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AACEの見積クラスとは?プラント建設コストの分類と内容について解説

今回の記事ではプラント建設コストの見積もりで良く使用されるAACEの見積クラス(Estimation Class)分類と内容について解説します。

AACE(The Association for the Advancement of Cost Engineering International)は米国に本部を置く国際コストエンジニアリング推進協会のことを指し、AACEではプラントの建設コスト(CAPEX)の見積もり精度を5段階のクラスに分類することを定義しています。

AACEのクラスはプラントエンジニアリング業界で良く使用されており、オーナー企業からエンジニアリング会社に対し、AACEのクラスに基づいて見積精度を要求することもあります。

見積りクラスは5段階で定義されており、最も精度の悪いクラスがClass5、最も精度の良いクラスがClass1です。

AACEクラス一覧

・Class5 (-50%~+100%)・・・超概算見積り
・Class4 (-30%~+50%)・・・概算見積り
・Class3 (-20%~+30%)・・・概算見積り+詳細見積り(一部)
・Class2 (-15%~+20%)・・・詳細見積り+概算見積り(一部)
・Class1 (-10%~+15%)・・・詳細見積り

次項からAACEの各見積もりクラスの内容について解説します。

Class5

Class5の見積もりコストは、非常に限られた情報(提案されているプラントのタイプ/位置/容量以外はほぼ不明)に基づいて作成されるため、算出される見積もりコストも大きな幅を持ちます。

そのため、このクラスで算出されたコスト情報でプラント建設の投資判断を行うことはなく、そのプラントの市場調査、経済性の評価、プロジェクトスクリーニングなどを目的とした超概算見積コストとして扱われます。

一方、Class5に基づく手法で算出されたコストはほぼ労力をかけずに作成できるため、短時間で見積もりが作成できるというメリットもあります。

非常に限られた時間でほぼ労力をかけずに作成できる。1時間未満で作成できることもある。たいてい、クラス5の推定値作成時には、

Class5の見積もりコストで使用される手法の代表例は以下の通りです。

最終製品単位法

実績のある過去類似プロジェクトのコストデータを用い、単位あたりのコストを計算して目的のコストを算出です。
(例:類似案件1部屋あたりの建設コストx 目的の部屋数)

能力係数法(キャパシティスライド、指数法)

いわゆる「0.6乗則」と呼ばれるコスト算出手法です。

一般に、プラント機器の能力(熱交換器の伝熱面積、タンクの容量、ポンプの出力など)と、コストにはある程度の相関関係があり、一般的に0.6乗に比例するとされています。
(※対象により乗数は異なり、0.65乗や0.7乗が使用されることもあります。)

この手法を用いることで、コストデータが無い機器であっても、同じタイプの機器であれば、コストデータを有する機器の能力の比率からコストデータを算出することが可能です。

機器費係数法

そのコストを構成する主なカテゴリーを軸として比率にて全体を計算する手法です。具体的には、メインのプロセス機器の機器費を元に、ある係数をかけることでプラント全体の建設コストを推算する手法です。

この手法では、特にLang Factor(ラング係数)が有名です。

Class4

Class4のコストは、Class5同様、限られた情報に基づいて作成されますが、Class5と比較して高い精度を有しており、プロジェクトのスクリーニング、実現可能性の決定、コンセプトの評価、および予算の予備承認に使用されます。

通常、設計は1%から15%ほど完了しており、最低でもプラント能力、PFD配置図が仮決定されている必要はあります。

Class4の見積もりコストで使用される手法はClass5と同様ですが、設計の進捗によりプラント機器の能力の確度も上がっているので、算出されるコストも精度はClass5よりも高くなります。

Class3

Class3は、一般に 予算の承認、予算配分及び/又は資金調達のために使用されるコストです。オーナー会社においては、詳細見積に置き換えられるまでプロジェクトの予算として使用され、エンジニアリング会社が実施するFEEDで算出される要求コストとして見なされます。

通常、設計は10%から40%ほど完了しており、最低でも、PFD/UFD/Preliminary P&ID/配置図/機器リストが準備されている必要があります。

 

Class3以降のコスト算出手法では、Class4,5のような手法ではなく、個々のコスト費目(機器費、工事費など)を個別に計算してコストを積算する手法(材料集計法)がとられます。

例えばプラント機器では、それぞれの機器メーカーから見積もりを取得し、それを合計することでコストを算出します。不確かな項目については仮定を置くか、Class4,5のように比率や係数処理をしてコストを算出することも認められます。

材料集計法における直接費、間接費の算出方法の一例は以下の通りです。

直接費

過去の類似プロジェクトより目的のプラントの設計図書より、対象機器、配管材、電気計装機器、土建材料、工事量、ケーブル長、I/O点数など)を算出・集計、個々に外部に引き合いをしたり、すでに把握している単価をかけて積算します。

間接費

そのプロジェクトの実行方法(組織・スケジュール・契約形態)を考慮して、設計費・管理費・関係経費などを個別に計算します。

Class2

Class2は、一般に詳細見積りで算出されるコストで求められる精度(一部概算見積も可)で、予算コントロールのために使用されます。プロジェクトによっては入札のために使用されることもあります。

このクラスの見積もり作業を行うためには、すべての作業がコスト面と設計進捗の面から確実にマネジメントされなければなりません。

通常、設計は30%から70%ほど完了しており、最低でも「PFD/UFD/P&ID/配置図/ベンダー見積/プロジェクトの詳細実行計画」などが準備されている必要があります。

Class1

Class2は、Class2同様、詳細見積りで算出されるコストで求められる精度で、入札のために使用されるコストです。

通常、設計は50%から100%ほど完了しており、プロジェクト実施計画、試運転計画を含んだすべての設計図書が準備されている必要があります。

入札の変更管理はClass1の見積コストに基づき行われ、例えば入札の評価、ベンダー/契約または交渉のサポート、クレーム評価および紛争解決のために使用されます。

まとめ

AACEのClass5~Class1の内容をまとめると以下の通りになります。

見積クラス プロジェクト定義の完成度
(設計成果物基準)
見積の用途 見積手法 見積精度
Class 5 0%~2% 市場調査、概念審査
(超概算見積)
・能力係数法
・パラメトリックモデル
・上位判断
・相似
低:-20%~-50%
高:+30%~+100%
Class 4 1%~15% 事業化検討(FS)
(概算見積)
・機器係数法
・パラメトリックモデル
低:-15%~-30%
高:+20%~+50%
Class 3 10%~40% 予算承認
(詳細見積+概算見積)
・粗い材料集計によるコストの積み上げ 低:-10%~-20%
高:+10%~+30%
Class 2 30%~75% 予算コントロール
(概算見積+詳細見積)
・詳細材料集計によるコスト積み上げ 低:-5%~-15%
高:+5%~+20%
Class 1 65%~100% 入札
(詳細見積)
・より詳細な材料集計によるコスト積み上げ 低:-3%~-10%
高:+3%~+15%

また、それぞれのClassに基づく見積コストの算出にあたり、計画/準備するべきプロジェクトデータ、設計成果物は以下の通りです。

全般プロジェクトデータ Class 5 Class 4 Class 3 Class 2 Class 1
プロジェクト範囲 概略決定 仮決定 確定 確定 確定
プラント設備能力 推定 仮決定 確定 確定 確定
プラント建設地 概略決定 仮決定 確定 確定 確定
建設地の地質、気象条件 なし 仮決定 確定 確定 確定
プロジェクト計画 なし 仮決定 確定 確定 確定
プロジェクト工程表 なし 仮決定 確定 確定 確定
作業構成明細 なし 仮決定 確定 確定 確定
契約方針 推定 推定 仮決定 確定 確定
設計成果物
ブロックフロー図 着手開始/初回発行 初回発行/完了 完了 完了 完了
配置図 - 着手開始 初回発行/完了 完了 完了
プロセスフロー図(PFD) - 着手開始/初回発行 初回発行/完了 完了 完了
ユーティリティフロー図(UFD) - 着手開始/初回発行 初回発行/完了 完了 完了
P&ID - 着手開始 初回発行/完了 完了 完了
マテリアルバランス - 着手開始 初回発行/完了 完了 完了
機器リスト - 着手開始/初回発行 初回発行/完了 完了 完了
電機単線結線図 - 着手開始/初回発行 初回発行/完了 完了 完了
予備品リスト - - 着手開始/初回発行 初回発行 完了
機械・電気詳細図 - - 着手開始 初回発行 初回発行/完了
計装・制御図面 - - 着手開始 初回発行 初回発行/完了
土木建築計画図 - - 着手開始 初回発行 初回発行/完了

コストの見積を行う際の留意事項は以下の通りです。

・ そのプロジェクトがどんな段階で、何のために必要かを確認する。
・ 見積りの精度はプロジェクトの進捗度によって異なる。
・ 投入可能な時間・人手を配慮して適切な見積り手法を採用する。
・ 見積りは絶対的なものではなく、プロジェクト実行段階では想定外の見積りの抜けや過剰も出てくるのでプラスマイナスの範囲があることを理解しておく。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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