今回は制御弁(Control Valve)の開度及びCv値から流量を求める方法について解説します。
プラントには様々な場所に制御弁が設置されていますが、全ての配管に流量計が設置されているわけではないので、制御弁の開度だけ分かっていても、流量が分からないことが良くあります。
ネット上では、Cv値と差圧及び比重などの物性を入力すれば、流量が自動に計算されるツールが公開されていますが、中身はブラックボックスになっているので、計算結果の妥当性は確認できません。
さらに、制御弁が直列に設置されている場合や、制御弁の下流側に制限オリフィスが設置されている場合など、途中の圧力が分からない場合は計算のしようが無くなってしまいます。
今回の記事では、「IPC 計装ハンドブック」に記載されているCv値算出式を応用して、上記のような場合でも流量を算出する方法について解説します。
Cvの計算式はプロセス設計担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)では必須の知識となっております。
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まず、流量の算出は次のステップで実施します。
流量算出の手順
ステップ①:バルブ開度[%]とバルブの流量特性からCv[%]を読み取る
ステップ②:制御弁のデータシートからRated Cv値を読み取り、ステップ①のCv[%]を乗じることでCalculated Cv値を求める
ステップ③:Cv値算出式から逆算して流量を計算する。
次項から詳細を解説していきます。
ステップ①:Cv[%]の読み取り
そのバルブが流すことのできる容量を表した数値として、Cv値が使われます。(Cv値が大きいほどバルブ容量が大きく、たくさん流すことができる。)
※Cv値の説明については今回の記事では省略します。
Cv値は必ずバルブのデータシートに記載されていますが、記載されているCv値はそのバルブが最大流すことができる状態、即ちバルブが全開になっているときのCv(Rated Cv値)です。
そのため、全開ではない場合の流量を計算するときは、全開におけるCv値を100%として、その時の割合に応じたCv値(Cv[%])を用いますが、DCS画面に表示されているバルブの開度は制御信号上の開度(Signal %)で、Cv%とは異なります。
Signal%とCv%との関係をグラフに表したものが流量特性で、これは必ずバルブのデータシートに添付されます。
流量特性はいくつか種類があり、リニア、EQ%、クイックオープン、と目的に応じて使い分けられますが、詳細については、今回の記事では省略します。
この例だと、EQ%とよばれるタイプの流量特性です、DCS上のバルブ開度が60%なので、Cv%は40%になります。
ステップ②:Calculated Cv値の計算
続いて、バルブのデータシートを確認します。
Calculated Cv値は
$$ Caluculated Cv=Rated Cv\times{\frac{Cv%}{100}}$$
で計算できます。
仮にデータシート上のCv値(Rated Cv値)が30とすると、Calculated Cv値は12になります。
注意点として、制限オリフィスのデータシートでもRated Cv値が記載されますが、制限オリフィスは常に開度100%のバルブという考え方をしますので、Rated Cv値そのまま使用します。
ステップ③-1:Cv計算式の解説
Cv値の計算式は二相流(Two Phase Flow)を除いて以下の3パターンがあり、IPCの計装ハンドブックでは様々な流体、差圧に応じてCv値の計算式が提案されています。
(1) 液体
(2) 気体
(3) 水蒸気(飽和蒸気、過熱蒸気)
まずは、それぞれのCv値の計算式について解説します。
① 流体が液体の場合
体積流量基準
$$Cv=1.17Q\sqrt{\frac{G_l}{ΔP}}$$
Cv:Cv値
Q:液体の体積流量[m3/h]
Gl:液比重(標準状態の水に対する比重)[-]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
質量流量基準
$$Cv=\frac{1.17W}{\sqrt{ΔPG_l}}$$
Cv:Cv値
Gl:液比重(標準状態の水に対する比重)[-]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
W:質量流量[t/h]
どちらの式でも好みで構いません。
② 流体が気体の場合
気体の場合は、制御弁前後で臨界状態になるかどうかで、Cv値の計算式が異なるので、ご注意ください。
(a) 臨界状態ではない場合(ΔP<0.5P1)
体積流量基準
$$Cv=\frac{V}{273}\sqrt{\frac{G_gT}{ΔP(P_1+P_2)}}$$
$$Cv=\frac{V}{1460}\sqrt{\frac{M_wT}{ΔP(P_1+P_2)}}$$
V:気体の体積流量[Nm3/h]
Gg:気体比重(標準状態の空気に対する比重)[-]
T:弁入口温度[K]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
Mw:分子量[kg/kmol]
上式のどちらでも可
質量流量基準
$$Cv=\frac{48.2W}{\sqrt{ΔP(P_1+P_2)G_{gp}}}$$
Ggp:気体比重(標準状態の気体に対する比重)[-]
T:弁入口温度[K]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
Mw:分子量[kg/kmol]
W:質量流量[t/h]
どの式を用いても良いですが、気体比重はあまり見慣れない物性値のため、管理人は分子量を用いた算出式を使うことが多いです。
(b) 臨界状態の場合(ΔP≧0.5P1)
体積流量基準
$$Cv=\frac{V}{238}\frac{\sqrt{G_gT}}{P_1}$$
$$Cv=\frac{V}{1270}\frac{\sqrt{M_wT}}{P_1}$$
V:気体の体積流量[Nm3/h]
Gg:気体比重(標準状態の空気に対する比重)[-]
T:弁入口温度[K]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
Mw:分子量[kg/kmol]
上式のどちらでも可
質量流量基準
$$Cv=\frac{554W}{P_1\sqrt{G_{gp}}}$$
Ggp:気体比重(標準状態の気体に対する比重)[-]
T:弁入口温度[K]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
Mw:分子量[kg/kmol]
W:質量流量[t/h]
臨界状態の場合、Cv値は弁の入口圧だけで決まり、二次側の圧力は無関係、即ち差圧は関係ないことにご注意ください。
こちらでも管理人は分子量を用いた算出式を使うことが多いです。
③ 流体が水蒸気の場合
水蒸気の場合も臨界状態かどうかでCv値の計算式が異なります。
(a) 臨界状態ではない場合(ΔP<0.5P1)
飽和蒸気の場合
$$Cv=\frac{74W}{\sqrt{ΔP(P_1+P_2)}}$$
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
W:質量流量[t/h]
過熱蒸気の場合
$$Cv=\frac{74(1+0.0013T_{sh})W}{\sqrt{ΔP(P_1+P_2)}}$$
Tsh:蒸気の過熱度[K]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
W:質量流量[t/h]
Cv値計算における飽和蒸気、過熱蒸気の違いは、蒸気の過熱度の項(飽和温度よりも何K高いか)が入っているかそうでないかの違いだけです。
(b) 臨界状態の場合(ΔP≧0.5P1)
飽和蒸気の場合
$$Cv=\frac{85W}{P_1}$$
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
W:質量流量[t/h]
過熱蒸気の場合
$$Cv=\frac{85(1+0.0013T_{sh})W}{P_1}$$
Tsh:蒸気の過熱度[K]
ΔP:弁差圧[kgf/cm2]
P1:弁入口圧力[kgf/cm2]
P2:出口圧力[kgf/cm2]
W:質量流量[t/h]
ずいぶんシンプルな計算式ですが、これでも精度よく計算できます。
ステップ③-2:Calculated Cv値から流量の計算
後は流体の種類、差圧に応じて上式の中から適切な式を選定して流量を計算するだけです。
例1. 天然ガス配管の流量計算
P1:4.0 kgf/cm2
P2:3.5 kgf/cm2
Mw:16 kg/kmol
T:20℃(293.15K)
Rated Cv値:400
Cv%:40%
まず、Calculated Cv値は160になります。
また、流体は気体かつ臨界状態ではないので、
$$Cv=\frac{V}{1460}\sqrt{\frac{M_wT}{ΔP(P_1+P_2)}}$$
の式が使えるので、これに上記を代入するとVが算出すると、V=6605Nm3/hとなりました。
例2. (応用編)排ガス配管の流量計算(制限オリフィスあり)
P1:80 kgf/cm2
P2:不明
p3:4.5 kgf/cm2
Mw:18.3 kg/kmol
T:46℃(319.15K)
Rated Cv値(バルブ):30
Rated Cv値(制限オリフィス:270)
Cv%:80%
まず、Calculated Cv値は24になります。
しかし、制御弁と制限オリフィスとの間の圧力が分かりません。
この時の対応として、Excelのソルバー機能を使う求め方があります。
まず、P2の圧力を適当に仮定します。(P1>P2>P3の範囲)
そうすると、P1とP2からバルブの流量V1が、P2とP3から制限オリフィスの流量V2が求まります。
しかし、P2を適当に決めたので、V1とV2が違う値になりますが、V1とV2は等しくなければなりません。
ここでエクセルのソルバー機能を用いて、V1=V2となるようにP2を計算させてやれば、算出可能です。
もちろん、臨界状態かどうかで、Cv計算式もかわるため、IF文を用いてそれぞれのケースで計算できるようにします。
このようにしてVを算出すると、V=41667Nm3/hとなりました。
まとめ
今回の記事では、制御弁の開度から流量を計算する方法について解説しました。
流量の算出は次のステップで実施します。
流量算出の手順
ステップ①:バルブ開度[%]とバルブの流量特性からCv[%]を読み取る
ステップ②:制御弁のデータシートからRated Cv値を読み取り、ステップ①のCv[%]を乗じることでCalculated Cv値を求める
ステップ③:Cv値算出式から逆算して流量を計算する。
この方法を応用すると、配管の圧損計算と組み合わせたり、系全体の流量計算や背圧の計算も可能になります。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。