
今回はプラント配管の耐震設計と診断のポイントと漏洩を防ぐための技術指針について解説します。
プラント設備において、貯槽や塔などの機器類に比べて、配管系は保有量が少ないために耐震上軽視されがちです。
しかし、配管は設備の隅々まで張り巡らされており、形状も複雑で不定形であるため、地震時の挙動予測が難しく、過去の震災(阪神・淡路大震災や東日本大震災)でも大きな被害を受けました 。
そのため、地震時に配管がどのように挙動し、何が原因で破損するのか。そのメカニズムを正しく理解していなければ、本当の意味での安全は確保できません。
今回は、プラントの配管系の耐震診断に焦点を当て、どのような視点で設計・診断を行うべきか、その技術的要点について解説します。
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耐震設計の目的:建築物との違い
まず理解しておくべきは、建築物とプラント(特に高圧ガス設備)の耐震設計の目的の違いです。
建築物: 倒壊等を防止することが主目的
高圧ガス設備: 耐圧部分(高圧ガスが通る部分)の破損によるガスの漏洩、拡散等を防止することが主目的
つまり、プラントの配管系の要求耐震性能は、「漏えいがないこと」および「有害な変形の残留がないこと」と定義されます 。
配管系の「損傷モード」について
耐震診断を行うには、まずどこがどのように壊れるか(損傷モード)を知る必要があります。主な損傷部位は以下の通りです 。
配管系の主な損傷部位
地震が配管に与える「8つの影響要因」

配管系が損傷する原因は、単に「揺れ」だけではありません。
配管系が地震で損傷する原因(影響要因)は、主に以下の8つに分類されます。耐震診断では、これら全ての要因に遡って弱点を予測する必要があります 。
配管への8つの影響要因
1. 配管の地震応答加速度による慣性力
2. 配管支持構造物の応答変位に基づく「相対変位」
3. 地盤変状(液状化・流動)に基づく相対変位
4. 配管サポート(支持構造物)の機能喪失
5. 周辺構造物との相互干渉
6. 経年変化(腐食・劣化)
7. 構造材料・構造形態
8. 施工状況
配管の地震応答加速度による慣性力
配管自身の重さや、配管に取り付けられた弁・フランジ等の重量物が、地震の揺れ(加速度)によって配管に大きな応力(反力、せん断力、曲げ・捩りモーメント)を生じさせます。
スパン長の影響: 支持間隔(スパン)が長いほど、応力は大きくなります。そのため、「許容スパン長」以下であることが診断の基本となります 。
重量物の影響: スパン間に弁などの重量物がある場合も応力が増大します。「付加重量を考慮した許容スパン長」に対する「実際の配管スパン長」の比率(1以下なら健全)を確認することが重要です 。
配管支持構造物の応答変位に基づく「相対変位」
これはプラント配管特有の非常に重要な概念です。
配管の両端が、異なる揺れ方をする構造物(例:塔と架構)に支持されている場合、それぞれの揺れの違いにより、配管が無理やり引っ張られたり圧縮されたりします。
これを「わたり配管」と呼び、地震の影響を非常に受けやすい箇所です 。
主な対策は以下の通りです。
相対変位への対策
1. 支持間隔を長くして柔軟性を持たせる。
2. 配管にループ(ルーズ)を設ける。
3. 伸縮継手(エキスパンションジョイント)を入れる。
4. 設置高さを下げる(低い位置ほど構造物の揺れ幅が小さい)。
地盤変状(液状化・流動)に基づく相対変位
地盤の液状化により、基礎が沈下したり、護岸の移動に伴って側方流動(水平移動)したりすることがあります。
例えば、「杭基礎」と「直接基礎」の間を渡る配管や、大小異なる基礎間を渡る配管は、基礎ごとの移動量の差(相対変位)により強制変形を受け、損傷リスクが高まります 。
また、護岸近くでは海側への地盤流動が発生しやすく(阪神大震災では3m以上の例もあり)、配管が引きちぎられる事例があります 。
配管サポート(支持構造物)の機能喪失
配管サポート自体が地震で壊れてしまうと、配管を支えきれなくなります。
ガイドの外れ: レストレイント(ガイド)において、地震変位が大きく、配管がガイドから外れてしまう(脱落する)と、拘束機能が失われます 。
固定点の破損: アンカー(固定点)が破損すると、本来止めるはずの力が隣のスパンに伝わり、連鎖的な破壊を招く恐れがあります 。
エネルギー吸収部材の劣化: ダンパー等が劣化して機能しない場合、想定以上の揺れが発生します 。
周辺構造物との相互干渉
配管自体は大丈夫でも、揺れた配管が近くの壁や柱に衝突したり、逆に周辺の構造物(点検歩廊やラダーなど)が倒壊・落下して配管を直撃したりするケースです。
衝突: 配管の揺れ幅を考慮していないと、近くの柱や壁、他の配管に衝突して破損します 。
構造物の倒壊・落下: 地震により隣接するフレアスタックやクレーン、照明などが倒壊・落下し、配管を直撃して内容物が漏洩、火災に至る事例があります 。
付属設備の移動: 点検用の歩廊(サービスステージ)などが地盤沈下で移動し、配管付属の圧力計等に接触して破損させるケースもあります 。
そのため、配管だけでなく、周囲に衝突しそうなものがないか、落下物がなさそうか、という視点で確認する必要があります 。
経年変化(腐食・劣化)
老朽化した設備では、経年変化が致命的になります。
経年変化によるトラブルを回避するためには、配管の腐食(減肉)、サポート部材の錆による断面欠損、ボルトの緩み、コンクリート基礎の割れ、保冷材内部の腐食(CUI)などをチェックする必要があります。
腐食(減肉): 配管本体の腐食はもちろん、サポート部材やボルトの腐食による断面欠損は支持力不足を招きます 。
CUI(保温下の腐食): 保温・保冷材の内部で結露や雨水浸入により腐食が進んでいる場合があります。また、水を含んだ保温材は重量が増加し、サポートへの負担を増大させます 。
特に、日常点検で見逃されがちな、配管サポートの腐食は、揺れやすさを助長させるため注意が必要です 。
構造材料・構造形態
耐震上好ましくない材料や形状が使われている場合は要注意です。
脆性材料: 鋳鉄弁や塩化ビニル管(PVC)などの「粘りのない材料」は、衝撃や変位に対して非常に脆く、地震時に破損しやすいため、重要なラインでの使用は避けるべきです 。
ねじ込み継手: 軸力や曲げに弱く、漏洩や抜けが発生しやすいため、大きな力がかかる部位での使用は推奨されません 。
応力集中箇所への継手配置: スパン中央や曲がり管の近傍など、曲げモーメントが最大になる位置にフランジや弁を配置することは避けるべきです 。
過剰剛性: 変形吸収が必要な箇所に、過剰に肉厚な曲がり管などを使うと、かえって他の部品に負担を集中させることになります 。
施工状況
設計が正しくても、施工が不適切であれば意味がありません 。
溶接不良: サポート等の溶接施工不良は、地震時の応力で容易に破断する原因となります 。
改修時のミス: 増改造時の施工ミスも見逃せません 。
診断項目例
配管部品(エルボ等): 慣性力に対しては「許容スパン確認」、相対変位に対しては「変位吸収能力確認」を行う 。
サポート類: 目視にて腐食や機能喪失がないかを確認する 。
周辺干渉: 目視にてクリアランス(隙間)を確認する 。
配管系の耐震診断方法

配管系は数が膨大であるため、全てを詳細に計算することは困難です。そのため、配管の重要度(損傷した場合の被害の大きさ)に応じて診断方法を使い分けます 。
主な診断方法は以下の通りです。
主な耐震診断方法
・ウォークダウン(現場点検)
・簡易評価(スクリーニング)
・詳細評価
ウォークダウン(現場点検)
図面だけでは分からない「周辺構造物との距離」「サポートの腐食」「施工状況」を確認します。建設時や定期的な点検時に行うことが推奨されます 。
簡易評価(スクリーニング)
許容スパン法: 標準的なサポート間隔内であれば、慣性力に対する耐震性は確保されているとみなす手法 。
変位吸収能力の確認: 相対変位(わたり配管)に対して、配管の柔軟性が十分かを確認する手法 。
詳細評価
重要度が高い配管や、簡易評価でNGとなった配管について、詳細な応力解析を行います。
まとめ
配管系の耐震性を確保するためには、机上の設計だけでなく、建設時や運用中の「現場点検(ウォークダウン)」が非常に重要です 。
・ 「わたり配管」になっていないか?
・ サポートが腐食してガタついていないか?
・ 周辺に衝突しそうな構造物はないか?
配管は改造や経年劣化で状況が常に変化します。このような視点で定期的に診断を行うことが、地震時の災害拡大を防ぐ鍵となります。


