今回の記事では気液二相流の流動状態(フローパターン)とその判定方法について解説します。
プラントの配管設計では、できるだけ単相(気相のみ、あるいは液相のみ)となるように設計しなければなりませんが、制御弁・調節弁などの圧損がある配管部品の下流側ではフラッシュして気相が発生し、気液二相流になってしまうことがあります。
二相流の配管では、以下の示すような特徴から、単相流配管と比べて配管設計が難しくなるため、二相流が避けられない場合はその影響を最小にするように挙動を正しく把握して、配管サポートを強化したり、配管材質を変更する、といった対応が必要になります。また、二相流配管の長さはできるだけ短くするように設計することも必要です。
気液二相流の特徴
・ 同一の質量流量の単相流と比べて圧力損失が大きくなる
・ 流動が不安定になり、振動・騒音・浸食のリスクがある
・ 流れに沿って刻々と気液の割合が変わるので、密度などの物性の誤差が大きくなる
そこで、今回の記事では水平配管の気液二相流の流動状態とその判定方法について解説します。
二相流配管の圧力損失の計算方法はこちらの記事で解説しています。合わせてご確認ください。
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気液二相流の流動状態
出典:化学工学便覧 第6版
化学工学便覧では上図のように、配管中の見かけの液速度と見かけの気体速度から定まる流動状態図が記載されています。これらの流速は流体の物性に応じた係数をかけて補正された流速であるため、プラント設計の実業務ではやや扱いづらく、実際には以下のBaker Mapが使用されることが多いです。
Baker Map
<Bakerパラメータ>
$$B_X=210(W_L/W_V)(\sqrt{ρ_L・ρ_V}/{ρ_L}^{2/3})(μ_L^{1/3}/σ_L)$$
$$B_Y=7.09W_V/((πD^2/4)\sqrt{ρ_L・ρ_V})$$
WL:液の質量流量 [kg/h]
WV:気体の質量流量 [kg/h]
ρL:液密度 [kg/m3]
ρV:気体密度 [kg/m3]
μL:液粘度 [cP]
σL:液表面張力 [dyne/cm]
D:配管内径 [m]
Baker MapではBakerパラメータ(横軸:BX、縦軸:BY)から比較的簡便に流動状態を推定することが可能です。
上図のように、BXは液体、気体各相の質量流量比や物性に依存しており、配管サイズによって変化しないことが分かります。一方、BYは気体の質量流量、各相の密度の他、配管サイズよって変化することが分かります。
各流動状態
各流動状態を大きく分類すると次の通りになります。
流動状態の分類
・ 分離流
・ 分散流
・ 間欠流
分離流は気体と液体が分離して流れる流動状態で、二層流(Stratified Flow)、波状流(Wavy Flow)、環状流(Annular Flow)が該当します。二層流、波状流は不安定な流動状態で振動、騒音のリスクが高いため、基本的に二層流や波状流を避ける方が望ましいとされています。
分散流は気体と液体が同一の流速で流れる流動状態で、気泡流(Bubble or Froth Flow)、噴霧流(Dispersed Flow)が該当します。
間欠流は交互に気液流れが起きる流動状態で、塊状流(Slug Flow)、栓流(Plug)が該当し、分離流同様、間欠流を避けるように配管設計を行う必要があります。
二層流(Stratified Flow)
液体は配管の下側、気体は上側を別々に流動して波立たないような流動状態です。上図のBaker mapの通り、BYが小さいと広い領域で二層流(Stratified Flow)となります。
ただし、この流れは十分長い水平配管で起こる流動状態なので、短い配管では環状流としてみなされることもあります。
波状流(Wavy Flow)
二層流同様に、液体は配管の下側、気体は上側を別々に流動しますが、気体流量が増えたことで海面が波立っている流動状態です。
上述の通り、二層流、波状流は望ましくないですが、概して、BYが小さいと(特にBY<80000)、広いBXにて二層流、波状流になってしまいます。気液二相流だからといって、配管サイズを大きくしてしまうと気体の流速が下がってBYが小さくなり、二層流、波状流になってしまい、かえって流動状態を不安定化させてしまうため要注意です。
環状流(Annular Flow)
BY(気体流速)が大きくなり、液体が管壁に沿って層状に流れ、配管中心部うを気体が高速で流れる流動状態です。分離流の一種ですが、上記の流動状態と比べると安定しているため、気液二相流ではなるべくこの流動状態となるように配管設計を行います。
気泡流(Bubble or Froth Flow)
気体が気泡状となって、気体と液体が同じ流速で流れる流動状態です。
噴霧流(Dispersed Flow)
上述の気泡流よりも気体の流量が大きくなった場合の流動状態です。蒸留塔のコンデンサー入口やリボイラ出口ではこのような流動状態になっていることが多いです。
塊状流(Slug Flow)
脈状流とも呼ばれ、液が大きなスラグ(塊)となり、液が滞留したり不安定で流速で移動するような流動状態です。これにより周期的な圧力変動が発生し、これにより振動、騒音が発生するため、避けるべき流動状態とされています。
蒸留塔のコンデンサー出口で液ポケットがあれば、そこで液のスラグが発生し、塊状流となり、蒸留塔の圧力変動を起こす要因となるため、蒸留塔のコンデンサー側の配管レイアウトでは液ポケットつくらないようにうしなければなりません。どうしても液ポケットが避けられない場合は配管サポートの補強が必要となります。
一般に塊状流を避けるためには、①配管サイズを下げる(圧力損失が大きくなることに注意)②小口径の配管を並列にする、といった対応がなされます。
栓流(Plug Flow)
液体と気体が交互に進む流動状態です。塊状流同様、この流動状態も望ましくありません。
計算例
WL=20,000 kg/h
ρL=900 kg/m3
μL=0.1 cP
σL=30 dyne/cm
WV=2,000 kg/h
ρV=5 kg/m3
μV=0.01 cP
D=0.1023m
上記の条件における流動状態をBaker mapから計算します。それぞれBX,BYに代入して
$$B_X=210×(20000/2000)×(\sqrt{900×5}/{900}^{2/3})(0.1^{1/3}/30)=23.4$$
$$B_Y=7.09×2000/((3.14×0.1023^2/4)\sqrt{900×5})=25718$$
Baker mapにプロットすると上図の赤丸のようになるため、この流動状態は環状流(Annular Flow)であることが分かります。