今回の記事ではプラント配管のボルト結合フランジにおける締め付け管理について解説します。
ボルト結合フランジ継手は石油、ガスプラントや発電プラント、化学プラントなどの設備で標準的に使用される配管の接続方法です。
フランジやボルトの設計法は確立・標準化されており、使用環境下で内部流体の漏えいによる災害や、環境問題が生じないように、設計方法、材料、ガスケットなどを含めて規格が準備されています。
そこで、本記事ではボルト結合フランジの締付管理の概要について解説します。
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ボルト結合フランジ継手の結合管理の必要性
ボルト結合フランジにおいては、漏えいを抑制、または漏えい量を最小化するためのガスケットを含めた、ボルト締めつけ荷重計算、内圧、ボルト締付荷重、外部荷重などのフランジの各部応力の評価がベースになっています。
この時点では、ボルト締付に使用される工具の種類や、使用工具の締付結果に与える影響は考慮されず、設計通りにフランジが正しく結合されることを前提としています。
ただし、実際には
・温度・時間の影響(フランジ、ボルト、ガスケットのクリープによる影響)
・フランジのミスアライメント結合による影響
・締付に使用される実際の工具による締付結果の影響(ボルト締付荷重のバラツキ)
上記の影響があり、全ての影響を設計の段階で反映することは難しいとされています。
結果として、運転開始後に漏えいが生じるフランジがゼロ(リークフリーフランジ)を達成するためには、過去の漏えい事故の原因を追究し、設計された状態を達成するために施工方法を含めて管理すること重要とされており、そのための締付管理ガイダンスが公表されています。
代表的な締め付け管理のガイドラインは以下の通りです。
- Guidelines for the management of the integrity of bolted joints for pressurized systems
- Guidelines for Pressure Boundary Bolted Joint Assembly ASME PCC-1‐2013
また、施工管理を行うためのボルト結合フランジに関する締付管理技術の理解を深めるためのガイドラインも準備されており、代表的なものは以下の通りです。
- EN1591 Flanges and their Joints‐Part4 : Qualification of Personnel Competency in the Assembly of the Bolted Connections of Critical Service Pressurized System
- Engineering Construction Industry Training Board (ECITB) Mechanical Joint Integrity Standard
一部では、これらのガイダンスを考慮して、大型プラントのフランジ接手のリークフリーを達成することをサポートするようなシステムを供給している会社もあります。
フランジのボルト締め付けの重要な要素
フランジは、各国で規格化された標準に基づいて設計されますが、設計されたフランジが正しく結合されるように、ボルト結合フランジに対する技術的な理解が重要です。
必要な知識
・フランジ設計(強度、必要ボルト荷重、シール材など)の知識
・組立結合方法(アライメント、関隙などの影響)
・使用するボルト締め付け装置の種類とその特徴(精度管理)
・締め付け手順、締め付け結果の管理(ボルト伸び、荷重計測など)
・使用したエ具の保守・保管、安全知識
フランジのボルト締め付けの最も重要な要素は以下の3項目です。
ボルト締め付けの重要な要素
・必要ボルト荷重
・締め付けの品質(精度)
・正しい組立と正しいボルト荷重
それぞれについて解説します。
必要ボルト荷重
必要ボルト荷重は、適用する設計コードに従って決定されます。
一般的にはASME Sec. Ⅷ 等で計算されますが、例えばASME PCC‐ 1‐2013のAppendix Oには締付荷重(ボルト締付応力)を検討するためのガイドラインが示されています。
このガイドラインは継手の一体性(Joint Integrity)を考慮した荷重の検討方法を示しており、例えばガスケットについては、締め付け後に運転開始した後にリラクゼーシヨン考慮した締め付け荷重の計算を推奨しています。
ただし、クリープ、疲労、環境損傷などは考慮されていないことに要注意です。
また、ボルト締付応力の計算例が示されており、例えば2500 LBフランジの場合は、35Ksi(=241MPa)のボルト締付応力が推奨されています。
締め付けの品質、ボルト加重
正しいボルトの締め付け荷重を得ることが最も重要で、そのために管理する項目があります。
ボルト締め付けにおいては、締付に適した工具を選定することが肝要になるため、基本的に軸力管理ができない方法は使用が推奨されません。
トルク締め
1インチ以下であれば、ハンドドルトルクレンチ
が一般的に使用されます。
M20以上の場合は油圧トルクレンチが使用されます。ただし、締め付け精度に影響する項目、噛み合い部。すべり部の摩擦係数は、締付結果に大きな影響を与えるので、使用する潤滑剤の特性(摩擦係数)を確実に把握して使用する必要があります。
また、締め付けの信頼性を確保する目的で、きるだけ使用する潤滑剤は統一して使用することが推奨されています。
さらに、油圧トルクレンチの容量選択においては、締め付けトルクだけでなく、緩める場合のトルクを考慮して選択する必要があります。
緩める時には長時間使用により潤滑剤の効果が減少しているので、摩擦係数が大きくなり、一般的に締付トルクの1.5倍程度のトルクが必要になるに留意が必要です。
ボルトテンショナー
ボルトテンショナーは、複数本のボルトに同時に引張荷重を与えて伸ばし、ナットを回転させてフランジ座面に接地させ、圧力を降下すればボルトに締め付け軸力を残す方法です。
締付結果に摩擦が関与しないために、締め付け荷重の精度と均一化のメリットがあります。
その一方で、ボルトテンショナーで保持した荷重がボルト・ナット・フランジに移るときに、各部剛性に関連する荷重損失が生じるので、荷重損失係数については試験・実機での計測データを反映して精度良いデータを準備することが必要です。
締付結果の確認
ボルトの締め付けを行う場合、結果に影響を与える要素は測定・記録する必要があります。
結果に影響を与える要素
・使用した工具の種類
・潤滑剤と摩擦係数
・荷重損失係数
・圧力計の校正データ
また、締め付け結果について測定を行い、設計で要求されたボルト荷重が正しく与えられたか確認する手段を併用することが推奨されます。
直接締付結果を測定する手段としては以下の方法があります。
締付結果の測定手段
・ ボルト全長の変化を直接計測(伸び計測)
・ 超音波ボルト軸力計での締付荷重・伸び計測
・ 荷重モニタリングセンサー(荷重計測座金など)
この中で、超音波ボルト軸力計は、現在広く使用されており、その計測精度が確認されています。
これは、応力を負荷した金属材料の中では、超音波伝達速度が負荷した応力に比例して遅くなるという物理現象から計測される伝達時間と、ボルトの伸びによる伝達時間を計測し、無負荷時の伝達時間との差を利用した計測器になっています。
この超音波速度の度合いは材料の種類で異なり、データベースで管理されるのが通常ですが、データがない材料に関しては現場で校正を行って計測精度を確保する方法が採用されています。