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【配管】家庭用水道管の凍結防止対策に対する定量評価

今回は一般家庭における凍結防止対策がどの程度効果があるのか、定量的に考察していきたいと思います。

まず、プラントにおける水(冷却水、工水、飲料水)配管の凍結対策は以下のどちらかになると思います。

プラントにおける配管凍結対策

① 水を連続ブローすることで、滞留させないようにする。
② 水配管にヒートトレース施工(蒸気トレース、電気トレース)を実施する

管理人の経験では、国内プラントでは①の対策、海外プラントで②の対策が多いイメージです。設計思想の違い、水の運転コスト(OPEX)の違いにより決定されるはずですが、この思想の違いについては別記事でまとめたいと思います。

一方、一般家庭の水道管凍結対策について調査すると以下の二つの対策があるようです。

一般家庭の配管凍結対策

① 水を流しっぱなしにしておく
② 水道管に保温テープをまいておく

感覚的には国内プラントにおける対策同様、水を流しっぱなしにしておいて、裸配管の所に保温テープを巻いておけば、凍結防止には効果があるのは間違い無いと思います。

今回の記事では、上記の対策がどの程度効果があるか、定量的に評価してみました。

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前提条件

前提条件は以下の通り仮定し、放熱計算により任意の配管長における温度を求めます。

放熱計算するにあたり、熱収支をとって、微分方程式を解いています。詳細については、下記の記事を参照ください。

また、計算シートはcoconaraで販売しています。興味のある方はぜひ購入してみて下さい。
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検討の前提条件

外気温:-10℃
風速:5m/s(管外伝熱は強制対流伝熱)
配管径:20A、13A
流速:1m/s、0.1m/s、0.01m/s
水の物性(比熱、密度)は温度によらず一定とする
基準となる水の温度:20℃
0℃に達した時点で凍結するとみなす。
実際には0℃に達してから凍結するまでには時間がかかりますが、安全サイドで考えています。

大気条件は北海道あたりの寒さが厳しい条件。配管径は20Aと13Aが一般的なので、この2種類、流速は一般的な液体の流速1m/sを基準として、0.1m/s、0.01m/sで検討してみました。

なお、0.1m/sは配管径にもよりますが50~100L/h、0.01m/sは5~10L/hくらいの流量です。
(1m/sはかなり蛇口を開けているイメージ、0.1m/sは少し蛇口を絞ったイメージ、0.01m/sはちょろちょろ、あるいはポタポタ流してイメージでしょうか。)

基準となる水の温度は20℃としています。一般家庭の水の温度は測ったことありませんが、プラントでの冷却水温度は大体20~30℃くらいなので、そこから20℃としています。

計算結果

保温無し配管

20Aと13A配管とで、1m/s、0.1m/s、0.01m/sの温度変化をグラフで表しました。

まず、1m/sではどちらの配管径でも、100m先でも0℃以上をキープしています。

この流速であれば、まず凍結するの心配はする必要はなさそうです。(水道代の方が心配になりますね。)

 

0.1m/sの場合、20A配管では40mくらいで凍結、13A配管では20m/sくらいで凍結し始めるようです。

一般家庭で20mもの水道管がむき出しになっているのも考えにくいので、0.1m/sも流速があれば、あまり凍結は心配しなくてもよさそうです。
(ただし、もっと寒さが厳しい場所ではその限りではない)

 

0.01m/sの場合、20A配管では5mくらい、13A配管では3mくらいの地点で凍結するようです。

これくらいの長さであれば、外気に接する水道管もあるでしょう。今回計算した大気条件では、裸の配管で水をちょろちょろ、ポタポタ流すだけでは凍結のリスクが大きいことが分かりました。

保温有り配管

保温テープを巻いた時の効果を定量的に評価してみます。

本テープの一般的な仕様として厚みは1.7mm、熱伝導率は情報が無いので、プラント配管の保温でよく使われるセルラーグラスの数値を用いました。

20A、13A配管で、0.1m/s、0.01m/sにおける保温有り/無しの違いをグラフで表しました。

 

まず、0.1m/sの場合では、100m地点でもほぼ0℃以上となりました。

保温テープを巻いておけば、0.1m/sの流速があれば凍結のリスクはほぼ0になることが解析的に分かりました。

 

0.01m/sの場合、凍結する地点が20A配管では15m、13A配管では10mまで延びました。

外気に接書する水道管が10mあるかどうかは分からないので、絶対に凍らないとは言い切れませんが、保温テープを巻くことで、わずかな流量でもかなり凍結のリスクは防ぐことできることが分かりました。

保温有り(保温テープ重ね巻き)

保温テープを二重に巻いた場合の効果はどうなのでしょうか。

感覚的には巻けば巻くほど効果はありそうですが、今回は定量的に評価してみます。

 

20A配管、13A配管で流速0.01m/sにおける温度変化をグラフで表しました。

それぞれの管径で確かに高い温度を保っているように見えますが、温度の幅が狭くなっています。

例えば10m地点で保温有り/無しを比べると8~10℃の保温効果がありますが、保温一重/二重で比べると、5℃程度の保温効果になっています。

 

このことから、保温テープを巻けば巻くほど、重ね巻きによる効果は薄れてくることが言えます。

三重、四重と巻いても効果が無いとは言えませんが、保温テープ材料代が高くついて却って不経済になります

重ね巻きをするにしても場所を絞って実施する、といったやり方が良いと思います。

まとめ

まとめると以下の通りになります。

凍結防止対策のポイント

・水を流しっぱなしにするのは確かに効果がある。裸配管でもある程度の流量があれば凍結しないが、チョロチョロ、ポタポタ程度のわずかな流量では凍結のリスクが大きい。
・保温テープは凍結対策に大いに効果がある。僅かな流量でも、保温テープを巻いておけば凍結のリスクを下げられる。
・テープを重ね巻きにすることは、効果はあるがだんだん薄れてくる。無暗に巻くのではなく、場所を絞って重ね巻きにするのは効果あり。

 

今回は一般家庭の水道管の凍結防止対策について定量評価してみました。

この通り、日常生活においてもプラントエンジニアリングの考え方を用いると定量的に評価することが出来ます

今後もこのような記事を更新していきたいと思います。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

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