今回の記事では禁油・禁水処理の目的と処理内容について解説します。
プラントで使用される、配管、バルブ、計器には、しばしば禁油処理、禁水処理(禁油禁水処理)が要求されることがあります。
禁油・禁水処理には様々な要求グレードがあり、設置するプラントが取り扱う流体や設置目的に応じて、最適な処理グレードが選択されます。一般に、禁油・禁水処理の要否や要求グレードは、プロセスエンジニアが決定することが多いですが、配管エンジニアや計装エンジニアも要求内容を知っておく必要があります。
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禁油処理の目的
通常、配管やバルブ、ねじなどの接手類の内外面には、機械油、防錆油、グリスなどが使用されています。これらの油脂類は切削加工や組み立てを行うために使用されますが、禁油処理要求をしない限り、油脂類が残留した状態でプラント建設の現地に納入されます。(特に海外メーカー)
もちろん、現地施工時は、プレコミッショニングで配管洗浄は行いますが、完全に除去することは難しいです。
一方、プラントで取り扱う流体によっては、油脂類が混入することで製品の品質悪化の他、運転のトラブルの要因となったり、プロセス流体と油脂類が反応して発火、事故災害を招く恐れがあります。禁油処理はこれらのトラブル、事故を防ぐために実施されます。
以下に禁油処理が必要な流体の一例をあげます。
禁油処理が必要な流体
① 酸素を代表とする支燃性ガス
② 極低温流体
③ 純水
④ 食品類
⑤ 真空系
⑥ 水素ガス
①酸素を代表とする支燃性ガス
流体が酸素のような支燃性ガスの場合、急激な圧力変動により流体の温度が上昇し、その影響で系内に残留している油脂が発火するリスクがあります。
②極低温流体
極低温流体の場合、残留している油脂が凍結することで配管の閉塞、バルブの漏れのリスクがあります。
③純水
純水の場合、そもそも不純物の存在が許容されないので、油脂類の確実な除去が必要です。
④食品類
純水同様、食品類についても油脂のような不純物の混入は許容されないので、除去が必要です。
⑤真空系
真空系の場合、油脂類が残留している状態で真空にしようとすると、油脂類が蒸発して真空度が上がらないリスクがあります。
⑥水素ガス
高圧の圧縮水素ガスの場合、大気に放出されると容易に発火するため、系内の可燃物は可能な限り除去が望ましいという観点から、禁油処理要求ながなされます。また、半導体用途のような高純度水素(99.999%以上)についても、不純物を除去する目的で同様の処理がなされます。
禁水処理の目的
禁水処理も、禁油処理同様の考え方で、系内に水分が残留していると、トラブル、事故災害のリスクがある場合に適用されます。
例えば、極低温流体の系では、水分が存在していると凍結による閉塞、バルブ漏れのリスクがあります。また、水と接触すると激しく反応、発火してしまうような流体を取り扱うプラントでも禁水処理は必須となります。
なお、禁油処理と禁水処理はセットで要求することが多く、バルブや計装品の仕様書では、要求事項に「禁油・禁水処理」と記載されることもあります。
禁油処理の内容
禁油処理内容には大きく分けて3段階のグレードがあります。
注:配管、バルブメーカーや計装品メーカーによっては、「禁油レベル」、「禁油クラス」のように様々なグレード分けの呼び方がありますので、実際の業務では購入しようとしているメーカーの呼称に従ってください。
グレード1
バルブ、計装品の組み立て完成品のまま、清浄な溶剤で接液部(プロセス流体と接触する場所)の洗浄を行う処理です。
これによって表面の脂分は除去されますが、それ以外の部分の油脂を完全に除去することはできません。そのため、上述したような流体を取り扱うプラントでは、このグレードでは不十分とされることもあります。
また、この処理は洗浄処理とも呼ばれます。
グレード2
バルブ、計装品を部品単体(一部は組立状態)で、溶剤にて洗浄を行う処理です。
洗浄方法の一例として、溶剤にてブラシ洗浄を行うような方法がとられます。
一般に「禁油処理」と呼ばれる処理方法はグレード2以上となります。一般に、真空系ではこのグレードの処理がなされます。
なお、この処理を実施することでバルブ、計装品は高コストなり、グレード2はグレード1の2倍程度のコストとなります。
グレード3
バルブ、計装品を部品単体で、溶剤+超音波洗浄にて洗浄を行う処理です。
処理の判断基準についても、目視だけでなく、布や紙をあてて油分がないことも徹底的に確認するため、グレード2よりも厳しい禁油処理要求です。
上述の流体中では、真空系以外の流体(酸素ガス、極低温流体、純水、食品関係)についてはグレード3の禁油処理が推奨されます。
また、グレード3はグレード2よりもさらに高コストで、グレード1の4倍程度となります。
禁水処理の内容
禁水処理内容には大きく分けて「乾燥処理」と「禁水処理」の2つのグレードに分けられます。
乾燥処理
バルブ、計装品の組立完成品を乾燥空気にてブローすることで乾燥、水分の除去を行います。
乾燥処理は、上述の禁油処理グレードのグレード1(洗浄処理)と組み合わせて実施されることが一般的です。
禁水処理
バルブ、計装品を部品単体で乾燥空気または温風にてブローすることで乾燥、水分の除去を行います。
部品単体で乾燥させている分、確実に水分の除去がなされます。
禁水処理については、上述の禁油処理グレードのグレード2または3と組み合わせて実施されることが一般的です。