前回の記事ではクリーンエネルギーとしての水素に着目し、実用化技術のキーポイントについて解説しました。
今回の記事ではクリーンエネルギーとしてのアンモニアに着目し、解説したいと思います。
アンモニアは化学式NH3で表記され、燃えても窒素と水になるだけで、二酸化炭素を排出しません。
アンモニアの燃焼反応式
2NH3 + 3/2O2 → N2 + 3H2O
そのため、アンモニアを燃料として発電する研究(アンモニアガスタービンの開発)が進められています。
特に2021年1月以降、クリーンエネルギーの気運が高まっていますので、水素同様に、脱炭素を目標としたクリーンエネルギーの候補に挙げられるようなりました。
アンモニアは水素と違って容易に液化(常温でも10気圧程で液化)するため、貯蔵・輸送が水素よりも容易であることにメリットがあります。
また、アンモニアについても、ブルーアンモニア、グリーンアンモニアなどの言葉がよく聞こえるになっています。
アンモニアも水素同様に無色透明ですから、色がついている訳ではありません。
これらのアンモニアは何が違うのか、実用化技術のキーポイントについて解説したいと思います。
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アンモニアの種類について
種類の違いが叫ばれているのは、製造法と製造時に発生する二酸化炭素(CO2)の排出有無の違いによるものです。
アンモニアの種類
① グレーアンモニア
② ブルーアンモニア
③ グリーンアンモニア
アンモニアは水素と窒素を反応させて製造されるため、アンモニアの色はその前工程の水素の色で決まります。
アンモニアの合成反応式
3H2 + N2 → 2NH3
つまり、水素を製造した時点のCO2排出有無でアンモニアの色が決まります。
次項から一つ一つ解説していきます。
グレーアンモニア
化石燃料(特に天然ガス)から製造される水素(グレー水素)の由来アンモニア
をグレーアンモニアと呼びます。
世界で製造されているアンモニアはほとんど天然ガス由来と言っても良いでしょう。
水素を製造するプロセスの詳細についてはグレー水素の項を参照ください。
簡単なブロックフロー図で表記すると以下の通りになります。
水素製造まではグレー水素とほぼ同じプロセスであることが分かると思います。
アンモニア合成においては、化学の教科書にも載っているハーバー・ボッシュ法を用い、高温・高圧(数百℃、100気圧以上)の条件で合成されます。
世界で主流となっているアンモニアの製造プロセスは概ねこのプロセスになりますが、実際にはCO2は系外に排出しているのではなく、回収され、次工程再利用されます。(後述)
ブルーアンモニア
同様、CO2を系外に排出しないアンモニアをブルーアンモニアを呼びます。
ブルーアンモニアはサウジアラムコと日本エネルギー経済研究所(IEEJ)主導で、IHIなどの日系企業協力の下、実証事件が進められております。
CO2フリーのアンモニアがサウジアラビアで製造され、それを日本に運び、アンモニアガスタービンで発電する実証段階まで来ています。
実用化のキーポイントは、ブルー水素同様、CO2をどうやって回収するか、という所だと思います。CO2回収についてはブルー水素の項で解説しておりますので、そちらを参照ください。
簡単なブロックフロー図を以下に記載します。
やはり、採算性や貯留する場所の選定が実用化の課題になってくると思います。
なお、サウジアラムコでは、回収、圧縮したCO2を原油層に圧入し、この圧力をもって原油の採取率を上げる原油増進回収法(EOR)を想定しているようです。
CO2回収、圧縮に投じたエネルギーをうまく再利用できるので、採算性は確実に良くなると思います。
この一連の実証実験が成功すれば、ブルーアンモニアの実用化は近いかもしれません。
もう一つのブルーアンモニア?
上記で解説したブルーアンモニアですが、サウジアラムコは回収したCO2をメタノール合成の原料として使うことも想定しています。
実は、メタノールはCO2と水素から合成することが可能です。
メタノール合成反応式
CO2 +3H2 → CH3OH+H2O
ブロックフロー図で示すと以下の通りになります。
このブロックフロー図をよく見ると、せっかくH2から分離したCO2を再び混合してメタノールを合成しています。
一般的に、混合物を分離するのは、かなりのエネルギーを投入する必要があるので、プロセス全体として見ると、エネルギー効率は悪化するはずです。
そもそも、メタノール製造プロセスの主流は、天然ガスを改質した合成ガスをそのまま合成工程に供給し、メタノールを合成することです。(ブロックフロー図は以下の通り)
サウジアラムコのプロセスは、省エネの観点ではあまり意味が無いですが、技術力をアピールする狙いがあるかもしれません。
実はブルーアンモニアは実用化している?
グレーアンモニアの項で少し触れましたが、天然ガス由来で製造されているアンモニアの製造目的は、尿素(肥料)の原料することです。
尿素の合成反応式
2NH3 + CO2 → NH2CONH2 + H2O
尿素肥料は地球上の70億以上の人口を支えるためにも必須の存在で、その製造プロセスは空気中の窒素を肥料として固定化に成功した人類の大発明の一つです。
尿素の製造プラントはアンモニア製造プラントに併設され、以下のようなブロックフロー図となります。
尿素生成の化学反応式、ブロックフロー図を見ると分かる通り、合成ガスからCO2を回収して再利用していることが分かると思います。
地中に埋めるか、アンモニアと共に合成原料と使われているか、の違いはありますが、本来排出されるCO2を系外に排出していない点では、ブルーアンモニアと同じです。
そのため、「アンモニア製造過程におけるCO2排出有無」の観点だけで評価すると、現在主流となっているアンモニアはほとんどブルーアンモニアと呼んでもよいかもしれませんね。
グリーンアンモニア
水素同様、再生エネルギーのみを用いて、水を電気分解されて製造された水素由来のアンモニアをグリーンアンモニアと呼びます。
エネルギー源を再生エネルギー(太陽光、風力、地熱など)に限定しているので、人類が目指す水素製造の究極目標はグリーン水素になるようです。
水素は水の電気分解により生成されるので、原理上、全くCO2は排出されません。詳細はグリーン水素の項を参照ください。
ブロックフロー図は以下の通りです。
技術的なキーポイントとしては、アンモニア合成工程をいかに低温、低圧で行うか、と考えます。
グレーアンモニアの項でも触れた通り、アンモニア合成工程で実用化されているのはハーバー・ボッシュ法で、高温・高圧(数百℃、100気圧以上)の条件になります。
そのため、再生可能エネルギーのみで、高温、高圧の条件にするのはかなり厳しく、この工程を温和な条件にすることが求められます。
実際、温和な条件でも反応するような触媒の開発が進行しており、新規開発された触媒を用いて、温和な条件でアンモニアを合成する実証試験が進められています。
また、グリーンアンモニアの地産地消を目指している大学発ベンチャー企業も登場しており、産学官連携で、グリーンアンモニアの実用化に向けた開発で進められています。
まとめ
今回の記事では、以下の3種類のアンモニアについて技術的なキーポイントと合わせて解説しました。
アンモニアの種類
① グレーアンモニア
② ブルーアンモニア
③ グリーンアンモニア
また、今回の記事でも、アンモニアの安全面や法規制の課題には触れませんでしたが、アンモニアは人体に有害で、高圧ガス保安法では毒性ガスなので、取扱いは十分注意するのは当然のこととして、装置、機器の設計でも制約を受けます。
水素同様に実用化へのハードルはありますが、近いうちにクリアし、実用化されることを切に願っています。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。