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サットンの式とは?毒性ガス、可燃性ガスの着地濃度の計算方法について解説

今回は毒性ガス、可燃性ガスの着地濃度を計算するサットンの式について解説します。

原則として、プラントから排出される排ガスに毒性ガスや可燃性ガスが含まれる場合は、フレアスタックや除害設備に送って無害化して大気に放出されることになります。

しかし、プラントにフレアスタックが無い、圧力が無くフレアスタックに送ることが出来ない、毒性ガス成分はあるものの僅かな濃度である、といった様々な理由や、フレアスタックのバーナーが万一失火してしまった時など、時には大気放出することを検討する場合があります。

そのような場合、放出したガスの着地濃度を計算し、「その着地濃度が許容されるかどうか」の観点で大気放出可否を検討します。

着地濃度を計算する代表的な計算式がサットンの式(Sutton's formula)です。

本記事ではサットンの式を用いた、毒性ガス、可燃性ガスの着地濃度の考え方にについて解説します。

注意:この式で算出された着地濃度が許容濃度未満でも、放出可否については必ず関係各所と協議するようにして下さい。許容濃度未満でも大気放出が認められない場合は、除害設備の設置、もしくはプロセス自体を見直すなどの対応が必要です。

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サットンの式とは

サットンの式(Sutton's formula)は煙突から排出される汚染物質の拡散を予測するべく、Fickの法則をもとに導かれた式です。

乱流拡散、風速は一定、という仮定がおかれており、簡易的に計算する式ですが、実用上はこの式で十分とされることが多いです。

<サットンの式>

$$C_{max}=\frac{2Q}{πeu{He}^2}\frac{C_z}{C_y}$$

C:最大着地濃度 [-]
Q:流量 [m3/s](Normal流量ではなく、Actual流量)
π:円周率
e:自然対数の底
u:風速 [m/s]
He:大気放出口高さ [m]
Cz:拡散係数
Cy:拡散係数

Cmaxについて

実際の着地濃度は放出源からの距離に応じて変動し、ある距離において極大値をとりますが、この時の濃度が「最大着地濃度」と呼ばれます。

上記のサットンの式は最大着地濃度のみを計算する式です。最大着地濃度となる距離の算出については別途計算する必要がありますが、実用上は最大着地濃度のみを用いて放出可否を議論することがほとんどであるため、本記事でも最大着地濃度に焦点を当てて解説します。

Cz、Cyについて

Cz、Cyはサットンの拡散係数と呼ばれる係数で、大気の状態によって決まる定数です。

これらの係数は様々な数値が知られていますが、サットンの式の構造から、Cz/Cyの値が大きいほど着地濃度が高く算出される(安全サイド)なので、実用上は以下の表に基づいて使用されます。

高さが中間であれば直線的に補完して使用します。

許容着地濃度の考え方

許容着地濃度の考え方はガス検知器の設置基準同様、毒性ガスではじょ限量(許容濃度)可燃性ガスでは爆発下限界(LEL)が用いられます。

これらのガスの許容着地濃度の一例として以下が挙げられます。

毒性ガス:じょ限量
可燃性ガス:爆発下限界の10分の1(緊急時のみ放出であれば5分の1)

計算例

毒性ガスである一酸化炭素(CO)を含む排ガスの着地濃度を計算します。

前提条件

排ガス流量:1000 Nm3/h
CO濃度:1 vol%
温度:40℃
圧力:100 kPag
風速:1m/s
放出口高さ:5m

COの流量はNormal流量で、1000*0.01=10 Nm3/hとなります。ここからActual流量を求めると、

※数式が途切れる場合はスライドすることで表示されます。

$$Q=10\times\frac{0.1013}{(0.1013+0.1)}\times\frac{(273.15+40)}{273.15}÷3600=0.0016$$

Q=0.0016 m3/sなので、各条件サットンの式に代入すると、

$$C_{max}=\frac{2*0.0016}{3.14*2.718*1*5^2}\frac{0.12}{0.21}=0.0000086$$

従って、Cmax=0.0000086=8.6ppmと計算されました。

COのじょ限量(許容濃度)は日本産業衛生学会(2014 年版) では50ppm、ACGIH では25ppmなので、最大着地濃度<じょ限量(許容濃度)となり、この排ガスを大気放出されることは、計算上は許容されることになります。

まとめ

今回は毒性ガス、可燃性ガスの着地濃度を計算するサットンの式について解説しました。

原則として、プラントから排出される排ガスに毒性ガスや可燃性ガスが含まれるは、フレアスタックや除害設備に送って無害化して大気に放出されることになりますが、様々な理由から、時には大気放出することを検討する場合があります。

そのような場合、放出したガスの着地濃度を計算し、「その着地濃度が許容されるかどうか」の観点で大気放出可否を検討しますが、代表的な計算式がサットンの式(Sutton's formula)です。

ただし、この式で算出された着地濃度が許容濃度未満でも、放出可否については必ず関係各所と協議するようにして下さい。許容濃度未満でも大気放出が認められない場合は、除害設備の設置、もしくはプロセス自体を見直すなどの対応が必要なので、使用にあたっては十分に注意して下さい。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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