プラントエンジニアリング プロセスエンジニアリング 技術情報 蒸留塔

【蒸留塔】蒸留塔の運転開始、停止手順について解説

今回の記事では蒸留塔の運転開始、停止手順について解説します。蒸留塔は原料、製品の流量から塔内温度・圧力や還流比まで多くのパラメータがあるため、他の機器と比べて運転手順は複雑なものとなっています。また、蒸留塔は化学プロセスにおける最終工程で使用されることも多いので、塔内の不純物は許容されず、しっかり洗浄、パージすることも求められます。

蒸留塔の通常運転における留意事項についてはこちらの記事も合わせて参照ください。

蒸留塔の運転開始手順

蒸留塔の制御方式にもよりますが、一般的な運転開始手順は以下の通りです。

蒸留塔の運転開始手順

1. パージ
2. 塔内圧力の調整
3. 冷却水、冷媒の通水
4. 水運転
5. 実液(原料)の張り込み
6. 塔頂、塔底製品の抜き出し
7. 運転調整

パージ

蒸留塔内に水が入っても問題がない場合は実液の前に水で模擬運転を行い、運転調整を行います。そのため、水運転を行う場合は蒸気による塔内パージを行います。ただし、水の混入が許容されない場合は窒素などの不活性ガスでパージを行います。

パージを行う主な目的な塔内の空気(特に酸素)を追い出すことです。酸素が存在すると塔内で酸化物を形成してしまい品質が悪くなったり、爆発雰囲気の形成による爆発災害のリスクが高まります。目標酸素濃度は蒸留する流体によって異なりますが一般定期には2%以下とされています。

蒸気パージを行う場合はパージ操作実施後、温度が下がると圧力も下がり、負圧になることがあるので要注意です。

塔内圧力の調整

塔内の圧力は運転値に調整します。

冷却水、冷媒の通水

蒸留塔の塔頂のコンデンサー(凝縮器)に冷却水または冷媒を通水します。

水運転

塔内に水を張り込んで、リボイラに蒸気などの加熱流体を供給して、塔を加熱し、水による蒸留模擬運転を行います。この模擬運転実施時に計器の調整やポンプの動作確認を行います。

水の混入が許容されない場合は、水運転工程を飛ばして実液運転を行うか、実液に近い組成の流体を用いて模擬運転を行うこともあります。

水運転実施後は塔内の水切りを確実に行う必要があります。仮に水が残っているところに実液を供給、運転してしまうと品質の悪化だけでなく残留水分の突沸による塔内部品(トレイや充填物)の破損につながります。

実液(原料)の張り込み

実液(原料)を塔内に張り込む際は、最初は少しずつ(設計値の1/4~1/2程度)張り込みます。

塔内に液面ができ、液面計で指示されることを確認したらリボイラに蒸気などの加熱流体を供給して、塔を加熱します。リボイラの加熱も、最初は少しずつ行います。

塔内の温度が上昇し、実液を蒸発が始まると、塔頂のコンデンサーに液が溜まり始め、リフラックスドラムの液面計で指示されるようになります。それが確認され、規定量まで液が溜まったら、リフラックスポンプを起動し、還流ラインから塔内に戻し、還流をかけます。このとき、蒸留塔は全還流(トータルリフラックス)の状態になります。

全還流運転時は原料の供給は停止しておきます。

塔頂、塔底製品の抜き出し

リボイラの加熱量、還流量を増やしていき、塔内に温度分布ができ、塔頂製品、塔底製品の組成が規格値に合うことが確認できたら、塔頂、塔底製品を抜き出しを開始し、原料供給も再開することで連続運転が開始されます。

ただし、プラント運転の制約上、原料供給が停止できない場合や、重合・分解しやすく塔底で長期間加熱し続けることができない場合は、原料供給を継続し、最初から(製品組成が規格外であっても)塔頂、塔底製品の抜き出しを始める場合もあります。このとき、規格外の製品を貯蔵しておくタンク(オフスペックタンク)の設置が必要です。
※オフスペックタンク流体の取り扱いはあらかじめ取り決めておく必要があります。(ローリーなどで規格外品として払い出す、塔の原料供給側に戻す、など)

運転調整

リボイラを加熱しても塔内温度が上がらない場合があります。このような場合は、リボイラに窒素などの非凝縮性ガスが溜まってしまい、伝熱が十分に行われていない場合があります。この場合はリボイラのベント弁を開けてパージを行う必要があります。

還流比は、塔内温度見合いで流量を調整する場合は自動で調整されますが、塔頂、塔底製品を組成を確認しながら必要最小限の還流比とすることが望ましいです。還流比を上げることで製品の品質が良くなりますが、その分塔内の炊き上げ量も増えてしまい、リボイラの加熱量増加により運転費(OPEX)の悪化につながります。

蒸留塔運転時の留意事項についてはこちらの記事を参照ください。

蒸留塔の運転停止手順

蒸留塔の一般的な運転停止手順(シャットダウン方法)は以下の通りです。

蒸留塔の運転停止手順

1. 原料、還流量、及び加熱流体流量の低減
2. 抜き出し用のタンクに切り替え
3. 熱源、還流の停止
4. 塔内液の抜き出し
5. 塔内パージ、縁切り
6. 塔の洗浄

原料、還流量、及び加熱流体流量の低減

原料、還流量、及び加熱流体を少しずつ減らしていき、できるだけ塔頂、塔底製品の規格が規定値から外れないようにします。

抜き出し用のタンクに切り替え

各製品の組成が規格値から外れる前に、原料の供給を停止し、製品の行先を抜き出し用のタンク(ブローダウンタンク、ドラム)に切り替えます。上述のオフスペックタンクがある場合はそちらに送っても良いです。

熱源、還流の停止

リボイラの熱源、還流を完全に停止します。

塔内液の抜き出し

塔の運転停止後、塔内のメンテナンス、点検で内部解放する場合は、塔やリフラックスドラム内の液を完全に抜きます。実液が水溶液の場合は水を張り込んで、蒸留していた液が完全に除去されるまで水運転を実施することもあります。

一方、塔の運転停止が一時的で、内部解放の予定もなく、すぐに運転再開が行われる場合は塔やドラム内の液はそのままにしておきます。

塔内パージ、縁切り

コンデンサーの冷却水の通水も停止し、塔内の液が空になったことを確認したら塔内圧力を脱圧します。脱圧後は蒸気あるいは窒素などの不活性ガスで塔内パージを行います。

塔のメンテナンスのため、マンホールやハンドホールを開けた際は、塔内に空気が入るため、万一塔内に硫化鉄や重合物が残存していると発火や爆発のリスクがあります。また、塔内の不活性ガスが充満していることから窒息のリスクも大きいです。いずれにせよ塔内に入る際は安全対策を万全にする必要があります。

また、塔の前後の配管でのバルブは必ず閉とし、仕切り板(ブラントスペーサーやスペクタブルブラインドなど)を挿入することで、他の機器との縁切りは確実に行います。

塔の洗浄

水や蒸気などで塔の洗浄を行います。塔内に長い間水を残しておくとトラブルの原因となるので、洗浄後はできるだけ早く水抜きを行います。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

-プラントエンジニアリング, プロセスエンジニアリング, 技術情報, 蒸留塔

© 2024 プラントエンジニアのおどりば Powered by AFFINGER5