今回の記事ではプラント建設費の構成と建設契約方式について解説します。
新たなプラント建設案件において、エンジニアリング会社が行うプラント建設費の見積もりと建設契約方式の選定は、その後の会社の収益に直結する非常に重要な業務です。
建設費の見積もり精度が悪いと、過大に見積もってしまった場合はオーナー側の予算超過による収益悪化や失注のリスク、過小に見積もってしまった場合はエンジニアリング会社側の収益悪化、最悪の場合は赤字受注となってしまうリスクがあります。
また、契約方式についても、エンジニアリング会社側にとって不利な契約となった場合は、それだけで収益悪化のリスクとなります。
そのため、建設費を精度良く見積もること、適切な契約方式を選定することが非常に重要です。
そこで、本記事ではプラント建設費の構成及び各種契約方式について解説します。
プロジェクトを統括するエンジニア(プロジェクトエンジニア)だけでなく、プロセス設計行うプロセスエンジニアにとっても必須の知識です。
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プラント建設費
出典:PERI
プラント製品の製造原価において、建設費が占める割合は一般的に20%程度とされています。
例えば、建設費が10%変動すると、製造原価が2%変動します。
そのため、プラントのオーナー側にとっては、いかにプラント建設費を安くするかが、利益率の向上にとって重要な要素になります。
一般的な建設費の構成は次の通りです。
プラント建設費の構成
・ 機器費
・ 工事費
・ 現場経費
・ 試運転費
・ 保険料
・ 設計料
・ 危険費(Contingency)
・ 本社経費
それぞれの項目について次項から解説します。
機器費
プラントを構成する各機器の制作費です。
主な機器としては、塔槽類、熱交換器、加熱炉、ポンプ、圧縮機、タービンなどです。
重要なのは機器費はプラント建設費の中でもかなりの割合を占めるため、このコストが全体の建設費に大きな影響を与えることです。
そのため、むやみにコストアップとならないよう、適切な機器設計を行う必要があります。
特に初品のプラントの場合は安全側を見すぎて設計し、過剰設計になる可能性もあるため、慎重に設計しなければなりません。
一般的には機器費は工事費の5,60%程度を占めますが、大型の機器があれば70%程度になることもあります。
工事費
各種機器、配管、計器の据え付け、組み立て、運転に必要な費用です。配管や計器の材料費もこの項目に含まれます。
据え付け、組み立て工事費
ライナーなどの材料費、機材費、機材の準備費、労働賃金などが含まれます。
配管工事費
、バルブ、継ぎ手などの配管材料費やその加工、取り付け費などが含まれます。
プラントは多くの配管から成り立っているので、配管工事費が工事費に占める割合は最も大きく、工事費の15~25%を占めます。
建築、土木工事費
架構やパイプラック、機器の基礎、排水溝、建屋(計器室、電気室、圧縮機建屋)などが含まれます。
建築、土木工事費も工事費に占める割合は大きく、通常は7~13%程度、場合によっては20%を占めることもあります。
電気工事費
動力、証明、電気ケーブル、制御盤などが含まれます。
電気工事が工事費に含まれる割合は4~10%程度です。
計装工事費
各種計装品の費用及びその取り付け、配線、工事などが含まれます。
計装工事が工事費に含まれる割合は8~15%程度です。
保温工事費
機器、配管などの保温、保冷の材料費、取り付け工事費などが含まれます。
保温工事が工事費に含まれる割合は2~7%程度です。
塗装工事費
機器、配管などの塗装材料費、工事費などが含まれます。
塗装工事が工事費に含まれる割合は0.3~0.7%程度です。
仮設費
工事の施工に必要な建設機械の費用及びその機械の運転に必要な運転員、燃料、消耗品、運搬費が含まれます。
また、工事に必要な仮設建屋、配管、道路などに必要な費用もここに含まれます。
現場経費
プラント建設現場で必要な費用で、上述した工事費以外の費用
がここに含まれます。
主な経費を挙げると次の通りです。
主な経費
・ 現場作業員の給料
・ 福利厚生費
・ 租税
・ 労務管理費
・ 旅費、交通費
・ 通信費
・ 現場宿舎、事務所の光熱費、水道費
・ 事務用品費
・ 補償費
・ その他雑費
建設時の現場対応で現地出張するときの出張代はこの経費から出ることになります。(試運転時の出張代は次項の試運転費から出されます。)
試運転費
プラント試運転に必要な費用
です。
主な試運転費を挙げると次の通りです。
主な運転費
・ 原料費
・ 運転用消耗品費
・ 動力、用水費
・ 運転関係の人件費
・ 試運転に立ち会う請負会社(エンジ会社)の人件費
保険料
建設、試運転現場における労働災害やプラント設備の火災・爆発などの災害は発生させてはなりませんが、プラント建設においては必ず保険がかけられます。
保険料はこのような災害に対する費用です。
労災保険については、現場経費で計上することもあります。一般的には機械据え付け、建築工事、土木工事で保険料が異なります。
組立保険については、プラントの種類で異なります。
設計料
エンジニアリング会社が工事費に対して一定の割合で計上する費用です。
プラントの種類、規模、エンジ会社の能力によって割合は異なりますが、米国の場合だと工事費に対して20~30%程度を計上することもあります。
危険費(Contingency)
「各種費用の見積もりを完璧に行ったとしても、何らかの要因で建設費は10%程度変動することは避けられない」という考え方のもとで計上される費用です。
謂わば不足の事態に対応する費用を、建設費のをマージンとして計上される費用です。
危険費の要因として挙げられるものは次の通りです。
ポイント
・ 物価の変動
・ 工事遅延
・ 設計変更
・ 見積もりの誤り
・ コスト管理のミス
・ その他予測されない費用
既設プラントのコピープラント建設であれば、不足の事態が発生するリスクは少ないため、危険費は少なく計上されます。
一方、初品のプラントでは危険費は多めに計上され、最大25%程度で見積もられることもあります。
本社経費
上記の費用の他に、工事以外の一般経費や利潤を加えたものが、最終的に建設費として算出されますが、「工事以外の費用や利潤」に該当する費用が本社経費です。
一般経費には内勤者の人件費、事務所費、利息、原価償却費、租税などが含まれます。
プラント建設契約方式
プラント建設の契約方式は、プラントの特殊性、建設時期、建設地、機密保持、物価変動など様々な要因を考慮して選定されます。
本記事では、その中でよく使用される「ランプサム契約」と「コスト・プラス・フィー契約」について解説します。
ランプサム契約(Lump Sum Contract)
契約において、合意されたある一定額を支払う契約です。
オーナー側から基本的な技術仕様が示され、基本設計~試運転までを一括で請け負う、フルターンキー契約もこの契約方式に含まれます。
オーナー側企業にとっては、支払い額が固定されており、有力エンジニアリング会社を選定しやすいことから、積極的に選定される契約方式です。
請負側(エンジニアリング会社)にとっては、建設費を安くすればするほど収益が大きくなる反面、設計ミス、工程遅延、試運転トラブルにより費用が膨らむと、それだけ収益が悪化することになるため、相応のリスクがある契約方式です。
コスト・プラス・フィー契約(Cost Plus Fee Contract)
実際にかかった費用に一定割合のフィーを加算した金額を支払う
契約です。
この契約方式は設計仕様、技術仕様が定まっておらず、不確定要素が多い場合に選定される契約方式です。
また、秘密保持のために、できるだけ外部に出したくない場合、プラント建設を最短の期間で完成させたい場合にも選定されることもあります。
まとめ
今回の記事ではプラント建設費の構成と建設契約方式について解説しました。
新たなプラント建設案件において、エンジニアリング会社が行うプラント建設費の見積もりと建設契約方式の選定は、その後の会社の収益に直結するため、建設費を精度良く見積もること、適切な契約方式を選定することが非常に重要です。
プロジェクトを統括するエンジニア(プロジェクトエンジニア)だけでなく、プロセス設計行うプロセスエンジニアにとっても必須の知識です。
本記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。