今回は熱の入出熱(放熱/入熱)による任意の地点における配管温度の導出について解説します。
プラントにおける配管で流体を輸送する際、必ず熱の入出熱が発生し、熱損失(Heat Loss)が発生します。
通常は、配管に保温材やヒートトレース(蒸気トレースや電気トレース)を施工して熱損失を抑制します。
しかし、試運転時など、想定以上に放熱が大きく、配管温度が低下してしまい、予期せぬトラブルが発生してしまうことがあります。
管理人は、このようなトラブル対応として、熱損失の計算をすることがよくあるのですが、インターネット検索や文献では、目的に沿う例題、事例が見つかりませんでした。
そこで以下の通りの手順で、任意の配管長における流体温度を導出する式を作成しましたので、解説したいと思います。
化学工学、特に移動現象のエッセンスがちりばめられているので、教科書の復習としても最適です。
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伝熱モデルの定義
まず、上記のような配管の中の微小区間(長さdLの部分)における熱収支を考えます。
$$ΔQ = Q1-Q2$$
Q:熱量 [kcak/h]
Q1の熱量が微小区間に流入し、その区間の中でΔQの熱量が系外に流出、微小区間から流出される熱量はそれを差し引いた残りのQ2となります。
ここで、ΔQは微小区間の表面から放出される熱量なので、
$$ΔQ = Uo(πDodL)(T(L)-To)$$
Uo:外表面規準の総括伝熱係数 [kcal/m2 h ℃]
Do:外径 [m]
dL:微小区間の長さ [m]
T(L):長さL[m]における温度[℃]
To:外気温[℃]
※微小区間ゆえに、配管温度T(L)は一定とみなしている
また、Q1-Q2は流体が微小区間で失った熱量なので、この区間の物質収支より、
$$Q1-Q2 = CpFmdT$$
Cp:流体の比熱[kcal/kg℃]
Fm:流体の質量流量[kg/h]
dT:微小区間の入/出における温度差[℃]
※流体の比熱は温度によらず一定とする。
ゆえに、
$$Uo(πDodL)(T(L)-To) = CpFmdT$$
と表すことができます。
上式を整理して、
$$\frac{dT}{(T(L)-To)} = αdL$$
ただし、
$$α = \frac{Uo(πDo)}{CpFm}$$
と置いた。
上記の微分方程式について、境界条件をL=0~L、T(L)=Tin~T(L)として積分すると、
$$\log\frac{T(L)-To}{Tin-To}=-αL$$
Tin:配管入口の温度[℃]
これを変形して
$$T(L)-To=(Tin-To)exp(-αL)$$
$$T(L) = To+(Tin-To)exp(-αL)$$
故に、αを算出すれば、任意の地点Lにおける温度T(L)を算出することが出来ます。
管内伝熱係数の算出
化学工学便覧第4版より、管内伝熱係数は以下の式で算出されます。
$$hi = \frac{0.0156CpG^{0.8}}{Di^{0.2}}$$
ただし、
$$G = \frac{Fm}{\frac{π}{4}Di^2}$$
hi:管内伝熱係数 [kcal/m2 h ℃]
G:単位面積あたりの質量流量 [kg/m2 h]
Cp:Cp:流体の比熱[kcal/kg℃]
Di:内径
Fm:流体の質量流量[kg/h]
管外伝熱係数の算出
管外のヌッセルト数を算出すると、化学工学第7版より、
※数式の表示が途切れていたらスライドさせると表示されます。
ただし、Re*Pr > 0.2が成り立つことを確認しておく。
管理人注):ほとんどの場合、Re*Pr > 0.2となるので問題にはなりませんが、実際に計算する場合はこれが成り立つことを確認して下さい。
Re:レイノルズ数 [-]
Pr:プラントル数 [-]
※管外は大気なので、空気のプラント数が使用でき、化学工学便覧第7版より、Pr = 0.707が使用可能
ゆえに、管外基準の伝熱係数は、
$$ho = Nu\frac{λ}{Do}$$
ho:管外伝熱係数 [kcal/m2 h ℃]
λ:空気の熱伝導率 [W/m2 ℃]
総括伝熱係数Uoの算出
上記のような円筒の伝熱モデルを考えると、管外基準の総括伝熱係数Uoは以下の式で算出されます。
※数式の表示が途切れていたらスライドさせると表示されます。
Uo:管外基準の総括伝熱係数 [kcal/m2 h ℃]
ho:管外伝熱係数 [kcal/m2 h ℃]
hi:管内伝熱係数 [kcal/m2 h ℃]
ri:管内汚れ係数 [m2 h ℃/kcal]
t:配管厚み [m]
k : 配管熱伝導率 [kcal/m h ℃]
Di:内径 [m]
Do:外径 [m]
Dm:対数平均径 [m]
任意の配管長における温度T(L)の算出
Uoが求められるようになったので、
$$α = Uo\frac{πDo}{CpFm}$$
にUoを代入すれば、αを求めることができます。
以上より、
$$T(L) = To+(Tin-To)exp(-αL)$$
To、Tin、To、αが既知の値となったので、任意の配管長であるLを代入すれば、T(L)が算出可能となりました。
まとめ
微小区間の熱収支、物質収支から、微分方程式を立てて、これを解くことで任意の地点における配管温度を導出しました。
移動現象の教科書に記載されていることしか使用しておりませんので、一度手計算で導出してみると、理解が深まります。
今回は最も簡単な例として、配管の保温が無いケースで導出しました。
保温がある場合でも総括伝熱係数の算出式に項を一つ加えるだけで算出可能です。
また、この式は様々な計算に応用可能です。
具体例として、一般家庭における水道管の温度変化も計算しております。
記事も作成しておりますので、宜しければこちらも参照下さい。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。