今回の記事では機器周りの配管レイアウト設計の留意点について解説します。
プラントの配管レイアウト設計における原則は以下の通りです。
配管レイアウト設計の原則
・ 配管ルートは最短・シンプルにする。
・ 配管の熱応力を考慮する。
・ 近接する配管はグループ化し、サポートも共通とする。
・ 各バルブへのアクセスを考慮する。
・ むやみにポケット部をつくらないようにする。
上記の原則に加え、蒸留塔、ポンプ周りの配管、パイプラックの配管設計は、特に慎重に配管設計を行う必要があります。
これらの機器周りの配管設計を誤ると、振動などのトラブルが発生したり、操作性・メンテナンスが悪くなるため、プラントの安定運転、維持をすることが難しくなります。さらに、これらの機器周りは配管設計上の制約条件が多く、特別な留意点があります。
そこで、本記事では蒸留塔・ポンプ周り、パイプラックの配管レイアウト設計の留意点について解説します。
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蒸留塔周りの配管計画
プラント内における塔は蒸留塔、反応塔、抽出塔などがありますが、特に棚段塔に代表される蒸留塔は内部の構造が複雑で、かつノズルの数が多いため、ノズルの設置においては、多くの制約条件が発生します。
そのため、蒸留塔周りの配管設計では、関連する複数のノズルの向きを同時に考慮することが重要です。
アクセス性を考慮した配管設計
蒸留塔はアクセス性を考慮した配管設計が必要です。
具体的には、メンテナンス時にアクセスが必要なマンホールは道路側に設置されますが、マンホールのフランジを外す際に考慮しなければならない、ダビットの旋回範囲や吊り上げ操作に必要なスペースや重機の寄り付きのためのスペースを確保しなければなりません。
そのため、配管レイアウト設計においては、このスペース干渉しないように設計する必要があり、かつ可能な限り各配管をまとめて設計する必要があります。
マンホール取り付け向き
蒸留塔のメンテナンス時はマンホールから作業員が塔内に入り、トレイの点検、取外しを行うため、安全性、塔の機能を損なわないように、ダウンカマーエリアから外して設計します。
また、マンホール設置高さにつては、通常はプラットホームから1m程度の高さとすることが多いです。
ノズル取り付け向き
フィードノズルや還流ラインノズルは、ダウンカマーから反対側かつ距離を離した位置に設置します。
ただし、必要に応じて内部配管で曲げることが可能なので、取り付け向きの制約は比較的少ないです。
計器取り付け向き
を設置する場合は、温度計を引き抜くためのスペースを確保する必要があります。
液の温度を計測する場合は、ダウンカマーエリアに設置しますが、その際はバッフル板との干渉に注意します。
気体の温度を計測する場合はトレイからの高さを確保して設置します。
圧力計を設置する場合は、気体の温度を測定する場合と同様、トレイからの高さを確保してガス相の圧力を計測できるようにします。
据え付け高さを考慮した配管設計
蒸留塔周りの機器・配管の据え付け高さは、プロセス要求、メンテナンス性を考慮して決定されます。
代表的な留意点としては以下の通りです。
代表的な留意点
・ ポンプのNPSHを確保する。
・ サーモサイフォンリボイラによる循環のための液ヘッドを確保する。
・ 液ポケットつくらない。
・ 重力流れを確保する。
・ リボイラ、コンデンサーのメンテナンス性を確保する。
ポンプ周りの配管計画
などの回転機は、プラント運転中の点検、メンテナンス作業が頻繁に発生するため、操作性、メンテナンス性、アクセス性を十分に考慮する必要があります。
ただし、複数台を同時に運転するポンプの場合は、配管レイアウトは対称にする必要があります。非対称だとそれぞれのポンプへの液体の流れが偏り、ポンプの過負荷、故障に繋がります。
運転を考慮した配管設計
プラント運転中でもポンプのスタートアップ、シャットダウンや予備機へ切り替えを行う作業は頻繁に発生するため、そのためのバルブ操作や駆動スイッチ操作の頻度も多くなります。
そのため、配管設計においては、バルブ操作がスムーズに行えるようなバルブの配置、バルブやスイッチから現場計器の目視が可能となるような配置、誤操作防止のために定型化された配管アレンジが必要となります。
メンテナンス性を考慮した配管設計
ポンプのメンテナンスでは、ケーシングの分割・ローターの引き抜き作業の他、ストレーナーの清掃、モーターの補修作業が行われます。
そのため、部品の吊り上げのためのスペースの確保や重機の寄り付きのためのスペースを確保し、そのスペースに干渉しないような配管設計が必要となります。
パトロールを考慮した配管設計
ポンプなどの回転機は熱交換器、ドラムのような静機器よりも故障しやすく、監視用の計器も多く設置されます。運転員は、現場パトロールではポンプ周りの計器の監視や流体の漏れの有無について確認を行います。
そのため、運転員の動線を考慮して、パトロールしやすいような通路スペースを確保し、そのスペースに干渉しないような配管設計が必要となります。
プロセス要求を考慮した配管設計
ポンプの性能を満足するための配管設計における留意点は以下の通りです。
留意点
・ NPSH
・ No Pocket
・ 直管長
<NPSH>
ポンプのインペラ損傷の原因のなるキャビテーションの発生を防ぐため、必要NPSH以上の高さを確保しなければなりません。
また、NPSHを満足していても、配管の圧力損失が大きいとキャビテーションが発生することもあるため、圧力損失がなるべく最小となるような配管レイアウトにしなければなりません。
<No Pocket>
ポンプの吸込側にポケットがあるような配管レイアウトだと、ポケット内に溜まった気体により、エア噛みを起こす可能性があります。
エア噛みを起こすと吐出圧の低下だけではなく、ポンプの破損に繋がる可能性があります。
そのため、ポンプ吸込側ではポケットをつくらないような配管設計にしなければなりません。
<直管長>
遠心ポンプケーシング内のボリュート内への液体の流れが偏り、ポンプシャフトの負荷が偏らないよう、遠心ポンプ吸込側は直管長が必要です。
一般的には片吸込式では2D、両吸込式では2D~5D程度の直管長が必要と言われています。この直管長は吸込側エルボを基準とすることもありますが、ストレーナからの距離であるが推奨されます。
(D:配管径)
また、吸込配管の必要直管管についてはこちらの記事でも解説していますので、ぜひ参照ください。
熱応力を考慮した配管設計
ポンプなどの回転機のノズルの許容応力は、静機器のノズルよりも小さい
ため、ノズルに過大な応力がかからないような配管設計にしなければなりません。
そのため、配管レイアウトはある程度のフレキシビリティを持たせ、熱応力吸収のためのループ形状を考慮する、などといった配慮が必要となります。
パイプラックの配管計画
パイプラックはプラント内の中心に位置し、プラントの各機器を接続するための配管やケーブルを支持するための架構です。
パイプラック設計はプラントの配管設計の中でも中核となる項目ですが、設計において留意しておくべき項目について解説します。
パイプラック幅の決定要素
パイプラックの幅を決定するための要素は以下の通りです。
幅の決定要素
・ 配管本数、保温材厚み、フランジ有無
・ 配管の熱伸び
・ 将来の拡張性
・ 歩廊スペース
・ 計装ケーブルトレイ、ダクト
・ エアフィンクーラーの脚幅
・ 設計余裕分(10%程度)
ただし、幅が大きくなると配管サポートの設計が難しくなるため、その場合は段数を増やすことを検討します。
パイプラック高さの決定要素
パイプラックの高さを決定するための要素は以下の通りです。
高さの決定要素
・ パイプラック下を通行する重機、フォークリフト高さ
・ パイプラック下に設置される機器のメンテナンススペース
パイプラックの柱間隔の決定要素
パイプラックの柱間隔を決定するための要素は以下の通りです。
柱間隔の決定要素
・ 配管のたわみ量
・ 他の架台、建屋の柱との位置関係
・ 垂直ブレースの通行性への影響度
これらの要素は構造設計への影響が大きいので、構造設計の担当者と十分に協議を行った上で、最適案を模索していく必要があります。
パイプラックの段間隔の決定要素
パイプラックの段間隔は、ヘッダー配管分岐部の90°エルボか45°エルボを考慮して決定されます。
ヘッダー配管のサイズにもよりますが、通常は1.5m~3m程度になります。
まとめ
今回の記事では機器周りの配管レイアウト設計の留意点について解説しました。
プラントの配管設計の中で、蒸留塔、ポンプ周りの配管、パイプラックの配管設計は、特に慎重に配管設計を行う必要があります。
これらの機器周りは振動などのトラブルが発生しやすく、配管設計を誤ると、プラントの安定運転、メンテナンスをすることが難しくなります。さらに、これらの機器周りは配管設計上の制約条件が多いため、特別な留意点があります。
この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。