今回の記事では往復動圧縮機の運転制御、特にスピルバック制御について解説します。
往復動圧縮機は、圧縮機の中でも比較的流量が小さく、吐出圧が高い場合に使用されます。
例えば、クリーンエネルギーとして注目されている水素は、燃料電池車へ供給するために、水素ステーションで80MPa程度まで昇圧されていますが、この昇圧で用いられている圧縮機は往復動圧縮機です。
往復動圧縮機はその原理上、吐出圧の変動(脈動)が大きいため、プラント運転の安定のために様々な対策が取られていますが、代表的な運転制御としてはスピルバック制御が挙げられます。
本記事では往復動圧縮機のスピルバック制御について解説していきます。
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往復動圧縮機の運転制御
往復動圧縮機は遠心圧縮機とは異なり、吐出側の圧力がどのような圧力であっても、理論上はシリンダーの圧力が吐出圧力に打ち勝つことで、ガスを押し出すことが可能です。
※実際には材料強度がもたず、ある圧力に達すると破損するため、安全弁を設置するなどで、許容圧力を超えないように設計します。
圧縮機の吐出流量は、圧縮比、シリンダー容量、クリアランスの容積、回転数で決まりますが、圧縮比が変わると体積効率も変化するため、吐出流量も影響を受けます。
流量を制御するために方法としては、サクションバルブの調整、シリンダーのクリアランスポケットの調整、スピルバック制御などがありますが、往復動圧縮機の運転制御で最も一般的な制御がスピルバック制御です。
スピルバック制御とは
スピルバック制御とは上図のように、吐出側のガスの一部を吸い込み側にリサイクルさせることで、吐出流量を任意の流量に制御することです。
サクションバルブの調整やクリアランスポケットの調整と併用して行われる制御ですが、リサイクル流量を大きくすると、圧縮機の必要動力が過大になってしまうため、あまり大きな流量をリサイクルしないように注意が必要です。(通常は最大で定格流量の50%程度)
また、リサイクルガスは必ず冷却した後のガスを使用するようにします。冷却前のガスをリサイクルさせてしまうと、熱の除去が不十分なまま再圧縮されてしまい、温度が上昇、オーバーヒートを引き起こすためです。
上図は1段圧縮の最もシンプルななスピルバック制御です。吸込側、吐出側に圧力計を設置しており、それぞれの圧力信号を制御装置に取り込み、スピルバック弁の制御を行います。
(実際にはスピルバック弁の制御と共にサクションバルブの制御も行われることもあります。)
このように制御することで、負荷変動時、吐出圧の変動(脈動)を最小化し、プラント運転を安定化することができます。
まとめ
今回の記事では往復動圧縮機の運転制御、特にスピルバック制御について解説しました。
往復動圧縮機は圧縮機の中でも比較的流量が小さく、吐出圧が高い場合に使用されますが、最近では水素ステーションの水素圧縮機として使用されることが増えています。しかしその原理上、吐出圧の変動(脈動)が大きいため、プラント運転の安定のために様々な対策が必須となります。
代表的な対策としてはスピルバック制御が挙げられ、ほとんどの往復動圧縮機ではこの制御が取り入れられています。
スピルバック制御は、吐出側のガスの一部を吸い込み側にリサイクルさせることで、吐出流量を任意の流量に制御するというものです。ただし、リサイクルさせる流量やガスの分岐場所には注意が必要です。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。