今回の記事では往復動圧縮機(レシプロコンプレッサー)の容量調整方式の特徴について解説します。
化学プラントやエネルギー設備で活用される往復動圧縮機ですが、適切な容量調整方式の選定は、プラントの安定操業や省エネルギーにおいて非常に重要です。
各容量調整方式には一長一短があります。調整精度・動力損失・機械的負荷・運転自動化の観点から、プロセス目的や設備制約に応じた多面的検討が不可欠です。
本記事では、各方式の特徴・制約・適用領域について、実務視点で整理します。
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ブロー・バイパス方式
ブロー・バイパス方式は、圧縮したガスの一部を放出(ブロー)または吸込側へ戻す(バイパス)ことで、容量を調整する方法です。
最終段または任意の段からブロー弁やバイパス管を設けることで、流量調整が可能になります。
いわゆるスピルバック制御がこの方式に該当します。スピルバック制御についてはこちらの記事を参照ください。
一般に、空気など安価なガスは「ブロー」、有価・危険性ガスは「バイパス」が選ばれます。
- 最終段からのバイパスでは0〜100%の連続調整が可能
- 中間段の場合は圧縮比の制約により調整範囲は60〜80%程度
注意すべきは、バイパスするガスが再吸入時に加熱されている可能性です。等エンタルピ変化として処理されるため、冷却器の設置が推奨されます。
また、動力損失が大きいため、常時大幅なバイパス運転はコスト増につながる可能性があります。
吸込側遮断方式
小型または可搬式の圧縮機で採用される方式で、吸込管をバルブで閉じることで、吸入工程そのものを止める構成です。
- シリンダ内の残圧ガスは外気に放出し、次工程への影響を防止
- 空気圧縮用途で広く使われるが、真空形成が懸念されるガスには不向き
シンプルで確実な方法ですが、閉鎖のタイミングや残圧排出設計は慎重に行う必要があります。
吸込弁開放方式
サクションバルブアンローダとも呼ばれる方式で、吸込弁を開放したままにし、吸込行程で流入したガスをそのまま吸込管に逆流させることで、実質的に圧縮を行わないようにする方式です。
- トップ側/ボトム側の片側シリンダのみ0%/50%/100%の段階調整が可能
- 複数シリンダの組合せにより調整段数を増やすことができ、他方式との併用も有効
この方式を採用する際は、シリンダ間の流体バランスやトルク変動への配慮が必要です。
不適切な切替は、機械負荷や異常振動を引き起こします。
吸込弁開閉タイミング制御方式
タイムドバルブ方式とも呼ばれ、吸込弁の閉鎖タイミングを遅らせ、圧縮の有効行程を短縮することで容量を調整する、高度な方式です。
- 無段階の連続調整が可能で、自動制御にも適しています
- ピストン速度や逆流抵抗を利用して弁板を操作するため、弁構造に高度な耐久性が求められる
調整範囲は原理上30〜40%程度が下限とされますが、スプリング力を強化することで吸込弁開放型アンローダとして0%まで容量を落とすことも可能です。
クリアランス容積調整方式
シリンダのクリアランス(死容積)を可変に設計することで、吸込容積を物理的に減らし、実効容積を下げる方式です。
- 動力損失が極めて少ないというメリットがあり、省エネ性に優れる
- 手動・自動調整いずれも可能で、自動式では吐出圧力により制御
ただし、固定容積式では段階式になるため、連続調整を目指すなら可変式または他方式との併用が必要です。
回転数制御方式
圧縮機の容量は回転数に比例するため、原動機の回転数を制御することで調整が可能です。
- 蒸気機関や内燃機関では供給流体(蒸気・燃料)制御で回転数を変化
- 電動機では流体変速機や無段変速機を介して調整
注意点として、ターボ形原動機(例:蒸気タービン)は出力が回転数の3乗に比例するため、設計上の最大出力設定に慎重な検討が求められます。
自動停止運転方式
圧力上昇時に圧縮機自体を停止する方式で、一般的には小型機(50kW程度まで)に限られて適用されます。
- 運転時の動力損失は少なく、構成もシンプル
- シリンダ冷却が不十分な運転状態では、停止を推奨するケースもある
ターボ圧縮機との連携方式
往復動圧縮機単独では困難な制御領域でも、ターボ形との組合せで広範囲な容量調整が可能になります。
(a) ターボ側は固定・往復側で調整
(b) ターボ側で吸込/吐出圧制御・往復側は変化に応答
(c) 両者併用
現場では、自動調整機器と連動した複雑な制御系が採用されており、性能曲線や所要動力とのバランス設計が肝要です。