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【材質】応力緩和割れとは?オーステナイト系ステンレス鋼の注意点

今回の記事ではオーステナイト系ステンレス鋼に発生する応力緩和割れ(Stress Relaxation Cracking/SRC)について解説します。

オーステナイト系ステンレス鋼において、よく問題となる損傷は、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking/SCC)ですが、近年は応力緩和割れによる、配管、機器の損傷が報告されることが増えてきました。

特に石油化学プラントの改質器のような過酷な条件(高温、高圧)で運転される機器や配管で発生することが報告されています。

オーステナイト系ステンレス鋼の注意点としては、SCCだけに目が向きがちですが、使用条件によっては応力緩和割れ(SRC)に対しても注意を払う必要があります。

次項から応力腐食割れの概要、対策について解説します。

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応力緩和割れ(Stress Relaxation Cracking/SRC)とは

応力緩和割れ(以下:SRC)とは、加工や溶接残留応力により、多くの転移が導入された材料が、500℃~800℃に保持されることで、微細な炭化物が結晶粒内に析出してしまい、溶接部の結晶粒界に空孔が発生し、割れが進展してしまう現象です。

Alloy800H、Alloy617などの合金やSUS321H、SUS347などのオーステナイト系ステンレス鋼においても発生することが報告されています。

これらの材料は耐熱性や耐腐食性が優れていることから、比較的最近になって、石油化学プラントに導入されており、特に改質器のような高温、高圧で過酷な環境となる機器や配管に適用されてきました。

しかし、プラント稼働後、わずか数年でこれらの機器、配管の溶接部が応力破壊される事例が多く報告されたことから、冶金学的な特性が調査され、上記の材料については、高温条件の下でSRCが発生することが明らかになりました。

■応力緩和割れの写真(Springerの報告資料より抜粋)

応力緩和割れの対策

根本対策

根本的な対策としては、機器、配管の溶接部に溶接後熱処置(Post Weld Heat Treatment/PWHT)を実施することです。

一般的ににステンレス材料はPWHTは不要とされていたため、応力緩和割れが多発する原因の一つになっていました。

実際にASMEのPWHTの項では、ステンレス鋼に対しては"Not Required"と記載されています。

注意点としては、これらの材料のPWHT条件はSRC発生領域(500℃~800℃)以上の温度条件(SUS321HやSUS347では870℃)が必要となるため、PWHTの加熱、冷却過程でSRCが発生するリスクがあることです。

そのため、加熱、冷却速度をなるべく短時間で行うなど、PWHTの温度管理はシビアな管理が要求されます。

施工後の対策

PWHTを実施せずに機器、配管を施工してしまった場合の対策は、各溶接部のビード表面をピーニング処理することで、機器、配管の板厚内部の残留応力をなるべく低減することが、現実的な対策となります。

理想的には施工現場でPWHTを実施することが、最も有効な対策ですが、上述の通り、PWHTの温度管理がシビアのため、施工性を考えると、現場でのPWHT実施は現実的ではありません。

まとめ

この記事のポイント

・オーステナイト系ステンレス鋼においてはSCCだけでなく、応力緩和割れ(SRC)が発生することがある。
・SRCは、石油化学プラントの改質器など、高温・高圧で過酷な環境となる機器、配管で発生する。
・根本的な対策としては、PWHTを実施することが挙げられる。施工後でPWHT実施が困難な場合はピーニング処理も有効な対策となり得る。

SUS321HやSUS347などの高級材料は、SCCにさえ気を付けていれば良い、ということではなく、使用条件によってはSRCによる損傷が発生し得ること、ぜひご留意下さい。

ステンレス鋼への微生物腐食についてこちらの記事を参照下さい。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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