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【タービン】蒸気タービンの設計における適用規格と留意点の解説

こんにちは。Toshi@プラントエンジニアのおどりばです。

今回の記事では化学プラントの蒸気タービン(スチームタービン)の設計における適用規格と留意点について解説します。

化学プラントでは、蒸気タービンは発電用だけでなく、出力の大きい圧縮機やポンプの駆動源として使用されます。そのため、大型の化学プラントでは蒸気タービンを設置することが多いです。

蒸気タービンの各タイプの特徴についてはこちらの記事を参照下さい。

これらの蒸気タービンは大型で長納期品であることもあり、基本的には予備機を持つことはありません。

補足:消耗品や各種部品の予備品は必要とされることが一般的です。

蒸気タービンは、万一故障・運転停止してしまうと、プラント全体が停止してしまうほどの重要機器なので、設計は慎重に行わなければなりません。

そこで、本記事では蒸気タービンに適用される規格と設計の留意点について解説します。

主な留意点

・ 基本設計
・ 使用環境
・ ケーシング
・ 許容荷重
・ 回転体
・ ローターダイナミクス
・ 軸受
・ 耐圧試験
・ 性能試験

各項目の詳細については次項から解説します。

適用規格

化学プラントに設置される蒸気タービンは、API規格(American Petroleum Institute)が適用されることが多く、蒸気タービンの設計もAPI規格に基づいて行うことがほとんどです。

適用規格

・ API611(GENERAL-PURPOSE STEAM TURBINES FOR PETROLEUM, CHEMICAL, AND GAS INDUSTRY SERVICES)
・ API612(PETROLEUM, PETROCHEMICAL, AND NATURAL GAS INDUSTRIES - STEAM TURBINES - SPECIAL-PURPOSE APPLICATIONS)

化学プラントでは、予備機を持つポンプ用小出力タービンなどにAPI611を適用し、メインプロセスの大型圧縮機駆動用の蒸気タービンにはAPI612を適用することが多いです。

API611とAPI612とではタービン設計における要求事項が異なりますから、「どの適用規格に基づいて設計しているか」を常に留意しておかなければなりません。

API611

API611は出力がそれほど大きくない汎用タービンに適用されます。

蒸気の条件としては、圧力が4.8MPa以下、温度が400℃以下のタービンに適用され、タービン回転数としては、6000rpm以下のタービンで適用されます。

API612

API612は石油、石油化学、天然ガス産業で使用されるタービンに適用されます。

これはのタービンは「特殊用途タービン」に位置づけされますが、これは予備機を持たず、比較的大出力、クリティカルなサービスに使用される水平置き
のタービンのことです。

基本設計

タービン設計の前提となる項目です。API611とAPI612とでは要求項目が異なります。

API611

API611適用のタービンでは、最小20年の寿命を持つように設計、かつ3年間の連続運転を行えるように設計する必要があります。

<API611 6.1.1>

The equipment (Including auxiliaries) covered by this standard shall be designed and constructed for a minimum service life of 20 years and at least three years of uninterrupted operation.

API612

API612では、API611とは異なり具体的な寿命年数や運転年数が指定されておらず、連続運転期間は購入者が指定することになっています。

<API612 6.1.1>

The purchaser shall specify the period of uninterrupted continuous operation, during which time the equipment should not require shutdown to perform maintenance or inspection.

またAPI611同様、最高連続回転数を含めた指定された回転数で連続的に運転できることが要求されています。

<API611/612 6.1.4 d)>

Continuous operatating at rated power and speed under maximum inlet steam conditions and maximum or minimum exhaust steam conditions.

使用環境

化学プラントでは、蒸気システムを含む設備は共用となつていることが多く、いくつかのプロセスユニットを組み合わせて使用されていることが多く、排熱回収のために蒸気を発生させているプロセスも多いです。(排熱回収ボイラ)

プラント内では、ポンプや圧縮機、発電機などの様々な機器が使用されていますが、蒸気タービンでどの機器を駆動するか、プラントの種類や規模などによって異なるため、設計するプラント毎にどのような蒸気タービンを設置するか検討しなければなりません。

蒸気タービンが使用されるケースとしては以下のようなものがあります。

蒸気タービンを使用するケース

・ プロセス側の要求があるもの
・ 停電対策が必要なもの
・ モーターと蒸気タービンで冗長化が必要なもの
(蒸気バランスの調整及び停電対策)
・ 低圧力の蒸気が必要な場合
・ 余剰蒸気が大量にある場合
(発電用タービンの設置を検討)

ケーシング

API611やAPI612が適用される蒸気タービンのケーシングの応力や鋳物係数については、ASME規格(American Society of Mechanical Engineers)Section VIII Division 1、Division 2に従う必要があります。

さらに、API612では、指定された最高運転温度での材料の最小引張強度に鋳物係数を乗じた値の25%を超えてはならないことが規定されています。

<API612 7.1.2.1>

Any materials tensile stress used in the design of the pressure casing shall not exceed 25% of the minimum ultimate tensile strength for that material at the maximum specified operating temperature, multiplied by the appropriate casing quality factor.

 

ボルト形状

ケーシング外部のボルトの形状についても指定があり、ボルトのタイプによっては購入者の承認が必要となります。

ねじの使用

圧力容器へのねじの使用についても指定があり、ネジ山の使用は最小限にすること、腐れ代に加えてボルト呼び径の半分以上の余肉をねじの底部と周辺に残すこと、ねじ深さはボルトの呼び径の4.5倍以上であることが必要になります。

圧力計、温度計取り合い

圧力計温度計の取り合いにも規定があり、DN20以上(NPS3/4"以上)のサイズである必要があります。

ドレン配管

ケーシングドレン配管についても同様に指定があり、API611ではDN20(NPS3/4")以上、API612ではDN25(NPS 1")以上のサイズである必要があります。

他にも配管のニップル長さの上限や最小配管スケジュールの規定もあります。

許容荷重

蒸気ービンや接続配管は運転中温度が高くなるため熱膨張を起こします。

タービン本体においてはスライド式の支持脚や軸受室構造の採用により熱膨張による影響を緩和するような構造とします。

接続配管についても、熱膨張による影響を極力緩和するような構造を採用していますが、起動前や運転状況により熱膨張による影響を打ち消せない場合もあります。このときに発生する熱応力は「タービンのノズルヘの外力」という形で現れるため、この応力に耐えうる設計をしなければなりません。

設計指針として、API611ではNEMA SM23(Steam Turbines for Mechanical Drive Service)、AP612ではNEMA SM24(Land-Based Steam Turbine Generator Sets 0-33,000kW)が参照されています。

回転体

API611とAPI612とでは設計で考慮するべき項目が異なりますので注意が必要です。

API611

AP1611では、回転体はトリップ速度の110%で短時間損傷なしに運転できることが要求されています。

API612

API612では、機械駆動用タービンに対しては定格速度の127%、発電用タービンに対しては同期速度の121%で短時間運転できることが要求されています。

また、API612については、動翼の共振は励起周波数から10%以上外すことが要求されていますが、化学プラントにおける蒸気タービンは運転回転数範囲が広いため、共振を回避しきれない場合もあります。

この場合は、別途動的応力を評価して、連続運転に問題が起きないほど十分低い動的応力であることを確認することが求められます。

ローターダイナミクス

蒸気タービンは高速回転する回転体をもつため、振動の問題は決して無視することはできません。そのため、設計・性能試験段階で危険速度を求め、運転中に危険速度を超えないように設計しなければなりません。

タービンローターの危険速度を求めるためには、減衰を考慮した場合としない場合とで、応答解析の実施が要求されています。

応答解析で求められる危険速度は、運転条件に明記されている運転範囲に対してAPIで規定されたマージンを満足する必要があります。

タービンのトレイン全体での捩り振動解析も要求されており、トレイン全体の捩り固有振動数は運転範囲に対して10%のマージンを取る必要があります。API612ではさらに安定性解析も実施することが要求されています。

軸受

API611とAPI612とでは規定されている軸受のタイプが異なります。

API611:流体軸受もしくは転がり軸受
API612:流体軸受もしくは磁気軸受

化学プラントで良く使用される流体軸受、転がり軸受について詳細を解説します。

流体軸受(流体ラジアル軸受)においてはスリーブあるいはパッド入りで、鋼裏金、交換可能なライナー、パツド、シェルで分割する必要があります。また回転防止ピン付で、軸方向に確実に固定しなければなりません。

転がり軸受(スラスト軸受)は、設計シール隙間の2倍までの変動や直径が変化するすべての場所に生ずる推力、各段落の反動度や差圧、入口、抽気、混気、排気圧力の変動、被駆動機器からの外力を含めた最も不利な運転条件において連続運転可能なサイジングを行う必要があります。

また、連続運転中に故障を起こさない最小の油膜厚さを生成する荷重、もしくはパッドの最高温度位置におけるクリープ開始または降伏強度を超えない荷重のいずれか低い方を最大定格荷重とし、この荷重の50%以下となるような転がり軸受を選定する必要があります。

AP 612ではパッドの温度計測について、AP1670(Machinery Protection Systems)を参照し、計測位置やセンサの埋め込み深さについても規定されています。

<API612 10.4.5>

Provision shall be made for monitoring two noncontaciting radial-vibration probes in each bearing housing, two axial-position probes at the thrust end each machine, and a one-event-per-revoluation probe in each machine. Probe installation shall be as specified in API 670.

また、強制給油の流体軸受用軸受室の場合、給油温度と排油温度の温度差および、排油温度の上限値の規定があるため、これを満足する必要があります。

耐圧試験

耐圧試験は基本的にはASME sectionVIII Division 1, Division 2の要求に従いますが、API611とAPI612とでは要求事項は異なります。

圧力容器の耐圧試験圧力については、こちらの記事も合わせて参照下さい。

API611

API611では、最大許容作動圧力の1.5倍以上の水圧で耐圧試験を実施する必要があります。

運転温度が高温のため、材料の許容応力が常温時の材料の許容応力と比べて低くなる場合は、高温時の許容応力と常温時の許容応力の比を係数として、耐圧試験の圧力を補正する必要があります。

API612

API612でも基本的な要求事項はAPI611と同様です。

しかし、合わせ面の漏れ試験の要求が別途規定(API611 16.3.2)されており、大許容作動圧力の1.5倍以上の水圧で耐圧試験を実施する必要があります。この試験では温度補正を考慮する必要はありません。

性能試験

一般的に、蒸気タービンは工場出荷前に機械運転試験を実施されます。

この機械運転試験は最高連続回転数でAPI611、API612で規定されている保持時間以上の連続運転を行い、蒸気タービンに機械的な問題が発生しないことを確認する必要があります。

軸振動は、APIにて規定された値を超えてはならず、API612では減速中の速度に対する運転回転数での振動振幅値と位相角を表すグラフを作成することが要求されます。さらに運転回転数の1倍以外の周波数での振幅を求めるための軸振動データを取得する必要もあります。

また、最高連続回転数での保持中に、軸受潤滑油の圧力と温度を指定された範囲で変更し、その影響を確認することも要求されます。

この試験中に最高連続回転数以下に存在する危険速度を特定し、合わせてローターに錘を設置して意図的に不釣り合いを発生させ、曲げ危険速度解析の検証
試験も実施します。

まとめ

今回の記事では化学プラントの蒸気(スチームタービン)タービンの設計における適用規格と留意点について解説しました。

化学プラントでは、蒸気タービンは発電用だけでなく、出力の大きい圧縮機やポンプの駆動源として使用されます。そのため、大型の化学プラントでは蒸気タービンを設置することが多いです。

ただし、蒸気タービンは万一故障・運転停止してしまうと、プラント全体が停止してしまうほどの重要機器なので、設計は慎重に行わなければなりません。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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