プラントエンジニアリング 一般 安全設計(HSE) 技術情報 材質 配管

圧力容器・配管の耐圧試験における安全対策:破壊事例から学ぶリスク管理

今回の記事では、破壊事例から学ぶリスク管理を基に、圧力容器・配管の耐圧試験における安全対策について解説します。

プラントの圧力容器や配管設備は、高温高圧や可燃性・毒性物質を扱うため、安全性が最優先されます。

その安全性を確認するための「耐圧試験」は、法規(高圧ガス保安法、労働安全衛生法など)や規格(JIS, ASME, APIなど)で義務付けられた重要なプロセスですが、それ自体が大きな危険を伴う作業でもあります。

過去には耐圧試験中の破壊事故により尊い人命が失われています。しかし、これまで業界では「いかに壊れない設備を作るか」には注力してきたものの、「試験中に万が一破壊した場合にどう対処するか」という点に関しては、十分な議論がなされてこなかった側面があります

本記事では、耐圧試験における実際の事故事例を分析し、「なぜ破壊が起きるのか」と「水圧と気圧でリスクはどう違うのか」について、技術的な視点から詳しく解説します。

合わせて読みたい

・【プラント設計基礎⑧】設計圧力、設計温度の決定方法の解説
・耐圧試験圧力を設計圧力の1.5倍とするのは間違い?各規格の試験圧力を解説
・設計圧力を超過したプラント運転が許容される?Short term conditionについて解説
・プラントで使用される泡消火薬剤の分類と特徴について解説
・【材質】応力緩和割れとは?オーステナイト系ステンレス鋼の注意点
・【材質】ステンレスが水で腐食する?微生物腐食の原理と対策 
・【材質】配管の材質はどうやって決まる?配管材料選定の留意点について解説
・【材質】極低温環境下における圧力容器に使用される材料選定について解説
・【配管】プラントの音響疲労破壊とは?音響レベルの計算方法と対策
・【配管】プラントの配管振動を引き起こす主な原因とその対策について
・【配管】プラント配管の耐震設計と診断のポイント:漏洩を防ぐための技術指針
・【計装】プラント建設現場における計装設備のループチェック・検査要領について解説
・プレコミッショニングとは?プラント試運転準備作業について解説
・回転機から感電防止まで。プラントエンジニアが現場出張時に身を守るための安全管理総まとめ
・【品質保証】プラント機器における非破壊検査の種類と特徴の解説

耐圧試験における破壊事例の現実

実際の事故は、想定するより「低い圧力」や「些細な欠陥」から発生しています。ここでは水圧試験と気圧試験、それぞれの事例を解説します。

脆性破壊の事例

脆性破壊(ぜいせいはかい)とは、塑性変形(伸び)をほとんど伴わずに、一瞬にしてガラスのように割れる現象です。

事例1:反応器の脆性破壊(水圧試験中)

2005年、現場据付後の反応器の水圧試験中に発生。容器の一部が破壊・落下しました。

破面はキラキラとした金属光沢を呈しており、塑性変形が全く見られない典型的な脆性破壊でした。試験水温の低さが一因とされています。

事例2:球形タンクの脆性破壊(水圧試験中)

1968年、LPG貯蔵用球形タンクの水圧試験中に発生。試験圧力より低い圧力(降伏点の約半分)で、縦に3/4周走るクラックが入り倒壊しました。起点は溶接部のわずか数ミリの欠陥でしたが、タンク温度が約8℃と低かったことが影響しました。

事例3:反応器の爆発的破壊(気密試験中)

1980年、水添脱硫装置の反応器で発生。液体窒素ローリーから直接ガスを送り込んで気密試験を行っていたところ、耐圧試験圧力の半分程度の圧力で突然破裂。約40個の破片が100m四方に飛散しました。

原因として、異種金属による補修溶接部の欠陥、および低温のガス注入による鉄皮温度の低下(約13℃)が重なり、脆性破壊を引き起こしました。

事例4:LNGターミナルの配管破壊(気圧試験中)

2009年、上海のLNG基地で発生。36インチ配管の気圧試験中に脆性破壊により爆発。フランジ付近を起点に破壊し、爆風と破片により1名死亡、15名が負傷する大惨事となりました。死亡した作業員は350mも離れた場所にいました。

延性破壊の事例

脆性破壊ほど頻度は高くありませんが、延性破壊(伸びてちぎれる破壊)による事故も起きています。

事例5:配管分岐部の破壊

30インチ配管の水圧試験中、45°分岐管の取付け部が裂けるように破壊。大量の水が噴出し、近くにいた作業員が吹き飛ばされ死亡しました。

耐圧試験では脆性破壊への注意が強調されがちですが、延性破壊も死亡事故につながるリスクがあることを示しています。

ガスケット破損の事例

容器本体だけでなく、フランジのガスケットが破損するケースもあります。過去には、漏れを目視確認中にガスケットが吹き飛び、高圧の水が作業員の目に直撃して死亡した事例もあります

耐圧試験における破損モード

耐圧試験で起こりうる破壊は、主に「延性破壊」と「脆性破壊」の2つです。その特徴を知ることは安全対策のを行う上で重要です。

特徴 延性破壊 (Ductile Fracture) 脆性破壊 (Brittle Fracture)
破壊の予兆 大きく変形(膨らむ)してから壊れる 予兆なし。 低応力で一瞬にして破壊
破壊規模 局所的な破壊に留まることが多い 大規模・壊滅的な破壊になりやすい
起点 構造的な弱点(設計ミスなど) 小さな溶接欠陥や傷が起点となる
主な要因 構造強度(板厚)、材料強度 材料の靭性、試験温度、溶接欠陥
対策 設計段階でほぼ防止可能 材料・施工・試験温度管理が重要

耐圧試験中の事故のほとんどは脆性破壊です。

設計圧力を満たしていても、低温環境下や小さな欠陥をきっかけに、予想外の低圧力で発生するのが恐ろしい点です

「水圧」と「気圧」のリスクの決定的違い

法規や規格では原則として水圧試験が求められ、気圧試験は例外的な扱いです。その理由はリスクの大きさにあります

発生確率は変わらない

リスクを「発生確率」で見ると、水圧も気圧も変わりません。むしろ水圧は水頭圧(重さ)が加わる分、底部の圧力は高くなります。つまり、「水圧だから壊れにくい」わけではありません

影響度(被害)が桁違い

実は、脆性破壊が「発生する確率」自体は、水圧でも気圧でも基本的に変わりません(むしろ水頭圧がある分、水圧の方が高圧になりやすい)。決定的な違いは、破壊した後のエネルギーです。

水圧試験(非圧縮性流体)

水は圧縮されないため、容器が少しでも破れて水が漏れれば、瞬時に内圧がゼロになります。その結果、破壊は局所的に留まり、破片が遠くまで飛散することは稀です。

リスクは限定的とされています。ただし、上述したように、近くにいれば水流の直撃で死傷することはあります。

気圧試験(圧縮性流体)

気体は圧縮されているため、容器が破れても膨張しようとし続け、圧力がすぐには下がりません。結果、爆風が発生し、脆性破壊で生じた無数の破片を、爆弾のように広範囲へ吹き飛ばします。

そのため、リスクは大きい試験方法です。万一事故が発生した場合は、数百メートル先まで殺傷能力のある破片が飛来することになります。

結論

人命保護の観点からは、気圧試験は水圧試験よりも格段にリスクが高い(必要な安全距離が圧倒的に長い)と言えます。

しかし、プラントで取り扱う流体によっては水分の残留が許されない場合など、様々な理由で気圧試験を実施せざるを得ない場合があります。その際は十分のリスクを認識した上で実施する必要があります。

脆性破壊の9つの特徴

最後に、耐圧試験で最も警戒すべき「脆性破壊」の特徴をまとめます。これらを理解しておくことで、試験計画時のリスク低減に役立ちます。

見出し(全角15文字)

1. 材料の影響
2. 前兆なし
3. 温度依存性
4. 大規模化
5. 気圧の危険性
6. 切欠き効果
7. 衝撃
8. 結晶粒度
9. 板厚

材料の影響

鉄鋼(フェライト系)は起こしやすいが、ステンレス(オーステナイト系)やアルミ・銅は起こしにくい。

前兆なし

ほとんど変形せず、音もなく限界を迎え、瞬時に破壊する。

温度依存性

低温になるほど発生しやすい(延性遷移温度以下で急激に靭性が低下)。冬場の試験は要注意

大規模化

一度クラックが走ると止まらず、設備全体が崩壊する。

気圧の危険性

気圧試験での破壊は、爆弾のような飛散被害をもたらす。

切欠き効果

溶接欠陥や傷などの「切欠き」があると発生しやすい。

衝撃

衝撃的な荷重がかかると発生しやすい。

結晶粒度

溶接熱影響部などで結晶粒が粗大化すると脆くなる。

板厚

板が厚いほど「平面ひずみ状態(3軸拘束)」となり、破壊しやすくなる。

まとめ

耐圧試験は、設備の安全を証明するためのプロセスですが、一歩間違えれば大事故につながる危険な作業です。

事例が示すように、「設計圧力の半分」や「降伏点の半分」といった低圧でも、条件さえ揃えば巨大な設備が一瞬で崩壊します。特に「低温」と「気圧」の組み合わせは最悪のシナリオを招きます。

エンジニアや検査員は、「水圧なら安心」と過信せず、また気圧試験を行う場合は「爆発実験を行っている」という認識で、厳格な安全距離と温度管理を徹底する必要があります。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 技術情報を200記事以上執筆、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

-プラントエンジニアリング, 一般, 安全設計(HSE), 技術情報, 材質, 配管

© 2026 プラントエンジニアのおどりば Powered by AFFINGER5