今回の記事では微生物腐食(Microbiologically Influenced Corrosion/MIC)について解説します。
微生物腐食とは、機器、配管材料に付着、成長した微生物の代謝による生成物や局所的な酸素濃淡電池を形成し、急激な腐食が進行する現象のことです。
炭素鋼はおろか、耐腐食性のあるステンレス鋼でさえも、条件が整えば微生物腐食が発生します。機器、配管にステンレス鋼を採用したからと言って、微生物腐食のケアをしないでおくと、知らず知らずのうちに腐食が進行、ピンホールが発生し、漏洩などの運転トラブル、事故のリスクが高まります。
次項から原理と対策について解説していきます。
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微生物腐食(Microbiologically Influenced Corrosion/MIC)の特徴
微生物腐食の特徴は以下の通りです。
微生物腐食の特徴
・水(河川水、工業用水など)の配管で、流れが遅いか滞留している箇所で発生する。(機器の水圧試験の排水が不十分で、残留水由来のケースもある)
・腐食箇所に菌などの微生物のコロニー(バイオフィルム)が付着している。
・応力腐食割れを起こさないような僅かな塩化物イオンでも発生する。
・15℃~40℃の温度域で発生する。(40℃以上であれば微生物は死滅するので、微生物腐食は発生しにくい。)
・溶接部で発生しやすい。
・褐色の錆こぶを形成し、壺状に内部が大きくえぐられる孔食が発生する。
・腐食速度は著しく大きい。(1年で機器、配管のピンホールが貫通するほどの速度)
なんと言っても、耐食性のある、SUS304、SUS316などのステンレス鋼でも、微生物が存在することで水だけで腐食が発生することが大きな特徴です。特に、水の配管材料としてよく用いられるSUS304で多く報告されています。
その他の金属としては、銅合金、Ni合金(ハステロイなど)、Al合金でも微生物腐食が発生します。
微生物腐食の原理
典型的な微生物腐食の原理を解説します。
微生物腐食は以下のステップで発生します。
微生物腐食のメカニズム
①微生物が機器、配管の壁面に付着し、コロニー(バイオフィルム)を形成する。
②バイオフィルム下は嫌気状態であるため、電極(アノード)となり、金属の溶解が促進する。(M→Mn+)
③微生物の代謝によりMn+ + nH2O → M(OH)n + nH+の反応により不溶性のM(OH)nが沈着することで錆こぶを形成
④酸素濃淡電池を形成することで、更に腐食促進
微生物腐食の防止対策
根本的な対策としては、微生物が付着させないようにすることや殺菌することが挙げられます。
施工面、運転面それぞれの対策は以下の通りです。
施工面での対策
施工面での主な対は以下の通りです。
施工面での対策
・水圧テスト後や水運転後の水抜きを徹底することで、水の滞留やスラッジの堆積を防ぐ。
・排水が可能となるように、液ポケット部にはドレンプラグを設置すること。
・完全に排水できるように、ドレン配管には勾配を設ける。
・機器、配管の溶接時のスケールを除去すべく、ブラッシングや酸洗いと徹底する。
運転面での対策
運転面での主な対策は以下の通りです。
運転面での対策
・ピグなどで機器、配管の機械的洗浄(Mechanical Cleaning)により微生物を除去する。
・流速を上げて微生物が付着しないようにする。(圧損には注意)
・なるべく15℃~40℃の温度とならないように温度管理を実施する。
・濾過により微生物を系内に入れないようにする。
・殺菌処理を行う
対策として流速、温度の変更することは最も楽な対策ですが、プロセス上の理由でそれが難しい場合は、現実的な対策としては殺菌処理となります。
殺菌処理は化学的処理として、次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素、オゾン、ヒドラジンを添加して運転することや、紫外線照射が挙げられます。
まとめ
微生物腐食の原理と対策について解説しました。
この記事のポイント
・SUS304のようなステンレス鋼であろうと、微生物腐食は起こり得る。
・河川水、工業用水を使用する機器、配管が発生し易い。
・原理として、微生物が付着、バイオフィルムを形成し、その下で酸素濃淡電池が形成されることで、急速な腐食が進行する。
・対策としては、水の滞留や堆積物をなくすことや、運転時の殺菌処理が有効
機器、配管の材料選定の際、ステンレス鋼を選定したとしても、条件が整えば水だけでも腐食が発生することは、ぜひご留意下さい。
他に、ステンレス鋼では考慮しておかなければならない現象である応力緩和割れ(SRC)についても解説記事を作成していますので、こちらも参照ください。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。