今回の記事では往復動コンプレッサー(レシプロ圧縮機)の脈動と振動の低減対策について解説します。
往復動コンプレッサーは、特に周囲配管においては、操作性、メンテナンス性の確保や熱応力解析だけでなく、脈動や振動に起因するトラブルへの対策が重要となります。
配管振動は、管内の脈動の大きさだけによるものではなく、配管系の固有振動数との共振などの構造的な要因も合わさって発生することが多いので、設計段階では機械的個数振動数との共振を回避することや、脈動の起振力に応じた配管サポート計画も重要です。
往復動コンプレッサーの脈動・振動解析についてはAPI 618 "Reciprocating Compressors for Petroleum, Chemical, and Gas Industry Services"に規定がされており、本記事ではこの規格に基づいた脈動及び振動への対策について解説します。
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脈動・振動の原因と配管への影響
脈動・振動の原因
往復動コンプレッサーの吸込配管・吐出配管には2種類の配管起振力が生じます。
機械から伝わる起振力
コンプレッサーのピストンの往復動による不釣合い慣性力と偶力により、機械自体に振動が生じます。
この振動と、さらに、ガスを圧縮することにより生じるシリンダー軸の伸縮が配管に伝わり、これが配管起振力となります。
配管内の脈動による起振力
往復動コンプレッサーは、その原理上ガスの吸込と吐出が間欠的に行われるため、吸込配管と吐出配管にはガス圧力の脈動が生じ、この脈動圧力が配管起振力となります。
脈動・振動による配管への影響
配管起振力により、配管に振動が生じると、それが繰り返し応力となって配管の疲労破壊を招きます。
※実際には過大な熱応力も絡んだ複合的な要因となるケースも多いです。
ほとんどの場合は、配管損傷は振動に起因するため、振動(及び起振力の要因となる脈動)をいかに抑制するか、が重要なポイントとなります。
なお、配管の異常振動の一般的な要因は次の通りです。
配管の異常振動の主要因
・ 配管内の脈動が大きい(起振力が大きい)
・ 脈動の周波数が配管系の気柱振動の固有振動数と共振している(気柱共鳴)
・ 脈動の卓越周波数が配管系の機械的固有振動数と共振している
・ 配管サポートの剛性不足
・ 配管の形状が不適当(曲がりが多いなど)
・ 機械本体の振動が大きい
・ 機械本体の基礎、建屋の剛性不足
脈動解析方法
往復動コンプレッサーの脈動解析の手法はAPI618で提案されており、例えばAPI618 5th Editionでは、以下の3種類のデザインアプローチが提案されています。
1. 経験則に基づく手法
2. 音響的解析及び配管固有値の評価
3. 音響的解析及び配管固有値の評価に加え、機械的解析の評価(必要に応じて強制振動応答も実施)
これらのデザインアプローチは圧縮機の吐出圧力と定格電力に応じて、適切な手法で実施する必要があり、API618 5th Editionでは以下の表に従って実施することが要求されています。
この表の数字は上記のデザインアプローチの番号に対応しています。例えば吐出圧力が50barA、シリンダーあたりの定格圧力が70 kWであれば、2番のアプローチで解析する必要があります。
脈動の解析範囲
脈動解析を行うケースは、プラントの運転モードと、それに必要な運転台数とその負荷を考慮して決定する必要がありますが、全ての組み合わせで実施するのは膨大な時間がかかります。
そのため、脈動特性が異なる運転モードを抜粋したり、脈動特性が小さいケースについては大きいモードのみに着目する、といった工夫をする必要があります。
なお、API 618 5th Editionで要求される脈動許容値は以下の通りです。
$$P_1=\sqrt{\frac{a}{350}}\biggl(\frac{400}{(P_LD_If)^{0.5}}\biggl)$$
P1:許容脈動率(管内平均絶対圧力に対する)
PL:配管内平均圧力 [barA]
DI:配管内径 [mm]
f:脈動周波数 [rpm/60(Hz)]
a:ガス音速 [m/s]
脈動低減対策
脈動解析の結果、脈動が許容値を超える場合は、脈動減衰器の形状を変更するか、配管レイアウトを変更する、どちらかの対応となりまうす。
どちらの対応を選択するかは、効果の度合いと、コスト、タイミングを考慮して決定することになります。
脈動減衰器の形状変更
脈動減衰器には、「ボリュームボトル形」と「πフィルタ形」とがあります。
ボリュームボトル形は構造が単純なので、体積を大きくすればするほど、脈動減衰効果が増します。
一方、πフィルタ形は(上図)、ボリュームボトル形の効果に加え、特殊な構造をしているため、圧力損失によって脈動エネルギーを減衰させます。
πフィルタ形は温度の変動が大きいサービス(LNGプラントのボイルオフガス圧縮機など)や分子量の大きいガスに有効とされていますが、分子量が小さいガスに対しては、圧力損失が小さく、音速も大きいことから減衰効果は小さいとされています。
配管レイアウト変更
いくつかの対策例を紹介します。
配管レイアウト変更による脈動対策
・ 一端閉鎖配管の長さを短くする。
・ 配管サイズを大きくする。
・ 制限オリフィスを設置する。
・ 共鳴器を設置する。
例えば、安全弁のように一端が閉鎖されている配管では、気柱共鳴が発生し、脈動が増幅されてしまうことがあるため、極力その長さを小さくするようにします。
また、配管径を大きくして、ボリューム効果を増すことも脈動の低減対策となります。
さらに制限オリフィスを設置することも脈動対策となります。特に流速の変動が大きくなるドラムやタンクの出入り口に設置することが効果的とされています。ただしオリフィス孔径を小さくすると圧損が大きくなり、系内の圧力バランスに影響するので注意が必要です。
振動防止対策
振動防止対策としては、上述した脈動低減対策に加え、以下のような対策があります。
配管サポートによる対策
配管サポートを適切に設置することで振動対策になります。主な留意点は以下の通りです。
配管サポートの留意点
・ 脈動による起振力に耐える剛性を有すること。
・ サポートは剛性の低い構造物でとらず、基礎や強固な構造物でとる。
・ 配管のエルボにはなるべくサポートをとる。このとき熱収縮も考慮する。
・ バルブなどの重量物の近くにサポートをとる。
・ 小口径配管(1.5”以下)の分岐部は厚肉のボスで剛性を高める
・ 配管の熱伸び、熱収縮を考慮する。
特に、低温ガスの圧縮機の場合は吸込、吐出配管での熱収縮が大きいため、サポート設置個所(配管固定点)で大きな反力、モーメントとなります。反力、モーメントは配管の撓み性が大きいほど抑えることが可能ですが、上述している振動防止のために剛性を高めることとは相反するので、両方を考慮したサポート設計(熱変位に追従できるスライド式のサポートの適用など)が必要となります。
機械的固有振動数との共振の回避
上述の対策を実施していても、機械的固有振動数と共振を起こしてしまうと、大きな振動を生じることになってしまいます。
一般的には、配管系の機械的固有振動数を脈動周波数から十分に離し、圧縮機回転数の4倍以上とすることが望ましいと言われています。
API618 5th Editionでは、圧縮機、配管系の機械的固有振動数を回転数の2.4倍以上とし、かつ卓越脈動周波数から20%以上離すように要求されています。