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【ポンプ】遠心ポンプの設計、使用上の留意点について解説

今回の記事では遠心ポンプの設計、使用上の留意点について解説します。

遠心ポンプはプラント内の液体の昇圧、輸送における圧力源として最も良く使用されるタイプですが、回転機であるため、トラブルも多く発生する機器です。

この記事では遠心ポンプの選定、設置の考え方から運転制御方式やNPSHの計算まで、遠心ポンプの設計、運転における主な留意点について解説します。

ポンプの選定

基本は遠心ポンプ

まずは遠心式ポンプを選定することを考えます。遠心式ポンプは他のタイプと比較してメリットが多いことが理由です。

遠心式ポンプのメリット

・ 摺動部分がないので長期連続運転が可能
・ 構造がシンプルで部品点数が少ない。
・ 各メーカーの型式が標準化、シリーズ化されているため予備品の互換性がある。
・ 吐出圧、流量は性能曲線に従うため、調節弁(制御弁)による流量制御がしやすい
・ インペラの交換で性能の調整ができるため、ポンプ設置後のプラント性能変更に対応しやすい。
・ 遠心ポンプの中でも幅広いタイプを有しており、流体性状、流量、圧力に応じて幅広い適用範囲をカバー可能

実際の業務においては、ポンプメーカーとよく協議をしてポンプの型式を決定する必要があります。

国内においては周波数の違いによるポンプ性能への影響も注意しておかなければなりません。

60Hzの方が50Hzよりも大流量、高ヘッドとなるため、60Hzの地域のプラントの方がポンプはコンパクトになる可能性があります。
(理由:遠心ポンプは流量は回転数に比例、ヘッドは回転数の2乗に比例するため。こちらの記事も合わせて参照ください)

遠心ポンプが適さない場合

流体の性状や必要流量、ヘッドによっては遠心ポンプが適さず、他のタイプを選定することもあります。

遠心式が適さない場合

・ 流体が高粘度(200Cst~500Cst以上)の場合
・ 小流量、高ヘッドの場合
・ ポンプ自身で流量制御した方が都合の良い場合(薬注設備のポンプなど)
・ 液比重の変動幅が大きい場合
・ 吐出圧の変動幅が大きい場合

ただし、上記はあくまでも目安です。

遠心ポンプの中でも小流量、高ヘッドに特化した性能曲線を持つサンダインポンプのように、上記に該当したとしても遠心ポンプを選定することが適切な場合があります。実業務では回転機エンジニアやポンプメーカーとよく協議をして適切なタイプを選定します。

遠心ポンプの設計圧力

ポンプ自身の設計圧力(Maximum Allowable Working Pressure:MAWP)は下流側の配管、機器の設計圧力とは異なり、ポンプメーカーが設計する機械的な耐圧能力で決まります。
(例:API610が適用される横型のポンプは、ノズルのレーティングが#300以上と規定)

そのため、プラント設計においては、ポンプの設計圧力はメーカーから入手する必要があります。

遠心ポンプの下流側の配管、機器の設計圧力は締め切り圧力によって決まります。詳細はこちらの記事を参照ください。

プロセス制御方式

ポンプの能力はプロセス要求の最大流量の必要ヘッドに対応できるように設計されますが、ポンプ本体の設計においては、必要流量の110%程度を定格流量(Rated Flowrate)として、これを設計点とすることが一般的です。

そのため、実運転での流量とポンプ能力にミスマッチが生じるため、プラント運転に必要な流量だけを供給できるように制御が必要です。

主なアプローチとしてはシステムの特性の調整、ポンプ性能の調整こと、のどちらかとなります。

システム特性の調整

遠心ポンプでは吐出側配管に調節弁を設置し、調節弁の開度で流量を調整します。遠心ポンプの流量制御ではよく用いられる制御方式です。ただし、調節弁で減圧する分、ポンプヘッドが必要吐圧力よりも高くなるので、後述するポンプ性能の調整に比べてポンプ動力が大きくなってしまいます。

なお、レシプロポンプでは余剰分をバイパス(スピルバック制御)することで流量制御を行います。

 

ポンプ性能の調整

遠心ポンプではモーターの回転数を調整(インバーター制御)することで流量を制御します。

回転数を調整することで、運転状況に応じて必要流量、ヘッドを調整できるため、調節弁での制御よりも必要動力が小さくなるメリットがあります。

また、流体が摩耗性のスラリー液など、回転数をできだけ小さくすることで、摩耗に対する寿命が延びる場合についても回転数制御が有利とされています。

ただし、ポンプ+モーター自体のコスト、プロセス制御性によっては前項の調節弁による制御の方がメリットが大きいこともあるので、プロセス制御方式は回転機エンジニアとよく協議して決定する必要があります。

なお、レシプロポンプでは、ポンプのストローク自体を調整して流量制御を行うことがあります。(薬注ポンプなど)

遠心ポンプの並列運転

一般的に、遠心ポンプの並列運転はよく採用される運転方式です。

並列運転が採用される場合

・ 流量が大きい場合
・ 消費電力が大きい場合
・ 信頼性を上げたい場合

大容量のポンプは、容量が小さいポンプと比較して要求NPSH(NPSHr(最近ではNPSH3も使われる))が大きいことが多いので、ポンプの設置位置や配管レイアウトによっては、それを満足するための有効NPSH(NPSHa)が確保できないことがあります。

そのような場合、ポンプを分割すして一台あたりの容量を小さくすることで、NPSHr(NPSH3)も小さくすることが可能です。

また、大容量のポンプはそれだけモーター容量も大きくなります。モーター容量も大きくなると、発電設備や配電盤の設計・容量に大きく影響するため、一台あたりのモーター容量を小さくすることで、発電設備、配電盤の容量を節約するために分割して並列運転にすることもあります。

さらに、並列運転することで信頼性も向上させることができます。100%×1台運転では、そのポンプがトラブルで停止すると流量が0になってしまいますが、50%×2台運転とすることで、1台が停止しても50%の流量は確保することができます。実際には、ポンプは予備機を設けることも多いので、予備機の設置要否と合わせて検討する必要があります。

予備機を設置している場合、他方のポンプが自動起動するときは、そのポンプの吐出側のバルブは全開の状態で起動します。このとき、性能曲線上最も流量が大きくなる領域から起動するため、NPSHrと軸動力が最大の状態となります。そのため、自動起動のポンプがある場合はNPSHaが問題ないこと、モーターがトリップ(起動時は定格電流の約6倍流れる)しないこと、長い配管ではウォーターハンマー(水撃)の有無を事前に確認しておく必要があります。

並列運転の注意点

並列運転を行う場合の注意点は以下の通りです。

並列運転の注意点

・ できるだけ同じ性能のポンプを使う
・ ポンプ保護を徹底

並列運転する際、できるだけ同じ性能のポンプで運転するが推奨されます。

しかし、プラントの増設や更新などにより、異なる性能のポンプが設置され並列運転する場合もあります。その際は、できるだけ性能曲線の勾配が大きいポンプで運転することが必要です。それぞれのポンプの流量配分は均等に維持しなければなりませんが、勾配が小さいポンプだと流量の偏りが生じやすくなります。

性能曲線の勾配が小さいポンプについては、個別に調節弁や制限オリフィスを設置するなどして、性能曲線の勾配を(見かけ上)大きくすることや、バイパスラインを設ける、といった対策がとられます。

また、並列運転を行う場合は片方のポンプの締め切り防止、流れすぎ防止、急停止などについての保護を行う必要があります。(流量調整弁、バイパスラインによる保護など)

遠心ポンプの直列運転

一般的に、遠心ポンプの直列運転はあまり推奨されません。ただし、各種検討の結果、どうしても遠心ポンプを直列に運転せざるを得ない場合は以下のような注意点があります。

直列運転の注意点

・ 一方のポンプ停止時の他方のポンプ保護
・ 起動時の手順

直列運転の場合、一方のポンプが停止すると、流量が0となりポンプシステムとして成り立たなくなります。この時、他方のポンプは吸込み圧力不足によりキャビテーションを起こすリスクが高くなります。予備機を設置し、自動起動したとしても起動に時間を要すると間に合わなくなるので、慎重な検討が必要です。

そのため、他方のポンプ保護が必須となるのですが、主な保護対策としては、バイパスラインを追加(制限オリフィスや調節弁設置)して締め切り運転の防止したり、吸い込み圧を確保してNPSHa不足を防止したりすることが挙げられます。

また、一連のポンプを起動する際は必ず低圧側から起動するべく、インタロックの追加も必要となります。

粘度の影響

遠心ポンプの運転では流体の粘度の影響を強く受けるため、年度の影響への配慮が必要です。

一般的に、粘度が大きくなると

・性能曲線が低下(特に大流量側でヘッドが下がる)
・効率の低下
・流量の低下

といった影響があります。

そのため、粘度変化に対する性能補正が行われますが、ポンプメーカーが補正曲線を作成することが通常です。

NPSHの検討

一般的に遠心ポンプがキャビテーションを起こさないための指標として、NPSHa>NPSHr(or NPSH3)がよく知られています。

最近では、NPSHrの代わりにNPSH3が使用されることもありますが、これは同じ意味です。

厳密には、NPSHrとはポンプヘッドの低下が3%の時のNPSHaの値であり、この「3%」を引用してNPSH3とも呼ばれています。

レシプロポンプでもNPSHr(NPSH3)はあり、とくに流量の低下が3%のときをNPSHr(NPSH3)と定義されます。

NPSHaの余裕度(NPSHa-NPSHr)はポンプの仕様書で規定する必要がありますが、これを小さくするとNPSHaも小さくなり、ポンプ上流側の塔槽類の高さも低くすることができます。この余裕度の規定がない場合は、流体の種類やポンプ型式にもよりますが0.3-1.0m程度が一般的です。

なお、ポンプ側のNPSH参照高さは通常軸の中心高さで規定されます。大型のポンプは軸心が高いのでNPSHaの計算時は要注意です。

NPSHr(NPSH3)の計算

NPSHr(NPSH3)はポンプメーカーから受領できれば確実ですが、ポンプ設計の初期段階ではそのような情報はないため、プロセスエンジニア、回転機エンジニア側で大まかに計算する必要があります。

NPSHrの計算方法の一つとして知られているのが吸込比速度を用いた算出式です。

<NPSHr(NPSH3)計算式>

$$SSS=\frac{N・Q^2}{NPSHr^{3/4}}<12500$$

SSS:吸込比速度 [rpm]
Q:流量 [m3/h]
NPSHr:NPSHr [m]

この式を用いればNPSHrの概略値を計算することができ、NPSHaの検討に役立てることができます。

ミニマムフローの検討

遠心ポンプは、流量が設計点が離れるほど効率が低下し、振動が大きくなります。振動の増大はポンプ軸受けの寿命への影響が大きいので、ポンプを連続的に運転するための最低限の流量、即ちミニマムフロー(ミニフロー)が存在します。

API610では転がり軸受けの寿命が25000時間以上

ミニマムフローの確保のためにはミニマムフローラインを設置することが一般的です。ミニマムフローの必要流量はポンプ設計点流量の25%~40%が一般的です。

通常、安価な制限オリフィス(上図左)を設置しミニマムフローの必要流量を常時流しておく設計にしますが、このとき、ポンプ本体の流量はマテリアルバランス上の重量に加えてミニマムフロー分の流量が上乗せされた分になることに注意してください。

大容量のポンプについては、上図右の調節弁を設置し、流量が低下したときのみミニマムフローを流すようにして、ポンプ動力の増加を防ぐように設計します。

ポンプ起動時の配慮

遠心起動、停止時の注意点は以下の通りです。

ポンプ起動停止時の注意点

・ 吸込み弁は全開で起動する
・ ガス抜き実施
・ 吐出弁は全閉にして起動する
・ 吐出弁を開いて起動する場合はポンプ保護を考える
・ 高ヘッドのポンプでは起動バイパスの追加を検討

キャビテーションを防ぐために、必ずポンプ起動時は吸込み弁は全開にしなければなりませんが、吸い込み配管にガスが存在していた場合、ガス噛みこみによるインペラの損傷リスクがあるため、事前にガス抜きをする必要があります。LPGやアンモニアといった気化しやすい液体の場合はポンプまわりの配管にベント弁を設け、そこからガスを抜いておくようにします。(プライミング)

吸込み側が負圧の場合、大気にベントガスを抜くことができないので、吸い込み側のドラムの気相部分にベント配管を接続します。低温流体の場合は、運転中にポンプケーシングにガスが溜まるので、吸い込みドラムに常時ベントを戻す必要があります。(上図参照)

原則吐出弁は閉めたままポンプの起動が望ましいですが、自動起動ポンプは吐出弁が開けたまま起動することになり、上述の通り設計への配慮が必要です。

また、高ヘッドのポンプ(サンダインポンプなど)では、吐出弁閉で締め切り状態で運転すると、ポンプ内部の液温上昇により短時間で沸騰してしまいます。これを防止するために、このようなポンプには起動バイパスを設置することがあります。上図では制限オリフィスを設置した図になっていますが、流量調整弁とすることもあります。

ポンプの暖気

高温サービスのポンプにおいて、ポンプが常温の状態から急速に起動すると、軸、インペラ、ケーシングの熱容量、熱膨張力の違いで熱伸びによるポンプ損傷、漏れなどを引き起こします。また、厚肉のケーシング内部に熱応力が発生し、疲労破壊の原因にもなります。

特に予備機を持つポンプで自動起動する場合はこのようなトラブルが発生する可能性が高いです。

熱によるショックを緩和するために、起動前に少量の液を常時流して暖気しておくことが必要です。(目安:液温150℃程度)

暖気に必要な液量はポンプメーカーと協議して決定し、その分をポンプ能力に加算します。

通常は上図のように待機中のポンプの吐出側から吸込み側に戻るようにバイパスラインを設置します。小流量で良いので、暖気バイパスには制限オリフィスを設置するか、孔を開けた逆止弁を設置することが一般的です。多段ポンプ、あるいはボリュート径が大きい場合は、暖気液をポンプケーシングの底部より供給してケーシング上下の温度差がつかないように配慮します。

その他留意事項

運転状況により液比重が変動する場合は、ヘッドは最も液比重が小さくなる運転ケースで決定します。また、決定したヘッドに対して最も大きい液比重の運転ケースで軸動力を算出します。

ポンプで昇圧する液と同一の液を減圧するプロセスの場合、液の減圧によって得られる動力を昇圧動力として回収するためにハイドロリックタービンが使用されることがあります。ハイドロリックタービンでは減圧側の液が出口で気化することに注意が必要です。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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