今回は機器、計器に必要な防爆構造と適用する危険場所との関係について解説します。
前回の記事では「発火温度」「爆発等級」による分類と、適用場所の「危険度(Zone)」の判断基準について解説しました。
ここで、「発火温度」と「爆発等級」は対象となる流体の性状から決定され、「危険度(Zone)」は対象となる設備の配置、構造から決定されます。
実際の防爆設計では、「発火温度」と「爆発等級」の分類と適用可能な「危険度(Zone)」に応じた「防爆構造」が求められ、労働安全衛生法の防爆検定に合格したものでなければならなりません。
前回の記事のおさらい
■発火温度による分類
爆発性ガスの発火温度[℃] | 発火度(防爆構造規格) | 温度等級(技術的基準(IEC規格)) |
450℃< | G1 | - |
300℃<発火温度≦450℃ | G2 | T1 |
200℃<発火温度≦300℃ | G3 | T2 |
135℃<発火温度≦200℃ | G4 | T3 |
100℃<発火温度≦135℃ | G5 | T4 |
85℃<発火温度≦100℃ | - | T5 |
≦85℃ | - | T6 |
■爆発等級による分類
防爆構造規格 | 技術的基準(IEC規格) | ||
爆発等級 | 火炎逸送限界値 [mm] | グループ | 最大安全隙間 [mm] |
1 | 0.6 mm< | ⅡA | 0.9 mm ≦ |
2 | 0.4 mm < 火炎逸送限界値 ≦ 0.6 mm | ⅡB | 0.5mm < 最大安全隙間 < 0.9mm |
3 | ≦0.4 mm | ⅡC | ≦ 0.5mm |
■危険度(Zone)の分類
※表が途切れている場合はスクロールして下さい。
換気度 | 高換気度 | 中換気度 | 低換気度 | |||||
換気の有効度 | 良 | 可 | 弱 | 良 | 可 | 弱 | 良,可,弱 | |
放出等級 | 連続等級 | 非危険場所 | Zone 2 | Zone 1 | Zone 0 | Zone 0 | Zone 0 | Zone 0 |
第一等級 | 非危険場所 | Zone 2 | Zone 2 | Zone 1 | Zone 1 | Zone 1 | Zone 1 | |
第二等級 | 非危険場所 | 非危険場所 | Zone 2 | Zone 2 | Zone 2 | Zone 2 | Zone 1 |
そこで、今回の記事ではそれぞれの防爆構造と、適用可能な危険場所の関係について解説します。
防爆機器、計器の表記は、上記の分類に加えて、本記事で解説する防爆構造の種類を合わせて表記します。
危険物を取り扱うプラントの機器や計器のデータシートでは、必ず必要な防爆構造の表記を記載するので、計装エンジニアだけでなく、プロセス設計担当のプラントエンジニア(プロセスエンジニア)にとっても、本記事は重要な内容なので、ぜひご一読下さい。
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防爆構造の種類
防爆構造には様々な種類が存在します。また、それぞれの防爆構造に対して、「防爆構造規格」と「技術的基準(IEC規格)」において記号が与えられています。
補足:「防爆構造規格」と「技術的基準(IEC規格)」はそれぞれ防爆設計の指針となる規格、基準のことです。詳細については前回の記事を参照下さい。
主な防爆構造は以下の通りです。
防爆構造の種類 | 防爆構造規格 | 技術的基準(IEC規格) |
耐圧防爆構造 | d | da, db, dc |
内圧防爆構造 | f | px, py, pz |
安全増防爆構造 | e | e |
油入防爆構造 | o | o |
本質安全防爆構造 | i | ia, ib, ic |
樹脂充填防爆構造 | - | ma, mb, mc |
非点火防爆構造 | - | nA, nC, nR |
特殊防爆構造 | s | - |
この中で、よく選定される防爆構造について解説します。
耐圧安全防爆構造
着火源となる電気機器を防爆性能を備えた容器の中に入れることにより、容器内部で爆発が生じても容器の外部には爆発が及ばないようにした構造です。
この容器に対しては、内部爆発に充分耐える強度をもち、容器の接合面の隙間から通じて火炎が外部へ着火しない構造が要求されます。
■耐圧安全防爆の制御盤
出典:WATTCO
内圧防爆構造
容器の内部に窒素などの不燃性ガス(保護ガス)を加圧して満たし、容器外部の可燃性ガス・蒸気を着火源から隔離する構造です。
この容器に対しては保護ガスの内部圧力に耐えること、保護ガスの漏洩が少ないこと、内圧低下時の保護装置を備えていることが要求されます。
なお、内圧防爆構造は「封入式」と「通風式」が存在します。
■内圧防爆構造の制御盤
出典:GN
安全増防爆構造
正常時の運転・動作時は、着火源として作用しない電気機器に対してのみ適用した防爆構造です。
通常は着火源として作用しない電気機器でも、種々の環境でそのような電気機器を使用しつづけると、絶縁不良などにより電気火花などの着火源となり得ます。そのような場合に着火源を生じにくいように安全度を増した構造が安全増防爆構造です。
■安全増防爆構造のモーター
出典:DAL Elektrik
油入防爆構造
油面から電気火花を発生する部分(発火源)までの深さを十分に確保するとともに油の分解によって、発生する可燃性ガス蒸気を蓄積させないようにする構造です。
■油入防爆構造のコンデンサ(エアコン用)
本質安全防爆構造
着火源を非危険場所に設置するなど、発生する電気火花に対し、着火源として作用しない構造、ある限度内で作用しないように抑制される構造を持ったものです。
別の言い方とすると、本質的に危険な火花そのもの、あるいは高熱を発生しないよう電気エネルギーを制限させた構造になっています。
主に定格電圧 1.2V以下、定格電流 0.1A以下定格電力 25mW以下低圧電気機器にのみ適用されます。
■本質安全防爆構造のフラッシュライト
出典:ルミテック
樹脂充填防爆構造
火花又は熱により爆発性雰囲気を発火させることができる部分が、運転中に発火源とならないように、樹脂の中に囲い込んだ防爆構造です。
電気部品を包み込む主な手段としては、エンベデングとポッテングがあります。
エンベデングとは、モールドに電気部品を入れ、電気部品の周りに樹脂を注ぎ込んで完全に包み込み、樹脂が凝固した後、モールドを取り除いて包まれた部品を取り出したものです。
ポッテングとは、包まれた部品にモールドが付いたままにしておくものを言います。
■樹脂充填防爆構造のロードセル
出典:KUBOTA
非点火防爆構造
正常運転中及び特定の異常状態で、周囲の可燃性物質が存在する雰囲気を発火させる能力のない電気機器に適用する防爆構造です。
■非点火防爆構造の照明
出典:IDEC
危険場所に対応した防爆機器、計器の選定
技術的基準(IEC規格)の防爆構造と適用可能な危険場所(Zone)との関係は以下の表の通りです。
例えば、Zone0は最も危険性が高い場所ですが、これに対応可能な防爆構造は、本質安全防爆(ia)と樹脂充填防爆構造(ma)のみとなります。
防爆構造 | 記号(IEC規格) | Zone 0 | Zone 1 | Zone 2 |
耐圧防爆構造 | da, db, dc | × | ○ | ○ |
内圧安全防爆 | px, py | × | ○ | ○ |
pz | × | × | ○ | |
安全増防爆構造 | e | × | ○ | ○ |
油入防爆構造 | o | × | ○ | ○ |
非点火防爆構造 | nA, nB, nC | × | × | ○ |
本質安全防爆構造 | ia | ○ | ○ | ○ |
ib | × | ○ | ○ | |
ic | × | × | ○ | |
樹脂充填防爆構造 | ma | ○ | ○ | ○ |
mb | × | ○ | ○ | |
mc | × | × | ○ |
選定例
一例として、水素を取り扱うプラント内で仕様する懐中電灯を選定することを考えます。
水素の技術的基準(IEC規格)における分類は以下の通りです。
水素の分類
爆発等級:IIC
温度等級:T1
さらに、プラント内における危険場所の検討の結果、Zone0に該当するエリアは無く、Zone1及びZone2のエリアのみが存在することが分かりました。
上記の情報から、懐中電灯に求められる仕様は以下の通りであることが分かります。
■懐中電灯の要求仕様
爆発等級:IIC
温度等級:T1~T6
防爆構造:耐圧安全防爆、内圧防爆(px,py)、安全増防爆、油入防爆、本質安全防爆(ia,ib)樹脂充填防爆(ma.mb)
調査の結果、以下の防爆認証を持つ懐中電灯が見つかったとします。
■懐中電灯の仕様
Ex ia IIC T4
※EXはIEC規格に基づく防爆構造であることを示す表記です。
この懐中電灯の仕様は上記の要求仕様を満たしているので、この検討例における水素プラントでは使用可能であることが分かりました。
まとめ
今回は機器、計器に必要な防爆構造と適用する危険場所との関係について解説しました。
危険場所が存在するプラントに設置する機器、計器などの電気設備は、「発火温度」と「爆発等級」の分類と適用可能な「危険度(Zone)」に応じた「防爆構造」が求められ、防爆検定に合格したものでなければならなりません。
安全サイドの防爆設計なら、プラント全体一律で、厳しい要求に対応可能な防爆構造を持つ機器、計器を選定しても良いですが、一般的に防爆構造を持つ機器、計器は要求仕様が厳しくなればなるほど高価になるので、プラント建設、改造コストの増加の要因となります。
そのため、対象流体の危険性(発火温度、爆発等級など)を熟知し、危険場所(Zone)の検討を行った上で、適切な防爆構造をもった機器、計器を選定することが重要です。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。