今回の記事ではプラントで使用される減温器(デスーパーヒーター)の種類と特徴について解説します。
減温器は過熱低減器やデスパーヒーター(desuperheater)とも呼ばれ、プラントの過熱蒸気(super heated steam)を冷却水と混合させることで、飽和蒸気に近い温度まで減温する際に用いられます。大層な名前をしておりますが、実物は蒸気配管に冷却水を注水して冷却するためのスプレーノズルのようなものです。
プラントでは、スチームタービンの駆動源や蒸留塔のリボイラ熱源など、様々な温度、圧力の蒸気が用いられ、最も省エネとなるように最適な蒸気バランスが組まれます。
しかし、この蒸気バランスは理想的なプラント運転状態を前提に組まれているので、プラントの運転状態次第では、必要蒸気バランスが崩れてしまい、蒸気の過不足が生じてしまいます。
例えば、下記の蒸気バランスでは、高圧蒸気を必要とするスチームタービンが停止すると、高圧蒸気があまり、代わりに中圧蒸気が不足してしまいます。このような状態になる前に全体の蒸気バランス修正するために、高温・高圧の蒸気を冷却して中圧蒸気を作るための機器が減温器(デスーパーヒーター)です。
減温器は配管と冷却水噴霧ノズルにより構成されており、主に噴霧された冷却水の粒径や噴出方向により、液滴の滞留時間が決まり、減温能力が決定されます。
主な減温器の種類
・ スプレータイプ
・ ベンチュリタイプ
・ アトマイジングタイプ
・ バリアブルオリフィスタイプ
プラントの蒸気系統では必ず設置され、安定運転を継続するためには必須となる機器ですので、蒸気や冷却水の温度、圧力条件やプラント運転の変動幅に応じて、適切な減温器の選定が行われなければなりません。
そこで今回の記事ではこれらの減温器の種類と特徴について解説します。
合わせて読みたい
・【配管】放熱/入熱による任意の地点における配管温度の導出
・【配管】家庭用水道管の凍結防止対策に対する定量評価
・【配管】放熱計算による配管が凍結するまでの時間の推定-伝熱モデルの解説-
・【配管】プラントで使用される安全弁の種類と作動原理の解説
・【配管】プラントの音響疲労破壊とは?音響レベルの計算方法と対策
・【配管】プラント建設後の配管はどうやって洗浄する?配管洗浄方法の解説
・【配管】制限オリフィス孔径の計算手順の解説
・【配管】プラントの配管振動を引き起こす主な原因とその対策について
・【配管】プラントで使用されるストレーナーの種類と特徴の解説
・【配管】ボンディングとは?配管の静電気対策について解説
・【配管】マニュアルバルブ(手動弁)の選定基準について解説
・【配管】プラント配管で使用されるエキスパンションジョイントの種類と特徴の解説
・【配管】プラント配管の主な構成要素について解説
・【配管】プラントで使用されるスチームトラップの種類と特徴の解説
・【配管】プラントで使用されるスプレーノズルの設計方法の解説
・【配管】スパージャーの設計方法について解説
・【計装】どんな流量計が適切?流量計の種類の選定基準の解説
・【計装】プラントで使用される調節弁の種類と特徴の解説
スプレータイプ (Spray Type)
スプレータイプの減温器は噴霧方向や噴霧箇所によりさらなる分類がなされ、それぞれに長所・短所を有しています。
スプレータイプの減温器分類
・ ラジアルインジェクション(シングル)
・ ラジアルインジェクション(マルチ)
・ アキシアルインジェクション(シングル)
・ アキシアルインジェクション(マルチ)
ラジアルインジェクション(シングル)/ Radial Injection (Single)
出典:Spirax
ラジアルインジェクション(シングル)は冷却水を蒸気の流れ方向に対し垂直に噴霧する、最も単純な構造の減温器です。冷却水流量は冷却水ラインの制御弁によって調整されることが多いです。
ラジアルインジェクション(シングル)の長所と短所は以下の通りです。
長所
・構造が簡易
・安価
・圧損が小さい
短所
・ターンダウン比が小さい(一般的に3:1 が最大)
・蒸気出口温度が飽和温度の10℃以上
・アトマイジングタイプと比較し、減温器下流側の必要直管長が長い
・配管の侵食が発生しやすい
補足:ターンダウン比は運転範囲を意味します。これが大きいと運転範囲が広くなり、様々な運転モードに対応可能となります。
プラントの蒸気の温度、流量が安定
している場合、冷却水温度が安定している場合はこのタイプが適します。
ラジアルインジェクション(マルチ)/ Radial Injection (Multiple)
出典:Spirax
基本的にラジアルインジェクション(シングル)と同じように、冷却水を蒸気の流れ方向に対し垂直に噴霧しますが、配管周囲の複数個所から噴霧を行うことに特徴があります。
ラジアルインジェクション(マルチ)の長所と短所も基本的にシングルタイプと同じです。
長所
・構造が簡易
・安価
・圧損が小さい
・シングルタイプよりも冷却水圧力が低圧でも可
・シングルタイプよりも下流側の必要直管長が短い
短所
・ターンダウン比が小さい(一般的に3:1 が最大)
・蒸気出口温度が飽和温度の10℃以上
・アトマイジングタイプと比較し、下流側の必要直管長が長い
・配管の侵食が発生しやすい
・シングルタイプよりも構造が複雑で高価
また、用途においてもシングルタイプ同様ですが、冷却水圧力が低い場合や配管レイアウトの制約で下流側の直管長が十分にとれない場合はこのタイプが選定されます。
アキシアルインジェクション(シングル)/ Axial Injection (Single)
出典:Spirax
アキシアルインジェクション(シングル)は、冷却水を蒸気の流れ方向に噴霧する構造の減温器です。配管の中心から噴霧を行うことで、より均一に冷却水が蒸気に混合されやすくなります。
また、母管中に冷却水配管が挿入されているため、これが障害物となることで噴霧口下流側で乱流が発生し、熱交換が促進されます。
例で示しているのは典型図、噴霧方向は流れ方向に順方向ですが、方向を反対にしたリバースフロータイプもあります。このタイプではより効率的に混合が行われるため、必要直管長が短縮されるメリットがあります。
アキシアルインジェクション(シングル)の長所と短所は以下の通りです。
長所
・駆動部がない
・幅広い配管径で使用可能
・圧損が小さい
・ラジアルインジェクションタイプよりも下流側の必要直管長が短い
短所
・ターンダウン比が小さい(一般的に3:1 が最大)
・蒸気出口温度が飽和温度の10℃以上
・アトマイジングタイプと比較し、下流側の必要直管長が長い
・配管の侵食が発生しやすい
アキシアルインジェクション(マルチ)/ Axial Injection (Multiple)
出典:Spirax
アキシアルインジェクション(マルチ)はシングルタイプと比較し、噴出口が複数あるノズルを使用することで液滴がより均一に分散されやすくなります。
このタイプには、噴出するノズルが常に一定のFixed Area Type と、運転負荷により噴出ノズル数が変動するSpring Assisted Type に更に分類されます。後者は、ばねの力により、必要冷却水量に応じ噴出ノズル数を制御し、蒸気出口温度を精密にコントロールする事が可能となります。
アキシアルインジェクション(マルチ)タイプの長所と短所は以下の通りです。
長所
・ターンダウン比が大きい
*Fixed Area Type は8:1
*Spring Assisted Type は9:1
・下流側の必要直管長が比較的短い
・圧損が小さい
・比較的安価
短所
・蒸気出口温度が飽和温度の8℃以上
・配管の侵食が発生しやすい
・小口径配管には適さない
・Spring Assisted Type の場合、高圧の冷却水が必要
このように、アキシアルインジェクション(マルチ)はターンダウン比が大きく、幅広い運転負荷に対応することが可能です。そのため、比較的安価でかつ高いターンダウン比が要求される場合に選定されます。
ベンチュリタイプ (Venturi Type)
出典:Spirax
ベンチュリ効果を利用し噴霧ノズル前後にて差圧を生じさせ、噴霧ノズル内と噴霧後の2 段階で減温する構造です。噴出口付近で流速が高く、乱流を生じる為、効率的に蒸気と冷却水が攪拌され、熱交換が促進されます。
ターンダウン比は通常4:1 程度ですが、垂直配管に設置する事でターンダウン比を5:1 程度とすることも可能です。垂直配管に設置する場合、蒸気の流れ方向が上向きに設置しなければなりません。
ベンチュリタイプの長所と短所は以下の通りです。
長所
・駆動部がない
・温度制御を正確に行える(蒸気出口温度が飽和温度の3℃以上)
・必要直管長が比較的短い
短所
・圧損が比較的大きい
・ターンダウンが比較的小さい(4:1~5:1)
・比較的高価
温度制御が正確に行うことが可能で、必要直管長が短いこと、プラントの運転、設計においては大きなメリット。そのため、高いターンダウン比が必要な場合を除き、最も一般的に選定されるタイプの減温器です。
アトマイジングタイプ (Steam Atomizing Type)
出典:Spirax
アトマイジングタイプは、高圧の補助蒸気供給を用いて冷却水を噴霧し、蒸気を減温する構造です。
高圧蒸気により微細な液滴を噴霧する為、他のタイプと比較しターンダウン比が50:1程と非常に大きいことが特徴です。ただし低流量時にドレン水が生じる場合があり、ドレン水回収用配管を設けない場合、運転範囲が狭くなり、ターンダウン比は20:1 程度まで低下します。
アトマイジングタイプの長所と短所は以下の通りです。
長所
・ターンダウン比が大きい(通常50:1程度)
・下流側の必要直管長が短い
・圧損が小さい
・冷却水温度の影響が小さい
・蒸気出口温度が飽和温度の6℃以上
短所
・補助蒸気が必要(メイン過飽和蒸気圧の1.5 倍以上)
・周辺制御機器が必要となり、システム全体として高価
・ドレン水回収配管が無いとターンダウン比が低下する
後述するバリアブルオリフィスタイプは垂直配管にしか設置できないため、要求ターンダウン比が大きく、かつ配管レイアウトの制約で水平配管にしか設置出来ない場合はこのタイプが選定候補となります。
バリアブルオリフィスタイプ (Variable Orifice Type)
出典:Spirax
バリアブルオリフィスタイプは、流路内のプラグが運転負荷に応じ、上下に移動する事で可変オリフィスの働きをする構造です。
運転停止時にはプラグはシートリングに密着していますが、供給蒸気圧力が上昇すると、プラグを押し上げ、プラグとシートリング間でオリフィスを形成します。この時、流速の上昇に伴い圧損が生じ、ベンチュリー効果により冷却水が過飽和蒸気に噴霧されます。
また、プラグにより流速や流れ方向が急激に変化する事で、乱流が発生し効率的に蒸気と冷却水の混合が行われます。
これらの特徴により、ターンダウン比100:1程度と、非常に大きな運転範囲に対応可能です。
しかし、プラグの自重により流速を制御する為、垂直配管にしか設置できないという大きなデメリットがあります。
バリアブルオリフィスタイプの長所と短所は以下の通りです。
長所
・ターンダウン比が大きい(通常100:1程度)
・蒸気出口温度が飽和温度の2.5℃以上
・必要直管長が4-5mと減温器では最も短い
・冷却水の必要圧力が最も小さい
・低流量にも対応可能
短所
・圧損が大きい
・比較的高価
・垂直配管に設置する必要がある
まとめ
今回の記事ではプラントで使用される減温器(デスーパーヒーター)の種類と特徴について解説しました
減温器は過熱低減器やデスパーヒーター(desuperheater)とも呼ばれ、プラントの過熱蒸気(super heated steam)を冷却水と混合させることで、飽和蒸気に近い温度まで減温する際に用いられます。
減温器は配管と冷却水噴霧ノズルにより構成されており、主に噴霧された冷却水の粒径や噴出方向により、液滴の滞留時間が決まり、減温能力が決定されます。
減温器の種類
・ スプレータイプ
・ ベンチュリタイプ
・ アトマイジングタイプ
・ バリアブルオリフィスタイプ
プラントの蒸気系統では必ず設置され、安定運転を継続するためには必須となる機器です。今回の記事で紹介した各タイプはそれぞれ長所・短所があるため、蒸気や冷却水の温度、圧力条件やプラント運転の変動幅に応じて、適切な減温器の選定が行われなければなりません。
今回の記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。