プラントエンジニアリング プロセスエンジニアリング 化学工学 就職・転職・資格

化学工学ってプラントエンジニアリングのどんな場面で使われる?

管理人はプラントエンジニアですが、化学工学系の専攻を卒業したこともあって、社内ではプロセスエンジニアリングに関する部門に所属しています。

 

プロセスエンジニアの仕事については下記の記事を参照ください。↓

 

化学工学という学問がマイナーな学問、というのもありますが、仕事でどのように活用されているか、イメージし辛い方もおられると思います。

実際は、化学工学の知識は工場に関わる仕事であれば誰でも必須となるだけではなく、日常生活においても知っていれば役立つ場面を多くあります。

今回は、プラントエンジニアリングとの関連について焦点をあてているため、化学工学はプラントエンジニアリング業務のどんな場面で使われるか、この記事で解説したいと思います。

合わせて読みたい

・プラントエンジニアはブラックか?プラント設計概要と共に解説
・化学メーカーとプラントエンジニアリング会社はどう違う?【就職・転職】
・【気液平衡】プラント設計で使用される気液平衡の推算モデルの解説
・【物性推算】沸点から蒸発熱、臨界温度を求める方法。「トルートンの規則」と「Guldbergの通則」について解説
・【物性推算】プロセスシミュレーションで使用される物性推算モデルの適用範囲の解説
・【移動現象】粒子の抵抗係数と終端速度の計算方法の解説
・横型タンクの内容量の計算方法の解説~タンクテーブルの作成~
・縦型タンクの内容量の計算方法、タンクテーブルの作成方法
・【吸収塔】吸収塔高さの計算に必要な移動単位数(NTU)を図解法で求める方法の解説
・【転職】(前編)化学メーカーからプラントエンジニアリング会社への転職で有利な点とは?
・【転職】(後編)化学メーカーからプラントエンジニアリング会社へ転職する時の留意点とは?

・海外出張って何を持っていけばいい?必携の持ち物、準備物を徹底解説
・【配管】プラント建設後の配管はどうやって洗浄する?配管洗浄方法の解説
・プレコミッショニングとは?プラント試運転準備作業について解説

・【プラント設計基礎①】基本設計条項(Design Basis)
・プラントエンジニアが投資するべき3つの理由
・高給激務?プラントエンジニアが海外出張でお金が貯まる理由
・【副業】プラントエンジニアにお勧めする副業3選
・【副業】モニターせどりの具体的な手順の解説【プラントエンジニアお勧め】

化学工学の基本分野とプラントエンジニアリングの関わり

Wikipediaによると、化学工学の分野を大きく分けると以下の通りです。

化学工学の基本分野

・移動現象論
・反応工学
・分離工学
・プロセスシステム工学
・プロセス制御工学

それぞれ、プラントエンジニアリングの仕事でどのように活用されているか、解説したいと思います。
※今回の記事では概説なので、それぞれの詳細については化学工学カテゴリから御覧ください。

移動現象論

主に物質、運動量、熱(エネルギー)の輸送に関する分野です。プラントエンジニアリングでは配管のサイジング熱交換器の設計で頻繁に使用します。

 

配管のサイジングは、プラント設計の初期段階で行われます。機器から機器へ原料、製品を輸送するとき、摩擦によるエネルギーの損失(圧力損失)が発生するので、適切に配管径を決めなければなりません。

 

配管径が大きいと圧力損失は小さくて済みますが、配管径が大きいことは配管材料費が嵩むことになりますので、プラント建設コストが悪化します。(大型プラント建設の材料費の半分は配管と言われていますので、プラント全体のコストに大きく影響します。)

 

一方、配管径が小さいと配管材料費も少なくて済みますが、圧力損失が大きくなり、設計通りのプラント運転が出来ません。

 

そこで、マテリアルバランスや様々な運転パターンから、各機器における流量、温度、圧力などの運転パラメータを決定し、機器と機器とを接続する配管における圧力損失を計算することで、最適な配管径を決定します。

圧力損失の計算ではハーゲンポアズイユの式ファニングの式が有名ですね。

 

配管径を決定したら、それをもとにP&IDを作成します。P&IDはプロセス設計部門から配管設計部門に出図され、配管ルートの設計がおこなれます。

配管径が変わると配管ルートも設計しなおさないといけないので、慎重に決定する必要があります。

熱交換器の設計では、まずタイプの決定と伝熱面積の計算を行います。
※タイプの決定方法については別記事で解説したいと思います。

伝熱面積はどの教科書にも載っている通りの下記の式から計算します。

$$Q=UAΔTm$$
Q:伝熱量 [J/s]
U:総括伝熱係数 [W/℃・m2]
A:伝熱面積 [m2]
ΔTm:対数平均温度差 [℃]

プラント設計初期では決定されたタイプと伝熱面積から内部部品(チューブの本数、バッフルの設置位置など)の設計を行い、データシートを作成します。

熱交換器も含めたプラントの機器は長納期品(1年程度、早くても半年)なので、早い段階で計算しなければいけません。

また、伝熱面積についても、基本的にはやりなおしが効かないので、慎重に計算する必要があります。

反応工学

主に反応器内部で起こる化学反応を定量的に解析する分野です。プラントエンジニアリングでは反応器の設計を行います。

 

しかし、実際の業務ではこれらの業務を行うことはあまりありません。

なぜなら、反応器はプラントの中でも最も重要な機器であるために、プロセスライセンサー(プラント設計にあたり、そのプロセスの根幹技術を供与する会社)の特許技術により、ライセンサー自身で設計しており、ブラックボックス化しているためです。
※注:エンジニアリング会社自身がライセンサーとなる場合もあるので、その限りではありません。

 

反応器の設計にあたっては、ラボ試験のデータ(小試)やパイロット試験(中試プラント)のデータを用います。基本的な反応システムはラボ試験やパイロット試験で確立されますから、プラントエンジニアリングでは、実機プラントベースで経済性、運転性を考慮しながら反応器を設計し、熱交換器と同様にデータシートを作成します。

例:
・ラボ試験ではガラス管、パイロット試験では単管式だったものが実機では多管式にする。
・様々な運転パターンでも製品品質を保てるように触媒充填量を決めたり、種類を変える。
・プラントのメンテナンス時に充填した触媒を抜き出せるよう、ノズルを設置する。

分離工学

主に分離プロセスの輸送に関する分野です。吸着、蒸留、ガス吸収、抽出、膜分離、と多岐に渡りますが、プラントエンジニアリングで最もよく取り扱うのは蒸留塔の設計でしょう。

蒸留塔の設計では、まず段数の計算とサイジング及び還流比の決定を行います。

教科書ではMaCabe-Thiele法による図解法や作図で段数や還流比を決定することを学びますが、実際にはシミュレーションによる計算で行います。サイジングについては、適正な塔内流速となるように塔径を決定します。

これらが決まったら、熱交換器の設計同様、内部部品(棚段塔であればトレイの種類、トレイ間隔の決定、充填塔であれば充填物の決定など)を決めていき、データシートを作成します。

蒸留塔の実際の設計手順やデータシート作成についてはこちらの記事で解説しています。

プロセスシステム工学

プラントにおける原料~製品の一連の工程(プロセス)において、それぞれ単独ではなく、システム全体と捉えて、設計・運転の最適化に関する知識を扱う分野です。

プラントは様々な機器、装置が複雑に組み合わさったものですがら、単独では設計通りにだったとしても、複数の機器と組み合わせると設計通りにならないこともあります。これをシステムとしてどのように最適化するか考えることがプロセスシステム工学です。

 

例えば、機器がA→B→C→D→Eと連続していた場合、機器A単体では問題にならない運転変動だったとしても、B、C、Dと運転変動が伝搬、増幅され、下流側の機器Eでトラブルを起こすことがあります。

この場合、機器Aの設計を変えて運転変動を起こさないようにするか、機器BやCで変動を抑える対策を講じるか、などを考えたりします。

実際の業務では、プロセスシミュレーターを用います。化学工学専攻であれば、授業で扱ったことのある人もいるかと思いますが、まさに同じようなものを使用します。

プロセスシミュレーターでは気液平衡の取り扱いが重要な要素です。気液平衡についてこちらの記事で解説しています。

プラント設計の初期段階では、プロセスフローを決め、マテリアルバランスを作成する時に使用したり、各機器のプロセス制御を決定、検証する際にも使用します。また、プラント試運転時においても、試運転前のケーススタディやトラブル発生時の対策検証においてもよく使われます。

プロセスフロー図(PFD)、マテリアルバランスについてはこちらの記事で解説しております。

 

プロセス制御工学

プロセスの制御に関する分野です。プラントエンジニアリングでは、PID制御で頻繁に使われる分野です。

PID制御は制御工学の分野の一つであり、詳細の説明は省きますが、プラントエンジニアリングにおいては、「運転を安定的に行うための制御装置(主に自動制御弁)の制御方式というイメージだけ理解しておけば良いと思います。P&IDとは全く別物なので、少しややこしいですね。

PID制御はP値、I値、D値のパラメータがあり、これらのパラメータを調整(チューニング)することで、プラントの運転変動があったとしても、安定化させることができます。

事前にP値、I値、D値の最適パラメータはある程度は決定可能ですが、実際にPIDチューニングを行うのはプラント試運転時です。

なぜなら、実際の運転では、設計段階では到底考慮できない外乱(外気温の変化、配管内の微小なごみ、機器や設備の寸法誤差)があり、これらの外乱は増幅されて、運転変動という形で現れるからです。

PIDの最適値は、トライ&エラーで求めるしかないので、運が悪いと一つのパラメータを決定するのに数時間かかることもあります。

まとめ

化学工学の各基本分野の中で、プラントエンジニアリング業務で活用される内容は以下の通りまとめました。

主な化学工学の分野

移動現象論:P&ID作図、データシート作成のための圧力損失計算、伝熱面積計算
反応工学:データシート作成のための経済性、運転性を考慮した反応器設計
データシート作成のための蒸留塔の設計(段数、還流比の計算、サイジング)
プロセスシステム工学:プロセスフロー、マテリアルバランス作成のためのシミュレーション
プロセス制御工学:試運転時のPIDチューニング


化学工学自体の学問が非常に実学的な学問なので、大学の授業でならったことは仕事でもすぐに役に立ちます

逆に会社の人からすると、「化学工学専攻だったなら、このくらいは知ってるだろ」というスタンスで接してきます。
(管理人は授業をおろそかにしていたので、会社でもうまく答えられずに慌てて教科書や参考書を引っ張り出してきて勉強しなおした経験があります...)

以上、化学工学はプラントエンジニアリング業務のどんな場面で使われるか、解説しました。

この記事が役に立てば幸いです。ではまた他の記事でお会いしましょう。

  • この記事を書いた人

Toshi

プラントエンジニア/ 技術ブログでプラントエンジニアリング業務に役立つ内容を発信中 / 現在160記事、月7万PV達成 / 得意分野はプロセスエンジニアリング / 化学メーカーからエンジニアリング会社に転職 / 旧帝大化学工学専攻卒 / 海外化学プラント設計、試運転経験有。 保有資格:危険物取扱者(甲種),高圧ガス製造保安責任者(甲種化学),エネルギー管理士(熱)

-プラントエンジニアリング, プロセスエンジニアリング, 化学工学, 就職・転職・資格

© 2024 プラントエンジニアのおどりば Powered by AFFINGER5