前処理技術の確立、SAF収率を高めるための触媒の開発が必要。
・原料、製造方法によってはバイオナフサなど副産物ができ、SAFの収率向上に直接つながらないものもある。

今回の記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在150記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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