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タンク、ベッセルの排水時間の計算方法の解説

今回の記事ではタンク、ベッセルの排水時間の計算方法について解説します。

プラントの定期修理(定修)などでシャットダウン操作を行う時は、タンク、ベッセル内の液抜きをする必要があります。また、プラント建設やプレコミッショニングで行う耐圧試験を水圧で行う場合は、試験終了後に水抜きをしなければなりません。

これらの操作での液抜き、水抜きではドレン弁を開けますが、タンクやベッセルの容量が大きいと液抜き、水抜き時間が想定外に長くなることもあり、シャットダウン工程、建設工事工程に影響を与える場合があります。

そんなとき、液抜き、水抜きに要する時間が事前に分かっていると、その後の工程を計画するのに便利です。

今回、ドレン弁の口径をオリフィスとみなしてタンク、ベッセルから液抜きをして空になるまでの時間を計算する方法について解説します。

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計算モデル

上図のように円筒形のタンクを考え、液面からh[m]下部にある穴から流速v[m/s]で液が流出しているとします。

微小時間dt[s]後、液面の高さはdh[m]減少しますので、以下の式が成り立ちます。

$$-dh・A=v・A'・dt$$

オリフィスの流量係数を考慮したトリチェリの定理より、

$$v=C_d\sqrt{2gh}$$

となるので、以下のように表せられます。

$$-dh・A=C_d\sqrt{2gh}・A'・dt$$

h:液面から孔までの距離 [m]
dh:微小時間dtで下がった液面 [m]
A:タンク液面の面積 [m2]
A':孔の面積 [m2]
dt:微小時間 [s]
Cd:流量係数
g:重力加速度 (g=9.81 [m/s2])

流量係数Cdはオリフィス形状によって異なる数字となりますが、概ねCd=0.61~1.0の値をとります。詳細についてこちらの記事で解説しています。

 

t=0でh=h1、t=tでh=h2を境界条件と上式を積分すると以下の通りになります。

※数式表示が途切れている場合はスライドすると表示されます。

$$t=-\int_{h_1}^{h_2}\frac{A}{C_dA'\sqrt{2gh}}$$

整理して、

$$t=-\frac{2A}{C_dA'\sqrt{2g}}{\big[h^{1/2}\big]}_{h_1}^{h_2}=\frac{2A}{C_dA'\sqrt{2g}}(\sqrt{h_1}-\sqrt{h_2})$$

タンクを空にする場合はh2=0なので、液抜き前の液面高さをh、タンク内径をD[m]とすると、液抜きに要する時間tは以下の通りになります。

<縦型円筒形タンクの液抜き時間>

$$t=\frac{2A}{C_dA'\sqrt{2g}}\sqrt{h}=\frac{πD^2\sqrt{h}}{2\sqrt{2g}C_dA'}$$

t:液抜きに要する時間[s]
h:液面の高さ
A:タンク液面の面積 [m2]
A':孔の面積 [m2]
Cd:流量係数
g:重力加速度 (g=9.81 [m/s2])
D:タンク内径[m]

これで円筒形のタンク、ベッセルの液抜きに要する時間を計算することができるようになりました。

他の形状については次項で解説していきます。

様々な形状のタンク、ベッセルの液抜き時間

横型円筒形タンク

横型円筒形タンクの液抜きに要する時間は以下の式で表せられます。

<横型円筒形タンクの液抜き時間>

$$t=\frac{2\sqrt{2}L(D^{1.5}-[D-h]^{1.5})}{3C_dA'\sqrt{g}}$$

t:液抜きに要する時間[s]
h:液面の高さ
D:タンク内径[m]
L:タンク長さ[m]
A':孔の面積 [m2]
Cd:流量係数
g:重力加速度 (g=9.81 [m/s2])

球形タンク

球形タンクの液抜きに要する時間は以下の式で表せられます。

<球形タンクの液抜き時間>

$$t=\frac{\sqrt{2}πh^{1.5}(D-0.6h)}{3C_dA'\sqrt{g}}$$

t:液抜きに要する時間[s]
h:液面の高さ
D:タンク内径[m]
A':孔の面積 [m2]
Cd:流量係数
g:重力加速度 (g=9.81 [m/s2])

下部コーン型タンク

下部コーン型タンクの液抜きに要する時間は以下の式で表せられます。

<下部コーン型タンクの液抜き時間>

$$t=\frac{\sqrt{2}π(\tan{θ})^2Dh^{2.5}}{5C_dA'\sqrt{g}}$$

t:液抜きに要する時間[s]
h:液面の高さ
D:タンク内径[m]
θ:コーンをなす角[rad]
A':孔の面積 [m2]
Cd:流量係数
g:重力加速度 (g=9.81 [m/s2])

計算例

内径2mの球形タンクに1.6mの高さまで水が入っている場合、このタンクのドレン弁を開けて水抜きを行い、タンクが空になるまでの時間を計算します。

なおドレン弁の口径は2インチ(=50mm)とし、短管のフラット型オリフィスとみなします。

<球形タンクの液抜き時間>

$$t=\frac{\sqrt{2}πh^{1.5}(D-0.6h)}{3C_dA'\sqrt{g}}$$

Cd=0.8、A'=π/4×(0.05)^2=0.00196[m2]、D=2[m]、h=1.6を上式に代入すると、以下の通りになります。

$$t=\frac{\sqrt{2}π・1.6^{1.5}(2-0.6・1.6)}{3・0.8・0.00196\sqrt{9.81}}=1164$$

したがって、この条件の場合、液抜きに必要な時間は1164秒(=20分弱)ということになります。

まとめ

今回の記事ではタンク、ベッセルを空にするまでの時間の計算方法について解説しました。

プラントの定期修理(定修)などでシャットダウン操作を行う場合や、耐圧試験を水圧で行う場合は、液抜き・水抜き操作が必要となります。

液抜き、水抜きではドレン弁を開けますが、タンクやベッセルの容量が大きいと液抜き、水抜き時間が想定外に長くなることもあり、シャットダウン工程、建設工事工程に影響を与える場合があります。

そんなとき、液抜き、水抜きに要する時間が事前に分かっていると、その後の工程を計画するのに便利です。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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