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化学プラントの能力増強の考え方と検討事例について

今回の記事では化学プラントの能力増強検討について紹介します。

プラントの能力増強とは、すなわち機器・配管の追加(増設)やサイズアップすることになりますが、省エネルギーが求められるこのご時世においては合理的な能力増強が求められます。

そこで本記事では能力増強の考え方から、詳細検討の具体例としてポンプ、熱交換器、蒸留塔を中心に、プラント能力増強の検討事例について紹介します。

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一般

ボトルネックの推定

まずは能力を増強したいプラントの各機器についてマテリアルバランス、ヒートバランスをとり、その機器の設計図書と比較して余裕度を確認します。

通常、プラントの新設時は各機器に設計マージンをとって設計されますが、能力増強の場合は不確定要素が少ないため、設計マージンを小さくするか、マージンをとらないことが多いです。

そのためプラント新設時のとった設計マージンがそのまま能力増強における余裕度になるということになります。

しかし、実際には新設時に想定していなかった運転条件となっていたり、トラブル等により余裕度が無い機器もあるため、プラント能力増強ではその機器がボトルネックになります。

このように、プラントの能力増強業務では機器を一点一点余裕度を確認し、何がボトルネックになっているか推定するところから始まります。

余裕度のチェック項目

各機器の余裕度を確認する際のチェック項目は以下の通りです。

機器の余裕度のチェック項目

共通:設計温度、設計圧力、腐食環境有無、ノズルにおける流速、振動有無
反応器:反応温度、圧力、流速、圧力損失、ディストリビューター(分配器)の性能
蒸留塔:塔内の運転ロード、圧力損失
熱交換器:交換熱量(Duty)、出口温度、チューブ内流速、振動有無、圧力損失
加熱炉:チューブ表面温度、バーナー負荷、圧力損失
回転機:容量、ヘッド、駆動機の出力
調節弁:開度、圧力損失
流量計:容量、圧力損失
安全弁:容量
配管:圧力損失
その他設備:ユーティリティの容量、フレアー設備容量

ボトルネックの対策検討

ボトルネックとなる機器が判明すれば、その機器を改造してボトルネック解消することで、プラント全体の能力増強を行うことができます。

機器を改造する際に考慮するのは以下の事項です。

機器改造の考慮事項

・ コスト
・ 配置図
・ 工期
・ 運転性

最も重要なのは改造コストです。機器費の他に工事費、その他の要素も考慮して、費用対効果を検討します。

また、機器サイズを上げる場合は周辺配管、建屋、埋設配管、ケーブルなどの物理的な障害物を確認するとともに、サイズアップに伴う適用法規の変更有無による制約も考慮します。

一般的に能力増強工事はプラントの定修期間に行われることが多いですが、火気使用期間が限らたり、範囲が限られることも多いです。そのため、工期をなるべく短くする検討が必要です。

機器改造では運転性を損なわないことを全体に考えるのが通常ですが、運転性を犠牲にして能力増強を行うこともあります。例えば、予備機を持つポンプの場合、その予備機を通常運転で使用することで能力増強を行う、という考え方です。この場合、能力増強した後は予備機を持たないことになりますが、上述の通り、既設プラントで運転の信頼性が十分高い場合は予備機を通常運転分として扱っても良いという考え方になります。

詳細検討の具体例

ここからは能力増強のための改造の詳細検討の具体例について紹介します。

遠心ポンプ

プラントの能力増強では、ポンプにおいては流量が増加することになるため、まずは流量増加後のポンプ吐出圧力を性能曲線に基づいて確認します。

遠心ポンプでは、流量が増加すると吐出圧が下がるため、その吐出圧において、ポンプ下流側の機器、配管、計器の圧力損失を計算し、圧力バランスが成り立っているか確認します。
※吐出側の流量計のレンジも要チェックです。また、配管の振動有無の検討も確認必要です。

この時の圧力損失、圧力バランスが、ポンプ下流の調節弁の制御範囲内であると確認(具体的には調節弁の開度が適正範囲内であると確認)できる場合は、改造は不要ということになります。

仮に調節弁の制御が適正範囲外になる場合でも、系の圧力損失は問題なく、調節弁を改造、交換する場合で済む場合もあります。

調節弁の改造、交換ではどうにもならない場合はポンプの改造、交換、追加を行います。検討内容は以下の通りです。

・インペラの交換
・ポンプ交換
・駆動機の出力チェック、交換
・駆動流体の変更(タービン駆動の場合)
・ポンプの追加(並列、直列)

遠心ポンプを直列につなぐ場合は注意が必要です。こちらの記事も参照ください。

仮にポンプの改造、交換、追加でも対応できない場合は配管の検討を行います。具体的には以下の通りです。

・配管のサイズアップ
・配管の追加設置(二条化)

熱交換器

多管式熱交換器空冷式熱交換器について紹介します。

<多管式熱交換器>

・ 小口径チューブへの変更、チューブ配列変更、チューブ間隔の縮小による伝熱面積増加
・ フィン付きチューブなどの伝熱面積が大きい、あるいは熱伝達係数が大きい特殊なチューブへ交換
・ 熱交換器の交換、追加
・ チューブ側のパス数が4パス以上の場合、チャンネル内の仕切り配置を変更して、パス数を減らす
・ 複数シェルが直接に配置されている場合、チャンネル角度をずらすなどしてチューブ側のみ並列に配管を接続する
※入口/出口ノズルの流速、口径も確認要

<空冷式熱交換器>

・ ファンやモーターの改造、交換
・ 配置に余裕がある場合はベイの追加を検討
・ 配置に余裕がない場合はバンドルを交換してパス数を増やす

蒸留塔

まずは処理量が増加後の塔内の気液負荷、コンデンサー及びリボイラの負荷、リフラックスの流量を求めます。

塔内の気相の負荷が過大である場合は次の検討を行います。

・ 運転圧力を上げて気相体積を下げる
・ 製品仕様を緩和して塔全体の負荷を下げる
・ トレイやインターナルを交換する
・ 棚段塔の場合は充填塔への交換を検討する

コンデンサーの負荷が過大である場合は次の検討を行います。

・ 供給温度を下げて濃縮部全体の負荷を下げる
・ コンデンサーの改造、交換、追加を検討する
・ コンデンサーの冷媒を変更する
・ サイドクーラーを設置して濃縮部の負荷を下げる

リボイラの負荷が過大である場合は次の検討を行います。

・ 供給温度を上げて回収部全体の負荷を下げる
・ リボイラの改造、交換、追加を行う
・ 製品仕様を緩和して塔全体の負荷を下げる
・ リボイラの熱媒を変更する
・ サイドヒーターを設置して回収部の負荷を下げる

上記の検討は互いに影響しあっているため、都度気液負荷、コンデンサ、リボイラの負荷の確認が必要です。

塔の入口、出口ノズルの流速が過大になる場合は振動や編流の問題が生じる場合があるので、口径を上げたり、ディストリビューターの交換が必要になることもあります。

その他機器

<ドラム>

デミスター追加、気液分離性能を良くするインターナル追加

<調節弁>

内弁及び本体の交換

<オリフィス流量計>

発信器のレンジ変更、オリフィスプレートの変更

<フレアー設備>

安全計装システム(SIS)の導入による過圧原因の排除でフレアー負荷の低減

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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