今回の記事ではプラントにおける安全計装の一つで高度保護システムのHIPS(HIPPS)の概要とその設計の考え方について解説します。
HIPS(High-integrity protection system)はプラントにおける安全計装システム(SIS:Safety Instrument System)の一つで、プラントの運転状態(温度、圧力、流量、レベルなど)が設計値を逸脱することを防ぐように設計された独立の計装システム(DCSやESDシステムから独立)のことを指します。
特にプラントの圧力保護においてはHIPPS(High-integrity pressure protection system)とも呼ばれ、信頼性の高い計器、バルブを設置することで設計圧力超過を防止することができ、安全弁などの圧力放出装置や放出先のフレアシステムの設置個所や容量を削減することが可能です。
HIPSは主に石油、ガスを取り扱うプラントで導入されており、近年では化学プラントにおいても導入が検討されることが増えています。
次項からHIPSの概要と設計の考え方について解説します。
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HIPSの概要
通常、プラントにおいて想定される設計圧力の超過事象に対する保護方法として、安全弁、破裂版などの圧力放出装置を設置することで対応します。
これらの圧力放出装置の吹き出し容量の決定においては、想定し得る全てのシナリオに対応するように設計(Full Rated設計)することが一般的です。
しかし、中には特定のシナリオに対応するために圧力放出装置やフレアシステムの容量が大きくなってしまい不経済になってしまうことがあります。そのような場合、HIPS(HIPPS)を適用することで、そのシナリオを排除して圧力放出装置やフレアシステムの容量を下げることが可能です。
以下にプラントの圧力保護方法の選定(圧力放出装置+ベント/フレアシステムとするか、HIPS適用か)のフローチャートを示します。
HIPSの適用の検討が推奨されるケースを挙げると以下の通りです。
HIPS適用を検討するケース
・ 特定の設計圧力超過シナリオを排除したい場合
・ 圧力放出装置の設置個所、容量を削減したい場合
・ 圧力放出装置の設置が不経済となる箇所の圧力保護を行いたい場合
・ 複数の圧力放出装置が同時に作動するリスクを下げたい場合
・ ベント/フレアシステムの容量を小さくしたい場合
・ 圧力放出装置の作動頻度を下げたい場合
設計の考え方
HIPSの設計はSIL Studyなどのプラントのリスク評価と密接に関わっています。リスク評価手法についてはこちらの記事を参照ください。
HIPS設計の基本方針は次の通りです。
HIPS設計の基本方針
・ 単一事象のみを保護対象とする
・ HIPSのシステム前提として目標のSILレベルに適合すること
・ HIPSの作動前にDCSやESDによるプラント保護シーケンスが作動するように構成すること
・ HIPS機器、計器はDCSやESDなどのプラントの制御システムとは独立した機器、計器で構成すること
・ HIPSが他のプラント安全計装システムと遮断弁を兼用する場合、HIPS専用の電磁弁(ソレノイドバルブ)を設置すること
・ HIPS用の遮断弁に対しては、複数のセンサーやロジックソルバーを設置すること
・ HIPS用の遮断弁のリークの可能性を考慮すること
・ バルブ、計器の冗長化、多様化やメンテナンス性も考慮すること
・ プラントの系内の危険流体の大気放出による環境への影響を考慮すること
設計の留意点
HIPS設計の留意点は以下の通りです。
HIPS設計の留意点
・ フェールセーフの思想で設計すること
・ 冗長化、多様化
・ 遮断弁に対する要求
・ 構成部品の適格性
・ 応答速度
フェールセーフ
HIPSでは、
・バルブの駆動源、信号の消失
・センサー機能の消失
・ロジックソルバー機能の消失
に対し、フェールセーフとなるように設計することが要求されます。
また、システムそのものの故障や配管の腐食・閉塞、さらにはヒューマンエラーに対してもフェールセーフとします。
特にヒューマンエラーについては、継続的な監視や信号の統一など、十分に配慮する必要があります。
冗長化、多様化
故障リスクを可能な限り下げるため、計装は十分に冗長化、多様化させる検討が必要です。
具体的には以下の通りです。
計装の冗長化、多様化
・ 計測するパラメータの多様化(流量と圧力で分ける、など)
・ 設置個所の多様化
・ 作動原理の多様化
・ 計器のタイプやメーカーの多様化
・ センサーは2 out of 3(2oo3)以上とする
遮断弁に対する要求
HIPS用の遮断弁は他の安全計装システムとは異なる構成にすることが推奨されます。
また、確実に動作させるために定期的なストロークテストを実施する必要があります。テスト実施の際は完全な制御ループを用いる必要があります。
構成部品の適格性
HIPSの構成機器、計器では可能な限り実績のある部品を採用することが推奨されます。
実績のない部品を採用する場合は、十分にテストを実施したうえで採用します。
応答速度
HIPSの動作においては、可能な限り応答速度を早くする必要があります。
そのための設計の留意点は以下の通りです。
応答速度への配慮
・ 導圧管は可能な限り短くすること
・ DCSやESDなどの他の保護システムが作動しなかった場合にみHIPSが作動するように応答速度の設定値を決めること
・ HIPSによる圧力源の遮断は機器、配管の最大許容圧力の到達時間よりも短くすること(例:1/3以下)
・ サージ圧や水撃などの想定される事象に対してはシミュレーションを実施して適切な保護措置を実施
その他の留意点
・センサーの取り出し(タップ)はセンサー毎に独立させる
・すべての故障はアラームとして運転員に報告されること