今回の記事ではプラント機器の予備機の考え方について解説します。
プラントに設置される機器の中には、運転中の故障、破損による想定外の停止が発生した場合でも運転を継続できるように予備機を設置することがあります。
予備機の設置要否についてはプラントの規模、機器の特性、客先要求に応じて様々ですが、プラント建設契約時に取り決めておく必要があります。
予備機の基本的な考え方は次の通りです。
基本的な考え方
ただし、この考え方は大型化学プラントのように、起動・停止に時間・コストを要するプラントの考え方です。小規模なプラントでは当てはまらないことも多いのでご注意下さい。
詳細は次項から解説していきます。
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回転機
ドラム、熱交換器などの静機器は回転部、摺動部を持たないため、機器が破損するリスクは低く、予備機を持つことはほとんどありません。
一方、ポンプなどの回転機は回転部、摺動部を持つために、プラント運転中に故障、破損するリスクは高いです。そのため、プラント設計においては、運転中に故障、破損により停止することを考慮して予備機を設置することが多いです。
予備機の台数は 基本的に1台のみとします。冷却水ポンプのように通常運転で複数台(必要流量の50%容量×2台など)運転している場合でも予備機の台数は1台とすることが多いです。
予備機の容量は、必ずしも100%容量の予備を持つ必要はありません。 常用台数が複数台(N台)ある場合は、予備機の容量は (100/N) % となりますが、予備機の容量を抑えるために、わざわざ常用台数を増やすことは不経済なので、そのような計画をすることはありません。
回転機の種類によっても予備機の考え方が異なるところもあるため、それぞれの回転機特有の考え方を次項から解説します。
・ 非定期に間欠運転される使用頻度が少ないポンプは予備機は設置しません。
・ ケミカル排水ピットに設置されるサンプポンプように、使用環境が厳しいポンプについては、腐食による故障リスクがあります。そのため、予備機が必要となりますが、その予備機はピットに設置せず 倉庫予備(Warehouse Spare)とします。
・ 排水ピットからの排水用のポンプ(水中ポンプ)で非定常に運転するものについては、予備機は設置しません。必要な場合でも、複数のピットからの排水ポンプ仕様を統一して、共通の倉庫予備を納入することで対応します。
・ 消火水ポンプの予備機は、停電時の運転を考慮して、予備機を含め、ディーゼルエンジン駆動で100% 容量がカバーできるようなポンプ構成とすることが望ましいです。
・ ボイラ給水ポンプの様に、高温の流体を扱うポンプで 予備機を自動起動させる必要がある場合は、起動時のヒートショックを避けるため常に予備機にも高温流体を少量流して 温度をつける場合があります。
・ 異なる用途のポンプでも、仕様的に大きな差が無く、配置的にも近接しているものに対しては、それぞれのポンプの共通予備として1台の予備機を設置する場合があります。ただし、その場合は運転温度、設計温度、ポンプヘッド、必要NPSH、材質、軸シール方式などに注意をする必要があります
出典:Baker Hughes
・ 大型の圧縮機やスチームタービン発電機などは、単体機器の費用が高いため、経済性を考慮して、予備機は持たずに機器の信頼性を高めることで対応します。 この場合、石油、石油化学及び天然ガス産業を対象としたAPI(American Petroleum Institute)規格を適用します。
この場合、予備機が無いことから、大型部品で製作に時間のかかるローターを「Capital Spare(Insurance Spareとも言う)」として納入することが多いですが、Capital Spareの納入範囲、条件についてはプラント契約段階で明確にしておかなければなりません。
・ 計装空気はプラントの制御に必須であり、信頼性の高い供給源が要求されます。このため、計装圧縮機は100%容量の予備機を設置することが多いです。
ただし、プロセス用の空気圧縮機が別途設置されており、その空気が使えるような場合は予備機は不要です。
また、計装空気ドライヤーは、計装空気圧縮機の予備機の有無にかかわらず100%容量の予備機を設置することが望ましいです。
送風機
送風機(ファン)については、圧縮機やポンプに比べて、一般的に低圧、低回転数で故障のリスクは小さいため、通常は予備機は設置しません。
発電・ボイラ設備
出典:HELIOSCSP
予備機が必要となるのは、プラントの運転に必要な電力を全てプラント内の発電設備で供給する場合(スタンドアローン ケース)です。発電用ボイラ設備は最も容量の大きいボイラが停止しても、部分負荷運転なしにプラントを運転できるように計画する必要があります。そのため、ボイラを複数台運転する場合は最も大きな容量を持つボイラが予備機となります
予備機の台数は、ポンプ同様 1台のみとし、必ずしも100%容量の予備を持つ必要はありません。
ただし発電設備は、急激な電力負荷変動を避けるために、予備機を含めて常時運転する必要がある場合があるので、負荷応答性についても検討する必要があります。
一方、バックアップとして外部電力(電力会社の電力網など)が使える場合は、予備機を不要とすることもできます。
この場合、常に、一部の電力(10%程度)を外部電力から常時給電するようにしておけば、プラント内の発電設備がトリップした場合でも、瞬時に外部電源でバッククアップされるのでプラントの運転継続が可能となります。 ただし、発電設備の計画容量は、必要な電量を全量供給できる容量とします。
その他機器
・ プラント用の強制通風型冷却塔は、一般的に複数セルを並べた構成(各セルにファンを持つ)となりますが、予備のセルを設けることはありません。
・ フィルター類については、エレメント交換の間、フィルターのバイパスラインを使っての運転が許容できるかどうかで予備機を設置するかどうかを判断する必要があります。
まとめ
今回の記事ではプラント機器の予備機の考え方について解説します。
プラントに設置される機器の中には、運転中の故障、破損による想定外の停止が発生した場合でも運転を継続できるように予備機を設置することがあります。
予備機の設置要否はプラントの規模、機器の特性、客先要求に応じて様々ですが、大型化学プラントのように、起動・停止に時間・コストを要するプラントについてはプロジェクトの最初に客先とよく協議して決定する必要があります。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。