
今回の記事ではエジェクター(エゼクタ)の特徴・原理から設計方法について解説します。
プラントにおける真空発生装置として欠かせないエジェクターは、可動部を持たない単純な構造でありながら、高真空・大容量の安定した運転が可能な流体機器です。
しかし、運転範囲が狭い一点設計であるため、背圧や冷却水温の変動に敏感という設計・運用上の難しさも併せ持っています。
本記事では、エジェクターの基本原理から、トラブルの原因となるダウン現象、多段化によるシステム設計、設計理論、そして現地トラブルを防ぐための工場試験のポイントまで、実務に役立つ知識を完全に網羅して解説します。
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エジェクターの特徴と作動原理

エジェクターは、駆動流体の噴射エネルギーを利用して吸入流体を吸入圧力から吐出圧力まで圧縮する、可動部のない流体機器です。ノズル、ディフューザ、吸入室の3つの部分から構成されています。
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長所: 回転部がなくメンテナンスが容易であり、構造がシンプルで様々な工業材料で製作可能です。また、大容量の流体処理が可能で信頼性が高く、本質的に防爆であるため安全です。
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短所: 圧力を有する駆動流体が必要であり、場合によってはランニングコストが高くなります。また、運転範囲が狭い一点設計であり、組み合わせるコンデンサの冷却水温度の影響を大きく受けます。
作動原理
蒸気駆動エジェクターの場合、高圧の駆動蒸気はノズルで膨張・加速して動圧に変換されます。喉部で音速に達した後、拡大部で超音速域まで膨張して低圧となり、対象ガスを吸引します。
その後、混合域で吸入流体と同伴混合し、最後にディフューザで断熱的に圧縮され、動圧を静圧に変換して出口圧力まで昇圧されます。ディフューザ喉部において、混合流体が所要出口圧力に達するだけの十分な速度を持っていることが極めて重要です。

亜音速域と超音速域の違い
ノズルでは喉部の前後で 亜音速→音速→超音速、ディフューザでは 超音速→音速→亜音速 と変化します。
連続の式・運動量の式・音速の式を組み合わせると、次の関係を導くことができます。
流路断面積と流速の関係
連続の式:
$$\frac{dρ}{ρ} + \frac{du}{u} + \frac{dA}{A} = 0$$
運動量の式:
$$u·du + \frac{1}{ρ}·dp = 0$$
音速の式:
$$a^2 = \frac{dp}{dρ}$$
ρ:密度
u:速度
A:流路断面積
a:音速
これらより
$$\frac{du}{u} = \frac{1}{(u²/a² − 1)} × \frac{dA}{A}$$
すなわち、u>a(超音速)では A が増加すると u が増加し、u<a(亜音速)では A が減少すると u が増加する。
この性質から、エゼクタにはディフューザ内が超音速のものと亜音速のものがあり、両者は区別されるものとして扱われます。
そのため、高真空を得るためのスチームエジェクターは超音速型で、吸入圧力は出口圧力の影響を受けないですが、スチームゼットブロワーのような多量の気体を吸引・排出させるタイプは吸入圧力が出口圧力の影響を受けます。
超音速型で背圧が後述の最高放射圧を超えない場合は、超音速から亜音速に減速する際に衝撃波が発生するため、ディフューザ出口の変動が吸入側へ伝わらず、吸入特性は背圧に影響されません。
高真空を得るための真空ポンプについてはこちらの記事を参照ください。
性能を左右する「背圧特性」とダウン現象
エジェクターを安定して運用するうえで欠かせないのが背圧特」の理解です。
背圧(放射圧)が変化しても吸入圧が一定に保たれる領域と、背圧の上昇に伴い吸入圧も上昇してしまう領域の境界を「最高放射圧(Break Pressure)」と呼びます。背圧がこの最高放射圧を超えてしまうと、「ダウン(Break)」と呼ばれる運転異常状態に陥ります。
最高放射圧(Break Pressure)
$$Pdmax ≒ Pn ×\frac{1 + μ/1.27}{φ}$$
Pdmax:最高放射圧
Pn:ノズル前蒸気圧力
μ:吸入比(= 吸入空気量 / 噴射蒸気量)
φ:喉面積比(= ディフューザ喉断面積 / ノズル喉断面積)
ダウン現象は次のような形で現れます。
ダウン現象
不安定:背圧の変動が吸入圧の変動に影響する。特に吸入比が小さいと変動が大きく増幅され、吸入圧の振れとなって現れる。
逆流:吸入圧の振れの結果、駆動蒸気の一部が上流へ逆流する。
温度:駆動蒸気の逆流に伴い、吸入室や前段コンデンサ上部が熱くなる。
音:正常時に比べ流体音が大きくなり、息継ぎ音を発生する。
ダウン現象の主な症状と原因
ダウン現象が発生すると、エジェクターは所定の吸入性能を発揮できなくなります。
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症状: 吸入圧が大きく変動する不安定状態、駆動蒸気の上流への逆流、逆流に伴う温度上昇、通常よりも大きな流体音や息継ぎ音の発生などが起きます。
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原因:
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最高放射圧の低下: ノズル前蒸気圧の低下や、駆動蒸気に多量のミストが含まれる場合に発生します。
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背圧の上昇: 吐出側配管の詰まり、後段エゼクタの異常、後段コンデンサの冷却水温高や水量不足が原因となります。
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リーク: 設計値以上のガスを吸引した場合に背圧が過大に上昇します。
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エジェクターの設計はノズルとディフューザの面積比のみならず形状・寸法についても理論と実績によって決められるため、ダウン現象を回避するためにも、できるだけ経験豊富で信頼のおけるメーカの製品を使用するのが望ましいとされています。
エジェクターの適用規格と分類

エジェクターの設計や発注においては、以下の規格が広く参照されます。
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HEI規格(Steam Jet Vacuum Systems / Steam Surface Condensers): 発注時に指定すべき条件や多段構成、本体構造、寸法公差、試験方法などを規定しています。
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JIS B 8111(蒸気噴射空気エゼクタ性能試験方法): 試験装置および試験方法を具体的に規定しています。
HEI:Heat Exchange Institute, Inc
また、エジェクターは目的によって「高真空を発生させる蒸気エジェクター」「多量の気体を吸引するスチームゼットブロワー」「低圧蒸気を加圧するサーモコンプレッサー」などに分類されます。
多段化によるシステム設計

エジェクター単体での排気には限界があるため、プラントの実運用においては、効率的な排気を目的として他の真空発生機器や熱交換器(コンデンサ)と組み合わせたシステム設計が基本となります。
吸入ガス中の非凝縮性ガスの割合や、流体性状、圧力、冷却水温などによって最適な操作条件は大きく変わるため、実績のあるシステム構成を採用するか、専門メーカーの知見に基づいて計画することが非常に重要です。
段数と到達真空度(吸引圧力)の目安
高い真空度を得るためには、エジェクターを複数段直列に繋ぐ多段エジェクターを採用します。
段数と到達可能な吸引圧力の一般的な目安は以下の通りです。
| 段数 | 吸引圧力 (kPaA) |
| 1段式 | 13 〜 100 |
| 2段式 | 2.6 〜 26 |
| 3段式 | 0.53 〜 5.3 |
| 4段式 | 0.066 〜 1.3 |
| 5段式 | 0.0066 〜 0.13 |
| 6段式 | 〜 0.0067 |
中間コンデンサとブースターエジェクターの役割
多段エジェクターで凝縮性の流体を圧縮・真空引きする場合、後段のエジェクターの負荷(ガス処理量)を減らすために、段と段の間に中間コンデンサを設置します。
コンデンサには、直接気液を接触させるバロメトリックコンデンサと、間接冷却を行うサーフェスコンデンサがあり、プロセス流体の性質や用途によって使い分けられます。
ブースターエジェクターについて
エジェクターが3段以上になるような低圧・高真空環境下では、蒸気の凝縮温度が冷却水温よりも低くなってしまい、冷却水では蒸気を凝縮できなくなります。
そのため、第1段目には中間コンデンサを設けず、「蒸気を冷却水で凝縮できる圧力まで吸入ガスを加圧する」ことのみを目的としたエジェクターを配置します。これをブースターエジェクターと呼びます。
※なお、単段エジェクターや多段の最終段は、性能上は大気放出でも問題ありませんが、排気騒音が激しいため、消音器(サイレンサー)の役割を兼ねてコンデンサを設けるケースも多く見られます。
他機器との組み合わせと運転範囲の拡大
エジェクター単体では運転範囲が狭いという弱点があるため、以下のような工夫でシステム全体としての適応力を高めます。
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後段機器の組み合わせ
スチームエジェクターの後段にはコンデンサを、空気駆動エジェクターの後段には真空ポンプを配置する構成が基本です。また、水環ポンプや回転式真空ポンプと組み合わせるシステムもよく採用されます。タービン復水器の排気にはコンデンサ付きスチームエジェクターが使われ、冷却水には復水器の凝縮水を利用するのが一般的です。
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並列化
プラントの運転条件により広い流量変化が求められる場合は、複数のエジェクターを並列に接続し、バルブの切り替えによって処理能力を調整する方法がよく採られます。
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ノズル調節機能による最適化
一部のエジェクターには、駆動ノズルの断面積を可変にして運転範囲を広げる機構や、冷却水温の変化に合わせて駆動蒸気の消費量を最適化する調節機能が備わっているものもあります。
化学プラントなどでの応用例
エジェクターは単なる真空発生装置にとどまらず、化学プラントにおいて多彩な役割を果たしています。
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ポンプとしての利用: 液体を駆動流体とし、反応器内の液循環ポンプとして使用されます。液体アンモニアのような高圧・腐食雰囲気でも稼働できる構造の単純さが活かされています。
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ガス移送: 混合ガスを次工程へ移送する用途で使われます。
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攪拌: タンク内の溶液攪拌に利用されます。
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復水器の真空引き: タービンの復水器の真空引きに使用されます。
エジェクターの設計法と理論

エジェクターの設計とは、吸引すべき流体のプロセス条件が与えられた際に、各部の寸法を決定し、駆動流体の必要流量や圧力を求めることです。
現実のプラント建設・改造プロジェクトでは、メーカーが自社の試験設備での実証試験に基づき設計・製作を進めるため、発注者側のエンジニアが内部設計に直接介入することは通常ありません。
しかし、実績の少ないメーカーを採用する場合の図書レビューや、試運転時に性能問題(真空不良など)が生じた際のトラブルシューティングにおいては、原理を理解して使用条件と形状の関係性を把握しておくことが非常に有用です。
形状データが非開示の場合でも、検査や試運転の際に実測してデータを蓄積しておくことが推奨されます。
エジェクターの代表的な設計資料
エジェクターの設計計算は複雑であり、実験的・経験的な決定方法(線図による選定など)が主流です。エジェクター設計の基礎となる代表的な技術文献としては、以下のものが広く知られています。
エジェクターの設計計算は複雑であり、実験的・経験的な決定方法が主流です。よく参照される設計資料としては以下のものが挙げられます。
よく参照される設計資料
・Perry's Chemical Engineers' Handbook
・真空工学ハンドブック
・真空化学装置ガイドブック(昭和39年)
・熱交換器設計ハンドブック(昭和49年)
・化学工学 第19巻 第9号「各種気体を駆動あるいは吸引する場合のエゼクタの最高性能およびその設計に関する計算法」(高島洋一著・1955年)
より深く設計原理を学びたい場合は、これらの文献(特に理論式の導出が明示されている高島論文)を参照するのが王道です。
ノズル面積・駆動蒸気量の簡易計算式
メーカーから提出されたデータシートの妥当性を確認したり、既存エジェクターの能力を概算したりする際、複雑な理論計算をすべて手計算で行うのは困難です。
実務上の目安として、駆動ノズルの喉部断面積と駆動蒸気量の関係を簡易的にと確認したい場合には、真空化学装置ガイドブック等でも紹介されている以下のノズルの簡易式を用いるのが便利です。
【ノズルの簡易計算式】
$$G = 0.75 × A × \sqrt{\frac{P_1}{V_1}}$$
G : 駆動蒸気量 [kg/h]
A : ノズル喉部断面積 [mm²]
P1 : 駆動蒸気圧力 [kg/cm² abs.]
V1 : 駆動蒸気比容積 [m³/kg]
この式を用いれば、メーカーから提示されたノズル径(喉部面積)に対して、設計上の駆動蒸気量が妥当なスケール感に収まっているかを、手元の蒸気表と関数電卓だけで素早くチェックすることができます。
メーカーから詳細な内部形状が非開示の場合であっても、開放点検時などにノズル径を実測してデータを蓄積しておくことで、将来的な性能推測やトラブル対応に大きく役立ちます。
復水器用エジェクター(Hogging / Service)の役割

復水式蒸気タービンを稼働させるプラントでは、タービン効率を高めるために復水器(タービンコンデンサ)の内部を大気圧以下の真空状態で運転する必要があります。この真空の確立と維持に不可欠なのがエジェクターです。
復水器用エジェクターは、タービンの運用フェーズに合わせて「起動用(Hogging Ejector)」と「定常運転用(Service Ejector)」の2つの役割に分けて設計・運用されます。
Hogging Ejector と Service Ejector の役割
| 項目 | Hogging Ejector(起動エジェクター) | Service Ejector(定常エジェクター) |
| 役割 | タービン起動前に、系内の初期空気を急速排気して真空を立ち上げる。 | 運転中に漏れ込む空気や給水中の溶存空気を排気し、真空度を維持する。 |
| 段数 | 1段式 | 多段式(主に2段式) |
| 使用時期 | 起動時の立ち上げ時のみ(短時間) | プラント定常運転中(連続) |
| 除去対象 | 保有空気(大気) | 漏れ込み空気、給水からの溶存空気 |
| 付帯設備 | ドレン回収なし。排気騒音が大きいためサイレンサを介して大気へ放出する。 | 各段の間に中間コンデンサを設け、後段負荷を減らすとともに駆動蒸気を復水として回収する。 |
Hogging Ejector(起動用)の必要能力とHEI規格
復水器用エジェクターの能力規定として、国際的に広く参照されているのが米国熱交換器工業会が発行するHEI規格(Standards for Surface Condensers)です。
Hogging Ejectorの能力は、一般的に「排気容積」と「到達目標までの排気時間」で規定されます。
排気すべき容積はタービン軸シール部や復水器の内容積に依存しますが、HEI規格では特段の指定がない場合、以下の想定条件をベースに復水量から排気すべき空気量を決定するよう推奨しています。
HEI規格の想定条件例
・復水流量 1,000 lb/h あたり、内容積を 26 ft³ (cu ft) と想定。
・大気圧から 10 inch HgA(約 254 mmHg / 0.34 barA)までの排気時間を 30分 とする。
プラント設計においては、この基準をもとに要求容積と時間を算出し、メーカーの仕様と照らし合わせて能力が十分かを確認します。
Service Ejector(定常用)の必要能力とHEI規格
コンデンサ内で定常的に排気されるガスは蒸気が飽和した状態であるため、不凝縮性ガス(空気など)を排気しようとすると、必ず蒸気も一緒に吸い込んでしまいます(同伴蒸気)。
この同伴蒸気は、蒸気飽和圧が全圧に比べて十分小さい場合、以下の式で求めることができます。
【同伴蒸気量の基本式】
$$W_s = W_a × \frac{18}{29} × \frac{P_s}{P_t - P_s} $$
Ws : 同伴蒸気量
Wa : 不凝縮性ガス量
18/29 : 蒸気と空気の分子量比
Ps : 飽和蒸気圧
Pt : 排気(全)圧力
初段能力決定の難しさとHEI規格の適用
上記の式はService Ejectorの2段目の能力決定には適用できますが、1段目(復水器直結)には適用できません。
なぜなら、1段目吸入部は不凝縮性ガス量に対して蒸気量が圧倒的に多く、いくらエジェクターの排気能力を大きくしても、蒸気が際限なく蒸発して吸い込まれるだけで、一向に飽和蒸気圧まで到達しないからです。
そのためHEI規格では、純粋なガス量計算ではなく、コンデンサが処理する総蒸気量とタービンの排気開口数に応じて、エジェクターが吸引すべき混合ガス量(乾燥空気量+蒸気量)の最小値を決定するアプローチを推奨しています。
HEI規格における算出のステップ
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復水器に入る主タービン・補助タービンすべての合計蒸気量を決定する。
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主タービンの排気開口数を数える(補助タービンは含めない)。
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合計蒸気量を開口数で割り、開口部1か所あたりの「有効蒸気量」を求める。
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主・補助タービンの排気口数量の合計を「全体排気開口数」とする。
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上記3と4の値を用い、HEI規格のTable から排気すべき混合ガスの最小値を決定する。
※HEI規格が規定する能力では、「不凝縮性ガスに対する同伴蒸気量の比」は約2.2で一定とみなされており、これは基本式から逆算すると全圧/飽和蒸気圧(Pt/Ps)が約1.28になる条件に相当します。実際のプラント設計では、この比率を下回る厳しい条件(例えば Pt/Ps = 1.15以下)が要求されるケースもあり、メーカー試験等での慎重な性能確認が求められます。
エジェクターの工場性能試験と試験ガスの選定

エジェクターの工場性能試験は、実績のあるメーカーであれば信頼して省略されることも多いですが、初めて採用するメーカーや、重要度の高い真空条件が求められるプラントの場合には、現地試運転でのトラブルを未然に防ぐため、必ず実施すべきプロセスです。
工場試験を実施する上で最重要なのは「どの試験ガスを用いて性能を評価するか」です。
試験ガスの選定方法
試験ガスには、主に「乾燥空気」「蒸気」「飽和湿り空気」の3つの方法があります。
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乾燥空気試験:最も一般的です。実吸引ガスが空気以外の場合には、温度補正や分子量補正を加えて評価します。
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蒸気試験:実吸引が蒸気の場合に用いますが、中間コンデンサ付きの多段エジェクターでは凝縮が過剰に起こり、試験負荷が設計条件と乖離するため不適切です。
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飽和湿り空気試験:コンデンサ付きエジェクターの性能評価に最も合理的です。吸引空気を水中でバブリングさせて飽和湿り空気を作ることで、実際の運転条件における空気と蒸気の比率をそのまま再現できます。
試験方法
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HEI規格方式:ガスの種類を限定せず、空気を用いた場合の温度・分子量補正法を規定しています。
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JIS規格方式:バブリングによる飽和湿り空気を用いる方法を規定しています。蒸気混合比を設計条件と完全に同一にして試験できるため、空気単独試験のような負荷の極端な偏り(過小・過大)がなく、誤差要因も少ないというメリットがあります。
工場試験の留意事項
工場試験においては、メーカー独自の計算基準と国際的なHEI規格との乖離が、現地での性能不足を招くリスク要因となります。
【事例:独自の性能評価基準によるリスク】 メーカーが独自の試験基準を適用していた際のトラブル
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メーカー側の基準:1段目と2段目の流量率を単純に相殺するような独自基準を用いており、HEI規格が要求する換算流量を十分にカバーできていませんでした。
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結果:メーカー独自の試験基準には合格したものの、HEI規格に基づくと性能不足であることが判明しました。その後、現地試運転で真空度不足の兆候が確認され、エジェクターノズルをHEI規格を満たす性能のものへ交換することでようやく設計点に到達しました。
この経験から得られる、実務上の教訓は以下の通りです。
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試験基準の透明性確保:メーカー独自基準を適用する場合は、その計算根拠(理論的妥当性)を必ず事前に確認すること。
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国際規格の遵守:特別な理由がない限り、HEI規格に基づいた換算空気量を基準とするのが最も安全です。
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検査における検証:工場試験で「合格」と出た場合でも、それがどのような換算式に基づいているかを検証しないと、現地で実運転に入った際に「真空不足(真空立ち上がり不良)」という致命的な問題に直面するリスクがあります。
工場試験は、単に「合格・不合格」を判定する場ではなく、設計上の理論値と実機の挙動が一致しているかを確認する貴重な機会です。
選定したメーカーがどのような試験方針をとるのか、初期段階から図書審査等を通じて厳しくチェックすることが、プラントの安定稼働を左右する鍵となります。
まとめ
エジェクターは可動部がなく信頼性の高い機器ですが、背圧特性やシステム設計の原理を正しく理解していないと、現地でのダウン現象などのトラブルを招きます。
メーカーに設計を任せきりにするのではなく、適用規格(HEI・JIS)や試験方法の妥当性をエンジニア自身が確認することが、プラントの安定稼働に不可欠です。
